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村上春樹 カセット、MD、LD、VHS…「みんな現役で使っています」“ハードウェア・ビジネス”に言及

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。12月25日(日)の放送は「村上RADIO~アナログ・レコード年末在庫整理~」をオンエア。

今回お届けしたのは、村上さんが海外の中古レコード屋さんで、1枚1~2ドルくらいで買ってきたレコード。しばらく聴いていなかったレコードを、1枚1枚きれいに磨き、久しぶりにLPの両面をしっかり聴いて選曲したという村上DJセレクトの楽曲をオンエア。この記事では、その一部の内容・後半4曲、“今日の言葉”について語ったパートをお届けします。


◆Patti Page「Hush, Hush, Sweet Charlotte」
次は映画音楽を聴いてください。ロバート・アルドリッチが監督した1964年の映画「ふるえて眠れ」のテーマです。ベティ・デイヴィスとジョーン・クロフォードが主演して評判になった映画『何がジェーンに起ったか?(What Ever Happened to Baby Jane?)』の続編のようなサスペンスものなんですけど、ベティ・デイヴィスとジョーン・クロフォードが前作撮影中に大げんかをして、共演不可能になり、クロフォードのかわりにオリヴィア・デ・ハヴィランド出演しています。怖い内容の映画ですし、ベテラン女優同士の争いもまた怖いですが、音楽はとても優しく穏やかです。
Patti Pageが歌います。「Hush, Hush, Sweet Charlotte」。この曲は1964年度のアカデミー歌曲賞にノミネートされましたが、賞はとれませんでした。この年に歌曲賞をとったのは「メリー・ポピンズ」の主題歌「チム・チム・チェリー」でした。僕はヘンリー・マンシーニの「ディア・ハート」がとるんじゃないかって予想していたんですけど。

◆John Mayall「My Pretty Girl」
今度はホワイト・ブルーズを聴いてください。英国のブルーズ歌手、ジョン・メイオールがアメリカに渡って、アメリカの腕利き白人ブルーズ奏者たちと共演します。ギターがハーヴィー・マンデル、ヴァイオリンがドン・ハリス、ベースがラリー・テイラー。1970年7月、ロサンゼルスでの吹き込みです。このへんのレコードも、僕が買った頃はむちゃくちゃ安かったんだけど、今はどうなんでしょうね?
ジョン・メイオールが自作曲を歌います。「マイ・プリティー・ガール」。ハーモニカもジョン・メイオールです。途中で入るラリー・テイラーのベース・ソロがかっこいいです。
     


僕は今でも、アナログ・レコードは言うまでもなく、カセットテープ、ミニ・ディスク、レーザー・ディスク、VHS、みんな現役で使っています。それでしか再生できないソフトがたくさんあるので、使わざるを得ないんです。iPodはランニングとかに便利なので愛用していますが、これも製造中止になっちゃったんですね。なんだかハードウェア・ビジネスにいいように振り回されているみたいな気がしなくもない。肝心の音楽があとに置いていかれるみたいで、音楽ファンとしては寂しいですね。

◆Yvette Giraud「詩人の魂」
珍しくシャンソンをかけます。
イベット・ジローさんがシャルル・トレネの名曲「詩人の魂」を日本語で歌います。イベット・ジローさん、日本語が上手です。
これはいろんなフランス人歌手が日本語でシャンソンを歌っている『シャンソン・アン・ ジャポネ』という日本盤10インチLP に入っているのですが、僕はこれをなぜかハワイの中古屋さんで見つけて、3ドルで買ってきました。中身がなかなかいいんです、これ。

◆<クロージング曲>
Victor Feldman「The Suset(Yuhi Wa Akaki)」


今日は「在庫整理」というだけあって、なんだか手当たり次第にバラバラな傾向の音楽がかかりました。でもまあ、たまにはこういうのもいいですね。いろんな音楽を場合場合で楽しめるというのは素敵なことです。

さて、今日のクロージングはヴィクター・フェルドマンの演奏する加山雄三さんのヒット曲「夕陽は赤く」です。フェルドマンはこのレコードではすべての楽器を自分で演奏し、多重録音しています。とても器用な人で、楽器はなんだってできちゃうんです。

    


今日の言葉は「ニューヨーク・タイムズ」の記事の中の一文です。
僕はその昔、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でルチアーノ・パヴァロッティが主役を演じる、ドニゼッティのオペラ「愛の妙薬」を観ました。さすがにパヴァロッティ、素晴らしい歌唱でしたが、「村の純朴で貧しい青年」という役柄にはちょっと貫禄と体重あり過ぎかなあ……という感はありました。
その翌日ニューヨーク・タイムズを読んだら、こんな評が出ていました。

「ミスター・パヴァロッティは、村の青年というより、村の大きな納屋のように見えた」

うまいこと言うなあと、思わず笑っちゃいましたけど、でも批評家って、好き勝手なこと書きますよね。パヴァロッティさん熱演していたのに、気の毒でした。

それからやはりメト(メトロポリタン歌劇場)で「アイーダ」を観たときにも、名前は挙げませんがアイーダ役の女性歌手がすごく大柄な方でして、最後の迫真のシーンで石の柱にもたれかかると、ピラミッドが内側からぐらっと揺れたんです。客席からも「おお」とため息がもれました。みなさんもドーナッツの食べ過ぎには注意してください。



僕の新しい本『更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち』(文藝春秋)が、先日発売になりました。
一昨年に出した『古くて素敵なクラシック・レコードたち』の続編です。うちにある古いクラシックのアナログ・レコードを数百枚取り上げて、それについて文章を書きました。みなさんの中にも、クラシック音楽が好きな方がたくさんいらっしゃると思います。もしよかったら、書店で手に取ってパラパラ見てください。そしてもし気に入ったらお買い求めください。



今年も御愛聴ありがとうございました。どうか良いお年を。来年もよろしく。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~アナログ・レコード年末在庫整理~
放送日時:12月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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