今年のスポーツ界の顔、スポーツ界を超えて世界を魅了した、アメリカメジャーリーグで大活躍した大谷翔平選手の特集コンテンツ「SHO TIME AuDee」。
大谷選手ご本人はもちろん、大谷選手が所属するエンゼルスのチームのみなさんの貴重なインタビューや、私、赤木ひろこが取材して感じたことなどを交えながら、大谷選手の魅力を10回にわたってお届けしていく。
九回目の「SHO TIME AuDee」のテーマは「強打者の条件」。
“5ツールプレイヤー”という呼び方がある。走攻守の全てに優れていて、打率、長打力、走塁(走力)、守備力、送球(肩の強さ)の5つの能力が一定水準以上に高いプレーヤーを指すそうだ。
エンゼルスの広報、コミュニケーションズマネージャーのMatt Birchさんは、次のように話す。
「ここ数年、マイク・トラウトは5つのツールを備えた選手として登場して、野球場でできることはすべてやってのけるとみんなが話していたように、それは野球にとって素晴らしいことです。そして、翔平がやってきて、その5つのツールのすべてをこなし、さらにはピッチングもこなす。だから、彼は野球場でできることは、何でもやっていて、これまで野球をやってきた誰よりもうまくやっているんです」
マットさんが言われるように、5ツールプレイヤーというと、マイク・トラウト選手、そしてまさに大谷選手もそうだが、さらにはピッチングもこなすと付け加えていて、今までの5ツールプレイヤーという枠を超えていると言っている。打撃に絞ると、ポイントは、長打力と、打率との両方を兼ね備えていて、さらにはそれが群を抜いているということ。
そして、第6の能力として、Patience、5ツール以上に希少価値の高い最重要ファクターとされている、打席内の自制心、フォアボールを選ぶ技術、選球眼のことだそうで、フォアボールと、そして強打者になればなるほど、切り離せないのが申告敬遠である。
強打者の証、申告敬遠
9月22日(日本時間23日)本拠地アナハイムでのヒューストン・アストロズ戦での試合。3番指名打者で先発出場。逆転して迎えた7回2アウト2塁の第四打席、申告敬遠で勝負を避けられた時のスタジアムでは、大ブーイングが起きた。アストロズはポストシーズン進出をかけて戦っていたので、ひとつも負けられない、大谷選手に打たれることだけは絶対に避けたいのだろうけど、スタジアムは、「えー」「勝負してー」という声で、騒然となった。しかも大谷選手は、この時、ホームラン王争いの真只中でもあった。
申告敬遠といえば、それだけ警戒されているということ。言い換えれば、まさに強打者の証である。トラウト選手自身も、2018年の敬遠数は25。MVPを獲得した19年が14。大谷選手の今シーズンの敬遠数は、実に20回だった。トラウト選手は、9月に入って、フォアボール攻めに直面している大谷選手に、次のようにアドバイスを送ったそうだ。
「私は彼に、ただ我慢するように言っています。そして明らかに彼は我慢しています。相手チームは試合に勝つためにやっているので、打席では自分らしく、そしてアプローチを変えるな。相手に引っ張られて乗っかるなと言った。彼は、逃げることなく、今のところ素晴らしい」
さらにトラウト選手は、大谷選手の、打者としての成長を、次のように、語っている。
「ボール球に手を出さない打席内での選球眼、バットを芯でとらえる技術。全てが良くなっていて、打つ度にボールを打ち抜いている感じ。とにかく彼が打席に立つと、全てのことをやめて集中して彼の打撃を見たい」
大谷選手は、3試合で11個のフォアボール、そのうち申告敬遠は5つ。
2021年、ナ・リーグのMVPになったフィリーズのブライス・ハーパー選手が、2016年に作ったMLBの記録に並んだ。
9月26日の会見で、ここ最近フォアボールが多くなって、3試合のメジャー記録を作っているが、それに関してはどう思うのだろうか?という質問に、淡々と次のように答えた。
「打線の中の一人として、歩かせるというのは、もちろん僕も歩かせたことありますし、普通の選択だなと思うので、むしろマリナーズ的には今日投げるって決まっていましたし、変な話ぶつけてもいいんじゃないかなくらいの中で、敬遠というのは至って紳士的な作戦じゃないかなと思うので」
“紳士的な作戦”と表現して、全く動じる様子がなかった。
またさらにはこの頃は、ホームラン王争いも佳境に入っていた大谷選手、そういう時であっても、バントを積極的に選んだ打席もあった。
9月19日の会見でバントヒットを狙った場面、ホームラン王争いをしている中であの打席はどういった心境だったのだろうか?という質問に
