村上春樹さんと、村上さんがDJをつとめる音楽番組「村上RADIO」とユニクロがコラボレーション!ユニクロのグラフィックTシャツブランドのUTから素敵なTシャツコレクションが出来上がりました。

デザインは8タイプ。村上さんの書籍イラストをはじめ、『ノルウェイの森』や『1Q84』など、村上さんの代表的な長編小説や、音楽番組「村上RADIO」の世界観をTシャツでデザイン化しました。村上ワールドが存分に楽しめるコレクションです。またピンズやステッカーなどのグッズも同時販売。全国のユニクロ店舗とオンラインサイトで3月8日(月)から発売開始です。 村上RADIO X ユニクロUTコラボTシャツ 2021年3月8日(月)発売!ユニクロオンラインサイトはこちら Twitterフォロー&ツイートキャンペーン実施中

村上RADIOとは?

『村上RADIO』は、小説家村上春樹が自らDJをつとめる大人気ラジオ番組。作家デビュー40年を迎える前年の2018年夏に第1回がオンエアされ(TOKYO FMをはじめとするJFN38局ネット)、2021年2月に第21回目が放送された。
これまでTV・ラジオなど音声メディアに登場することのなかった村上春樹が、2か月に1度、自らの声でリスナーに語りかけ、独自のエピソードをまじえて“とっておきの音楽”を選曲する『村上RADIO』は、文学ファン・音楽ファンから支持され、一躍人気ラジオ番組となった。
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日本が、新型コロナウイルス(Covid-19)の緊急事態宣言下にあった2020年5月、村上DJの自宅書斎から放送された『村上RADIO ステイホーム・スペシャル ~明るいあしたを迎える音楽~』はリスナーを温かく励まし、話題を呼んだ。この特別編は2020年度の民放連賞(日本民間放送連盟賞 ラジオエンターテインメント部門)最優秀を受賞している。

村上春樹がずっと続けてきたこと。それは、音楽のように小説を書き、小説を書くために身体を鍛えること――。


この35年、必ず一年に一度はフル・マラソンを走ってきたという村上春樹。走ることについて、 「小説を長いあいだにわたって書き続けるのって、基礎体力がない となかなかできないんです。だからあるとき走らなくちゃと決めて、それ以来 ずっと走り続けてきました」
と語る。村上春樹は走るときに聴くためのiPodを何台も持っているらしい。
「ドアーズやマーヴィン・ゲイやチリペッパーズ・・・・・・、旅するときや、ジョギングするときや、用途に合わせてクラシックからジャズからロックまで、それぞれにいろんなジャンルの音楽を入れて持ち歩いています。走るときにはやはりアメリカン・ロックを聴くことが多いかな」
番組では村上春樹が所有するレコードやCDをスタジオに持ち込み、その曲について、音楽や文学について、そのほかいろんなあれこれについて、本人の声で 語っていく。
さて”村上ディレクター”はどんな選曲をしてくれるだろうか・・・乞うご期待!

――番組HP第1回(2018.8月5日放送回)より
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特別番組 村上RADIO~Tシャツ・サマー~

特別番組 村上RADIO~Tシャツ・サマー~

村上春樹です。
村上RADIO、今回は特別番組「Tシャツ・サマー」をお送りします。まだ夏というには早過ぎますが、やっぱりTシャツといえば夏ですよね。世間よりは一歩早く夏を楽しみましょう。
今回は夏を思わせる、すかっとしたインストルメンタル音楽を中心にかけます。
 
今でこそTシャツは市民権を得ていて、夏になると街は色とりどりのTシャツ姿の人々で溢れます。でもそんな風に気軽に外でTシャツが着られるようになったっのって、割に最近のことなんです。そういうお話もしますね。  
Hi-Heel Sneakers
Booker T. & The M.G.'s
Stax
最初は僕の大好きなインスト・グループ、Booker T. & The M.G.’sの演奏する「ハイヒール・スニーカーズ」です。
 
ブッカーTのオルガン、スティーブ・クロッパーのギター、ドナルド・ダック・ダンのベース、アル・ジャクソンのドラムズ、鉄壁のメンバーですよね。
何年か前に日本にオリジナル・メンバーでやって来まして、僕も青山のブルーノートに聴きに行きましたが、やっぱりカッコよかったです。痺れました。昔とまったく同じ音がしているんです。いわゆる「メンフィス・サウンド」です。
Oh, Pretty Woman
The Ventures
EMI / USA
インスト・グループというと、やはりべンチャーズを忘れるわけにはいきません。今日おかけするのは「オー・プリティ・ウーマン」、ロイ・オービソンの1964年のヒットソングです。
これは流行りました。べンチャーズの音楽というと、なんかもう伝統芸能みたいになってますよね。夏の風物詩というか…。でもこのリズム、とことんシンプルで説得 力があります。この独特のドライブ感って、オリジナル・べンチャーズにしか出せないものじゃないかと、僕はひそかに思っています。

Tシャツの話①

こんな風に気軽にTシャツが外で着られるようになったのって、割に最近のことなんだ…という話でしたね。実を言えば、1960年代まではTシャツって、労働者階級か不良が着るものだったんです。
たとえば映画俳優でいうと、マーロン・ブランドとか、ジェームズ・ディーンとか、世間一般からはちょっとはぐれたポジションにいる人たちが、Tシャツにジーンズ、それに革ジャンという格好で街を歩き回っていました。けっこうワルがかかったものだったです。それも柄の付いてない白のTシャツです。白のくたっとしたTシャツが、社会に向けた意志表明みたいなものだったんです。良家の子女はそんな格好はしません。

