梅沢富美男「『お前みたいな役者に“壁”はない』と…」役者を辞めることを引き止めた恩師・石ノ森章太郎の言葉とは?

俳優・石丸幹二がパーソナリティを務めるTOKYO FMのラジオ番組「Grand Seiko THE NATURE OF TIME」(毎週土曜12:00~12:25)。各界で活躍するゲストを迎え、毎週1つのキーワードから“自分を支えている本質”を掘り下げて伺っていきます。2023年1月のマンスリーゲストは、俳優の梅沢富美男さん。この記事では、心に残っている漫画家・石ノ森章太郎さんの言葉や女形を始めるきっかけとなった出来事を語っていただいた1月14日(土)放送の模様を紹介します。


(左から)石丸幹二、梅沢富美男さん


梅沢富美男さんは、大衆演劇「梅沢劇団」を率いる両親のもとに生まれ、初舞台は1歳7ヵ月。15歳から本格的に舞台に立ち、20代半ばには、舞踊ショーの女形が話題となり人気を集めます。現在は「梅沢富美男劇団」の座長としてさまざまな役をこなしながら、脚本・演出・振付も手がけ、バラエティや情報番組にも精力的に出演されています。老若男女問わず多くの人を魅了し続ける梅沢さんは、いったい何を大切にしているのでしょうか?

◆お前みたいな役者に“壁”があるか

石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”をお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますでしょうか?

梅沢:今日は「恩師の言葉」について。

石丸:それは一体、どなたでしょうか?

梅沢:石ノ森章太郎先生です。

石丸:あの、漫画家でいらっしゃる?

梅沢:「仮面ライダー」をお描きになった先生ですね。僕が20歳くらいかな? その頃からずっと、石森先生が声をかけてくれて、かわいがってくれたんですよね。

石丸:当時は“石森”章太郎先生でしたね。

梅沢:そうですね。晩年は“石ノ森”章太郎になられていました。先生の奥様のお母様と、うちの母親が友達だったんですよ。

石丸:そういうご縁があったんですね。

梅沢:奥様のお母様が詩吟をやっていましたので、そういう意味では、母親と相性が良くて友達になって、たまたまお母様が先生に声をかけたと思うんですが、(先生が)お芝居を観に来てくれて。僕に「いつでも遊びに来い」って声をかけてくれたんですね。めちゃくちゃかわいがってくれたんですけど、僕が24、5歳の頃に“もう辞めよう”と思ったんです。

石丸:役者を!?

梅沢:はい。僕は15歳で役者を目指しましたから、10年頑張ってきて、そこそこ芝居もできるようになって、ある種、自信を持ったんですね。それで、映画やテレビ、舞台を観たりすると“俺より下手なのに、こいつらはなんでこんなに(俺よりも)人気があるのかな”ってずっと思っていたんですよ。

そこで“やっぱり、こんな小さな劇場でやっているような役者じゃ誰も声をかけてくれないし、いつまでもやっていてもダメだな”と思いまして。24、5(歳)でしたから、つぶしもきくだろうと思って“辞めよう”と。それで、恩師の石ノ森先生に「辞めます」って伝えたんですよ。

石丸:そうなんですね。

梅沢:応援してくれていましたから。先生に「すみません、役者を辞めようと思っています」 って言ったら、いきなり先生が「どうしてだ?」って聞くんですね。でも、話せば長くなるじゃないですか。幼少の頃から頑張ってやってきて、いろんなことがあって辞めるんだ、っていうのを伝えるのも大変だなと思いましたから、「“壁”ですかね」って(答えました)。

石丸:なるほど。

梅沢:そうしたら、いきなり(先生が)ニヤッと笑いましてね、「何を生意気なことを言っているんだ、バカ野郎。お前みたいな役者に壁があるか」って。

こちらは落ち込んで話をしているのに“あんまりだな”ってカチンときたんですけど、「どうしてですか?」と聞いたら、「いいか、“壁”っていうのは、売れて有名になった人が作るんだよ。俺だったら、『何を書いても「仮面ライダー」、何を書いても「サイボーグ009」、何を書いても一緒だね』って言われたら、それが俺の壁なんだよ。確かに、一部の人はお前を役者として認めてくれている。でも、小さい劇場でやっているお前のことを日本中で誰が知っているんだ? お前に壁はない」って。

石丸:厳しい言葉ですね。

梅沢:「その代わり、必ずお前は売れるから頑張ってやれ。自分で壁を作れ」って言ってくれたんですよ。そのときに、頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けまして、“生意気なことを言っちゃったな。よし、もう1回頑張ってやってみよう!”と思いましたね。

石丸:そうでしたか。

◆“下町の玉三郎”誕生のきっかけも石ノ森先生!?

