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第六回「マドン監督が語る大谷翔平選手」

「SHO TIME AuDee」コラム#6

今年のスポーツ界の顔、スポーツ界を超えて世界を魅了した、アメリカメジャーリーグで大活躍した大谷翔平選手の特集コンテンツ「SHO TIME AuDee」。
大谷選手ご本人はもちろん、大谷選手が所属するエンゼルスのチームのみなさんの貴重なインタビューや、私、赤木ひろこが取材して感じたことなどを交えながら、大谷選手の魅力を10回にわたってお届けしていく。
六回目のテーマは、「マドン監督が語る大谷翔平選手」



Don't miss it. 見逃すな。



「Don't miss it. 見逃さないで。見逃さないでほしい。今、彼がやっていることを。それを見逃さないでほしい。そして、それはとても素晴らしい」
合言葉は、“Don’t miss it!” 見逃すな!マドン監督は、この言葉をメンバー表の一番上に書かれていたそうだ。とにかく、翔平がしている全てを見逃してはならない、この素晴らしい(spectacular)プレーに慣れっこになるな。それだけ、とにかく素晴らしいのだから、という意味が込められている。言い換えれば、「このようなもの見たことがない!」というくらいに、人々の関心を奪っているということ。(spectacular…壮観、大迫力、華々しい、劇的な、あっと言わせる、目を見晴らせる)
さて、先日の凱旋記者会見で、大谷選手は、一番印象に残った試合をこの試合と話していた。

「指名打者を解除した試合は、思い出というか、大きかったかなとは、個人的にもそうですし、今シーズン最後まで戦い抜く中でも、スタートの1試合としてみんなが不安なくスタートするためには重要な1試合だったかなと思うので。そこをバランスよくスタートできたところはすごく大きなところかなとは思います」
実は、マドン監督も、最も印象に残った試合について、大谷選手と同じ試合を挙げている。
「ホワイトソックスとの最初の対戦が好きなんだ。あれですべての疑問が解けました」
大リーグで初めて「2番・ピッチャー」として先発出場した4月4日の今シーズン初登板の試合。公式戦で投打の同時出場は4年目で初めて。DH解除のリアル二刀流。一回表を無失点に抑えると、その裏の第一打席で初球156キロの高め直球を右中間に特大先制2号ソロホームランを叩き込んだ。
「私が聞いたところによると、あの頃はまだ懐疑的な見方もあった。そして、その一つのスイングの瞬間から、全てを変えてしまった。誰もが彼ならできると、信じるようになった。だから、その後に起こったすべての瞬間は、あの一振りで決まったと思っている」
固定概念やセオリーにとらわれない、大胆な采配で知られているマドン監督(67歳)。第一印象も、同じユニフォームを着ていても、どこか個性的で、ユニークな感じを受ける。マドン監督は、最優秀監督賞を3回受賞し、カブス時代の2016年にはチームをワールドチャンピオンに導いたメジャーリーグきっての名将である。

昨シーズンまでは、登板日の前後を休養日にあてていたが、これまでの翔平ルールを今年は取っ払った。マドン監督がこの大きな決断ができたのは、なぜなのか。

「我々には正直、翔平のことは分からない。これまで誰もやったことがなかったのだから。結局、分かるのは彼だけだ。だから、彼に任せる、という形をとった。ルールではなく、誠実さが必要だと常々思っている。彼は、誠実で謙虚な人間だ。嘘を言わない」

マドン監督は、大谷選手は、アメリカに投打の両方をやりたくてやってきたので、そのことを尊重すべき。彼の道を邪魔するべきではない。間違っていたらその時に修正をすればいい、と思った。マドン監督らしい、面白い例え方をされたことがある。

「アインシュタインにモニターをつけますか?付けないでしょう?マイケルジョーダンにモニターを付けますか?付けないでしょう?」と。
そう言った考え方から、結論が導き出されて、マドン監督は、キャンプに入ってすぐに、『休みが必要な時には事前に伝えて』と、大谷選手に言って、その後、マドン監督は翌日のスケジュールを決めるために、ほぼ毎日、大谷選手とコミュニケーションをとったそうだ。監督によると、大谷選手は自分の状況を率直に伝えてくれるので、コンディションを正確に把握できたという。

実際に、大谷選手も、この前の凱旋会見で、シーズン始まる前のことを次のように語っていた。

――今シーズンは、登板日の前後も試合に出たことについて。

「シーズンが始まる前からそういう風な形になると決まっていたわけでなくて、自分が出られると思った試合は監督とコミュニケーションを取りながらやっていこうという感じでスタートして、思ったより出られるねという感じでシーズンを通してできたので、それができるとわかったことがいちばんよかったことというか、来年につながるところかなと思っています」

大谷選手もマドン監督も、今シーズンの最も印象的な試合を、4月4日のまさにリアル二刀流の、DHを解除した先発登板の試合の日を挙げた。それもキャンプの時から、毎日、コミュニケーションを取りながら、お互いを尊重しあい、お互いを信じて、同じ方向に向かって歩んできたからこそ。それが間違いなかった、と確信した日だったのではないかと思う。

なぜ二刀流が成功したか?

