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村上春樹「野球でいえば“二軍クラス”のアルバムの中から、“自分なりの1曲”を見つける楽しみって大事」レコードの“ジャケ買い”に言及

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。12月25日(日)の放送は「村上RADIO~アナログ・レコード年末在庫整理~」をオンエア。

今回お届けしたのは、村上さんが海外の中古レコード屋さんで、1枚1~2ドルくらいで買ってきたレコード。しばらく聴いていなかったレコードを、1枚1枚きれいに磨き、久しぶりにLPの両面をしっかり聴いて選曲したという村上DJセレクトの楽曲をオンエア。この記事では、その一部の内容・中盤3曲について語ったパートをお届けします。


◆Mel Torme「Time」
メル・トーメをかけます。メル・トーメは小洒落たジャズ歌手として活躍しましたが、1960年代半ばにアトランティック・レコードを離れて、コロンビアに移籍しました。でもコロンビアではジャズを歌わせてもらえず、主にポピュラー歌手として売り出されることになりました。メジャーの会社って高い契約金は出すんだけど、会社の営業方針の縛りがきつくて、なかなか好きなことをさせてもらえないんですね。トニー・ベネットも同じような目にあって、ぶち切れて飛び出してしまいました。まあ、マイルス・デイヴィスくらいになると、もうやりたい放題ですけど。

このメル・トーメの『Right Now!』というアルバムも、全体として毒にも薬にもならないというか、あまり面白いものじゃないです。ただこの「Time」という曲に関しては、メル・トーメのカバー・バージョン、僕はけっこう気に入っています。オリジナルはポゾ・セコ・シンガーズ。なかなか良い曲なんだけど、他に歌っている人があまりいないみたいです。

◆Doc & Merle Watson「All I Have To Do Is Dream」
盲目のシンガー、ドク・ワトソンが息子のマール・ワトソンと組んで歌います。エヴァリー・ブラザーズのヒットソング「All I Have To Do Is Dream(夢を見るだけ)」。ドク・ワトソンはブルーグラスからフォーク系の歌手なので、こういうポピュラーソングを取り上げるのは珍しいです。

1978年10月、サンフランシスコの「グレート アメリカン ミュージックホール」での実況録音です。これ、とても素敵なアルバムなんですけど、ジャケットには、99セントっていう値札がまだ貼ってあります。

<収録中のつぶやき>
数万円クラスの珍しいレコードを99セントの箱で見つけてね、「やった!」という感じだった。震える手でなにげない顔をしてレジに持っていった(笑)。

プレミアムなアローンアゲイン(男性、青森県)からいただいたメールです。
これまでのコレクションで「なんでこんなもん買っちまったんだろ」と思うようなモノはありますか? また、ジャケ買いした作品のアタリやハズレの感想などもありましたら聞いてみたいです。“ジャケ買い”って、お金をどぶに捨てるかもしれないドキドキ感がありますよね。

*  

はい、買って失敗したレコード、そんなの星の数ほどあります。そういうのは、だいたいすぐに処分しちゃいます。売っては買い、買っては売る、というのがレコード・コレクションの王道です。買ったことをいちいち後悔しているような暇はないです。

でも、僕は思うんだけど、全体としてあまりぱっとしないアルバムであっても、中に1曲だけでもキラッと光るもの、「なかなかこれ悪くないかも」と思うものがあれば、それでいいんです。それで元は十分取れます。そういう野球でいえば“二軍クラス”のアルバムの中から、“自分なりの1曲”を見つける楽しみって大事ですよね。

◆Herb Alpert & The Tijuana Brass「My Heart Belongs To Daddy」
このA&Mレコードのサンプル盤も、まあなくてもいいようなものなんだけど、ここに入っているハーブ・アルパートとティファナ・ブラスの「My Heart Belongs To Daddy(私の心はパパのもの)」が、なかなかぴりっと引き締まった演奏なので、いちおう処分せずに残しています。エラ・フィッツジェラルドとかペギー・リーの歌で有名になった曲ですね。聴いてください。

<収録中のつぶやき>
ハーブ・アルパートとティファナ・ブラスなんて、ほとんど聴かないけどね。この演奏は個人的に好きで、なぜか持っている。なにかで使えるかもしれないと思ってとってあったんだけど、確かにいま使っているわけだけど。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~アナログ・レコード年末在庫整理~
放送日時:12月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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