梅沢:その半年後に、石ノ森先生が、大好きなちあきなおみさんの「矢切の渡し」のレコードを持って来て、「今度、観に行くから、これを踊ってくれないか?」って言われまして。「はい、分かりました」ってレコードをもらって、兄貴のところへ持って行って、「石ノ森先生が“『矢切の渡し』を踊れ”って言うんですけど」って相談したら、兄貴が「お前、この歌を聴いたことがあるのか? この曲は“つれて逃げてよ……”“ついておいでよ……”って、2人で踊る相舞踊なんだよ。兄ちゃんは女形はやったことないし、できないからお前がやれ」って。

石丸:また無茶ぶりですね(笑)。

梅沢:いきなり「女形をやれ」って言うんですから(笑)。

石丸:(梅沢さんも)女形の経験はなかったんですか?

梅沢:全然ないし、嫌でしたよ(笑)。うちに女形さんはいましたけど、“俺は立役(男の役を専門に演じる俳優)だから、やらなくても良いかな”って思っていましたから。

でも、石ノ森先生と約束しちゃったから、やらなきゃダメだなと思って「どうやったら良いんですか?」って兄貴に聞いたら、「お前は女が好きなんだから、女を見れば良いだろ」って(笑)。

石丸:そんな乱暴な(笑)。

梅沢:演劇に対しては意外と素直なので“そうだな”と思ったんですよ。女の人を演じるんだから、女を見れば良いんだなって。

石丸:観察ですね。

梅沢:そうです。

石丸:どんな観察をされましたか?

梅沢:当時は芸者さんもまだ活発だったので、(東京の)大塚にも花柳界があったんですよ。クラブのママさん、バーのママさんもたくさんいましたから、研究材料としては非常に豊富でした。夕方に銭湯へ行くと、芸者さんが支度するためにお風呂に入りに来るんです。その様子を電信柱から見て、“浴衣を着て、こうやって歩くと色っぽいんだなぁ”って思っていたら、交番のお巡りさんに捕まってしまって(笑)。

石丸:そりゃそうでしょうね(笑)。

梅沢:「お前、何をやっているんだ」って言うから「女形の研究」って答えるんですけど、誰も信じてくれませんから。「ちょっと来い」って連れていかれて、その後、兄貴が迎えに来てくれました(笑)。そして、石ノ森先生が観に来るときに「矢切の渡し」を兄貴と2人で踊ったんですよ。

石丸:その研究の成果は出ましたか?

梅沢:お客さんがビックリしたんですよ! 自分でも化粧していて“え!? こんなに変わるんだ!”ってビックリしましたもん。

石丸:梅沢さんは色っぽいお顔ですもんね。

梅沢:舞台に上がったときに、お客さんがワーッと騒ぎましてね。いつも観に来てくれているお客さんなのに、僕が演じていることに気づかなかったんですよ。梅沢富美男ではなく“新しい役者さんが出てきた”と思って、大絶賛されたんです。(舞台後に)先生に挨拶をしに行こうと思ったら、先生は何も言わずニヤッと笑って帰っていかれました。

その舞台がきっかけで、マスコミの方たちが僕を取材に来たんです。ちょうど、歌舞伎の坂東玉三郎さんがワッと売れたときでしたから、“下町にも玉三郎がいるよ”ということで「下町の玉三郎」という名前がついて。

石丸:あの時代だったんですね。僕は学生でしたけど、梅沢さんの舞っていらっしゃる姿を観て“この人の素顔はどんなんだろう?”って。

梅沢:これです(笑)。

石丸:(笑)。

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<番組概要>
番組名:Grand Seiko THE NATURE OF TIME
放送日時:毎週土曜 12:00~12:25
パーソナリティ:石丸幹二
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/nature/

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