マドン監督は大谷翔平選手の本質について次のように語る。

「前にも言ったけど、みんなが理解しているかどうかはわからないけど、僕はゲームに対する喜びだと思うんだ。彼はこのゲームをするのが大好きなんだ。
ダグアウトに戻ってきて、自分に腹を立てることもある。でもそれはほんの一瞬のことで、彼はすぐに次の瞬間に移る。彼は違う。彼は同じだが、違うんだ。彼は動揺するが、違うのはすぐに解消する。そして、彼はこのゲームを純粋に楽しんでいる。それが秘訣だと思う。彼の一日の喜び、ゲームへの喜び、そして悪い瞬間を洗い流して次の一日につなげる能力。それこそが、大きな要素で、彼の長所だと思っている」

大谷選手は、ピッチングについて、9月19日試合後の会見で、「8回まで投げていて、楽しかったか苦しかったか?」というストレートな質問に対して次のように答えている。

「どっちもありますかね。もちろんいい打線なので、どれくらい投げられるかなと言うのもありますし、単純に自分が投げているボールの良し悪しを判断しながら試合をコントロールできる面白さも勿論あるので、それはどちらもあるかなと思います」
動揺すること、自分に腹を立てることがあったとしても、一瞬で気持ちをきりかえる。大谷選手は、そこが、最も違うところ。それは、本当に、なかなかできるようでできない難しいことだ。


ユニークなマドン監督、表現も面白い。



9月17日(日本時間18日)の試合前、マドン監督が、試合前恒例のベンチでの囲み取材に、スラダンTシャツで登場した。紺色のTシャツに白というか生成りの文字で「下手くその上級者への道のりは、己が下手さを知りて一歩目」と書かれていて、文章の真ん中に、赤ふちのメガネマークが描かれている。登場するなり、アメリカ人記者の方から、それは翔平が好きなフレーズか?と聞かれて、Oh, yeah!と。黒のサングラスをしていたけれども、間違いなく、ニヤリとした表情は見逃せない。このフレーズ、皆さんも良くご存知の通り、人気漫画「スラムダンク」でバスケットボール部監督の安西先生が猛練習に励む主人公・桜木花道に贈った言葉だ。マドン監督自身の慈善団体「RESPECT90」の活動の一貫でカブスの監督時代から日本語Tシャツをつくり始めたそうで「日本語のTシャツを復活させようと思い、その話を大谷選手と、水原通訳にしたところ、自分の持っている複数のフレーズを見せると、彼らはこの言葉がいいというのでこれに決まった」と説明した。マドン監督は、作品自体は知らなかったものの、この言葉については、「失敗を恐れず、自由に堂々とゲームを楽しむという意味」と受け止めていて、報道陣から「白髪、メガネ、名将という安西先生と似ていますね」、と共通項を指摘されると、画像を確認して、「これは私ですね。素晴らしい」と、喜ばれていた。日に日に、このTシャツを着て練習に登場する人が増えていった。失敗を恐れず、自由に堂々とプレーを楽しむ。安西先生と、桜木花道に、マドン監督と、大谷選手が重なる、オーバーラップする2人の固い信頼関係と信念が伝わるものになった。



すでに気持ちは来季に向かって

さて、そんなマドン監督、11月19日に発表されたMVP受賞に関して、次のようにお祝いコメントを送っている。
「翔平は投打の両方で最高の選手になるためにアメリカに来た。そして彼は高いレベルでそのミッションを達成した。この賞は彼が今まで成し遂げたどんなものよりもモチベーションになるだろう。彼のプレーが、私たちの目標の最後の試合(ワールドシリーズ)での勝利にどのように貢献してくれるか、楽しみで待ちきれない。翔平と家族の皆さん、本当におめでとう」
大谷選手も来季に向けて、このオフに重点的に取り組むことを次のように挙げている。

――このオフに重点的に取り組むことと来年の目標は?

「いちばんはフィジカルを保っていくというか、さらに向上させるところかなと思うので、まだ100%、120%というわけではないので、もっともっとやる余地はあるかなと思っていますし、キャンプインまでにそこをしっかり詰めていって、そうすれば必然的にスキルの部分でも気付くことが多くなってくると思うので、あとはそこからのすり合わせはスプリングトレーニングに入ってからかなと思います」

――そして来年、今年よりももっとやれるというイメージはできているのだろうか?

「バッティングもそうですが、特にピッチングはまだイニング数はそこまで多くはないので、数を増やしていければもともっと高いレベルで数字が残るんじゃないかと思っています」

すでに来シーズンに向かっている。二刀流の成長は続いていく。
マドン監督の合言葉、“Don’t miss it!” 見逃がすな!は、アメリカだけでなく、世界中へ、そして地球レベルで広がる。
見逃せないショータイムは、まだ始まったばかり。

赤木ひろこ(メジャーリーグベースボール・リポーター)



「SHO TIME AuDee」#6
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