「トップだったので単純に、ヒットというかフォアボールでも良かったですけど、まずは塁に出ると言うのが、一番大事でしたし、チームとして抑えられている中で、ブンブンブンブン個人的に振っていってもしょうがないところではあるので、まあ、一番確率の高そうな、ものをチョイスしたという感じですかね」
モチベーションを高く持つ
マットさんは、数字的記録について、大谷選手から、毎日のように質問を受けているという。
「彼は、自分よりも他の選手について質問することが多いんです。
だから、ホームランに関するさまざまな記録や、最近のフォアボールの記録などいくつかを聞いてきます。でも、多くの場合、彼は自分のことよりも他の選手のことを聞きます」
マットさんは、さまざまな記録に関する質問の中から、大谷選手が、明らかに、史上最高の選手のひとりになりたいという、高いモチベーションを感じると言われた。
大谷選手が常に、どんな状況であってもモチベーションを高く持っていることが感じられるコメントがある。
ホームラン王争い、追われる展開と追う展開の両方を経験し、改めて、その経験をして得たもの、課題とかは?と10月3日(日本時間4日)の総括会見で聞かれ、次のように答えた。
「単純に貴重な経験をさせてもらってるなという印象かなと思います、そういうふうに色んな選手から刺激をもらって1年間良いシーズンを過ごせたというのは選手として良い経験になったなと思います」
またホームラン王争いをしていた、ペレス選手やゲレーロ選手について、競い合うライバルがいることについては?(9月26日の会見)
「ペレス選手はオールスターでも組みましたし、人柄は、ゲレーロ選手もそうですけど、とても謙虚で、素晴らしいプレーヤーですし、グランドの外でも謙虚で、人としても素晴らしいなと言う印象だったので、プレーヤーとしても刺激を受けていますし、打撃なんかを見ていても、僕としてもとても勉強になる部分がたくさんある、いい刺激をもらって、1年間野球ができているなと思います」
そして最終戦のシアトルでのマリナーズ戦。マリナーズは20年ぶりのポストシーズン進出をかけて一つも負けられない緊迫した勢い、さらに大谷選手に対する敬遠は続いた。そんな中、最終戦の10月3日(日本時間4日)、大谷選手は先頭打者でいきなり46号のホームランを打った。
シアトル・マリナーズの専属のキャスターを38年に渡り務めているリック・リズ(Rick Rizzs)キャスターは、長きにわたりメジャーリーグに携わり、様々な歴史を目撃してきた。2001年のイチロー選手の送球を“レーザービーム”と実況した、その表現は、それ以来、日本にも伝わった。10月3日(日本時間4日)の試合前に大谷選手について聞きた。
「彼がやっていることは、野球というゲームの中で、打者と投手を同時にこなすという、1919年のベーブ・ルース以来行われていない歴史的なことだと思います。時速100マイルの球を投げ、投球もうまく、しかもアメリカン・リーグのトップバッターの一人になれるなんて、彼のやっていることは本当にすごいこと。大谷翔平が野球場でやっていることは、何年も何年も記憶に残るシーズンになるでしょう。これほど高いレベルでパフォーマンスを発揮するのは、本当に驚くべきことなんです」
私はこの時に、リック・リズさんが、「彼が今年のMVPで間違いない」と言われたこと、そして「MLBにとって最高の選手で大切な選手だ」と言われていたことを印象強く覚えている。
今回は強打者の条件というテーマで、特にその証である申告敬遠について、焦点をあてた。11月15日に行われた大谷選手の凱旋帰国の会見で、敬遠に対する心の持ち方や対処法についての質問に対して、大谷選手は、次のように語っている。
「もちろん主軸のバッターがケガで離脱しているっていうのが、いちばん増えている要因ではあるので、おそらく来年はそういう風にはならないと思いますし、僕以上にいいバッターがラインアップに並ぶので、そういう意味では今年みたいな攻めにはならないかなとはもちろん思っていますし、なったとしても今年の経験を踏まえて冷静にバッターボックスの中で自分の仕事ができれば必ずいい成績が残るんじゃないかなと思っています」
長打力と打率、どちらも秀でていて、さらには強打者には絶対切り離せない敬遠。そこに立ち向かうための常に冷静な心、そしてモチベーションの高さが必要。
“なったとしても今年の経験を踏まえて冷静にバッターボックスの中で自分の仕事ができれば必ずいい成績が残るんじゃないかなと思っています”というコメントは、すごく力強い。
ピッチャーの大谷選手、バッターの大谷選手、マウンドだけでなく、打席だけでもなく、全てにおいて、一挙手一投足を見逃したくない。
次回は「ベーブルースと大谷翔平選手」というテーマでお送りする予定。
赤木ひろこ(メジャーリーグベースボール・リポーター)
「SHO TIME AuDee」#9
音声版は
こちら