Tシャツの話②

たとえば、映画の「アメリカン・グラフィティ」を観ても、良い子はみんな襟付きのボタンダウン・シャツを着ています。それが決まりみたいなものだったんです。この映画の中で襟なしの素敵なTシャツを着ている登場人物は、13、14歳のおしゃまな少女キャロルだけです。彼女が着ているのは、「デューイ・ウェーバー(DEWEY WEBER)」というサーフボードのメーカーのTシャツです。彼女はビーチ・ボーイズのファンだったから、そのTシャツがお気に入りだったんでしょうね。僕も映画を観てから、あのTシャツを手に入れました。これはなかなかかカッコいいんです。
Wouldn't It Be Nice?
Royal Philharmonic Orchestra
Intersound
夏といえば鰻ですが、また同時に夏といえばビーチ・ボーイズの季節でもあります。今日は英国のオーケストラ、ロイヤル・フィルハーモニーの演奏するビーチ・ボーイズ・チューンを聴いてください。「ペットサウンズ」のA面一曲目に入っている「素敵じゃないか(Wouldn't It Be Nice?)」、マイケル・トンプソンのギターがフィーチャーされています。なかなか大がかりな演奏になっています。

Tシャツの話③

そういえばこの間、映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の中でブラッド・ピットが「チャンピオン・プラグ」のTシャツを着ていましたね。あれも一時期はやりました。それからジョン・ミリアスのサーフィン映画「ビッグ・ウェンズデー」に出てきた架空のサーフショップ「ベア」のシャツもかっこよかったです。流行りました。
僕もまだ一着持っています。ちゃんと着ています。
でも思うんだけど、白の無地のTシャツを着こなすのって、なかなか難しいんですよね。あまりぱりっとした新品では様にならないし、かといってくたっとしすぎていてもみっともないし、あれって、やはりマーロン・ブランドとかジェームズ・ディーンじゃないと決まらないかもしれません。
More
Kai Winding
Ace
モア~映画「世界残酷物語」より
藤原真理
デンオン
次は映画音楽です。『世界残酷物語』の主題曲っていうと、なんかおぞましい音楽を想像しちゃいますが、実はとてもロマンティックなメロディーです。
「モア(More)」。これほど大いなる恋はほかに存在しない――というかなり大胆な内容の歌です。ジャズ・トロンボーンのカイ・ウィンディングのグループが演奏しますが、よく聴いていないとトロンボーンが聞こえない、どこにいるんだろうという、割に変わったアレンジになっています。活躍するかっこいいギターはケニー・バレルです。

同じ曲「モア」を今度はクラシックのチェリスト、藤原真理さんが演奏します。同じ曲でも演奏スタイルが違うと、ぜんぜん雰囲気が変わっちゃいますよね。みなさんはどちらがお好きでしょう?

Tシャツの話④

まあ、とにかくそんなわけで、デザインTシャツみたいなのは、1960年代にはほとんど見かけませんでした。Tシャツって基本的には下着だったんです。
でも1960年代の末にくらいになって、若者たちが社会体制に対してどんどん反抗的になり、それにつれて彼らの服装もガラリと変わってしまいます。Tシャツを着たり、髭を伸ばしたり、ぼろぼろのジーンズを履いたりすることが、若者にとってのひとつの態度表明みたいになりました。
今では、そういう反抗的な態度表明みたいな要素は薄らいでしまいましたが、いろんな図柄やメッセージの描かれたTシャツを着て表を歩くことで、みんなが気楽に、それぞれに何かしらの自己主張をできるというのは、やはり素敵なことだと僕は思います。
僕はけっこうたくさんTシャツを持っていまして、『村上T 僕の愛したTシャツたち』というTシャツの本まで出しています。別に集めようと思っていたわけじゃないんですけど、「お、これいいな、これ素敵だな」と思って買っているうちに、ついつい手元に溜まってしまいました。Tシャツって、値段も高いものじゃないですしね。気軽に買ってしまいます。
Sukiyaki
Martin Denny
EMI-Manhattan Records
エキゾティック・サウンドで一世を風靡したマーティン・デニー。なんでもかんでも、とにかくトロピカルなアレンジメントにしちゃおうという、割にユニークな人ですが、坂本九さんの「上を向いて歩こう」、別名「スキヤキ」を、パシフィックリム・ムード満載で強引にやってのけます。中には眉をひそめる人もいるかもしれませんが、でもね、僕はこのアレンジメントが昔から割に好きです。

最後のドラがいいんだよね。さすがにこれ評判が悪くてもっとストレートに演奏した盤が出ていて、今はそちらが一般的になってるんだけど、僕はこれが昔から好きです。
Reptile
Eric Clapton
Reprise Records
今回のクロージング音楽はエリック・クラプトンの「レプタイル」です。
Reptile、爬虫類のことですね。クラプトンさんたちは子供の頃、かっこいい、シャープな大人たちのことを、尊敬の念を込めて「レプタイル」って呼んでいたんだそうです。
今回は歌のない音楽をずっと聴いてもらったわけですが、いかがでした?たまにはこういうのもすっきりしていいですよね。なんか夏っぽくて。
僕は夏になると、だいたいいつもショートパンツとTシャツで暮らしています。とても楽でいいです。いつまでもTシャツとショートパンツの似合うシャープな「レプタイル」でいたい……というのが僕のささやかな希望です。他にもう特に希望といえるほどのものはないんですが、まあ、その線でがんばりたいと思います。
それではまた。