“子ども連れ”は並ばず優先入場できる「こどもファスト・トラック」…普及のカギと問題点は? 専門家が解説

モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。5月4日(木・祝)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「こどもファスト・トラック」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。


※写真はイメージです



全国のテーマパーク・アミューズメントパークなどでは、行列に並ばずに施設内に入ったり、アトラクションを楽しめたりする「ファストパス」「エクスプレスパス」などのサービスを導入しているところがあります。

「こどもファスト・トラック」(子ども連れ専用レーン)も同様のサービスで、子ども連れが施設や催しなどの列に並ばず優先入場できるものです。今年のゴールデンウィークに合わせて国立科学博物館をはじめ、全国各地の公共施設で設置が進んでいます。

◆GWは「こどもファスト・トラック」を導入した施設も

ユージ:国立科学博物館の他に、どういった施設でこどもファスト・トラックが設置されているのでしょうか?

塚越:4月に少子化対策の一環で開かれた会議のなかで、迎賓館赤坂離宮や国立科学博物館など、全国18の施設と5つのイベントで導入を検討していると報告されています。

そのなかの1つの東京の国立科学博物館は、通常の入り口にこどもファスト・トラックを設置しています。ベビーカーを押す家族や中高生以下の生徒や児童も対象になっています。

一方で、「もっと対象者を増やしてほしい」という要望もあるため、北海道の国立アイヌ民族博物館や大阪の国立民族学博物館では、妊婦も対象にするかを検討しているそうです。

まずは、国公立の施設やイベントでの設置が検討されているのですが、政府は民間のレジャー施設や銀行など、関連団体との調整を進めたいと考えています。

◆ファスト・トラックを設置する狙いは?

塚越:今年3月の記者会見で岸田文雄首相は、こどもファスト・トラック導入の意義について述べています。それによると、子育て中の人から「日本は子育てに冷たい」という指摘を受けていること、欧米では「子育て世帯専用のレーンが公共の場に設置されている」こと、また「周囲の人が手助けしてくれることが多い」と聞いていると話していました。

その上で、日本は「子連れだと混雑するし、肩身が狭い」「公園で遊んでいても、近所迷惑では……と心配になる」といった意見があるので、政府として“子どもファーストな社会”の実現を目標として、今回こどもファスト・トラックを導入したと述べています。

確かに政府はずっと少子化対策に力を入れていますし、数年前には朝の通勤時間にベビーカーで電車に乗ろうとした人が、乗客から「邪魔だ!」と言われたことが(SNSなどで)話題になりました。こうしたこともあって、政府としては社会の意識改革と子どもに優しい社会を目指して“少子化対策”につなげたいという目的もあるのではないかと考えられます。

◆社会の分断を深める可能性も…?

ユージ:うちは子どもが4人いるので、もちろんその気持ちはわかるのですが、一方で、子どもがいない人からすると「邪魔だ!」と思ってしまう気持ちも分からなくはないです。ただ、「子連れだけ不公平だ!」という意見もあるようですね。

塚越:SNSでは「これで子どもが増えるのか?」とか「政府の話題作りなんじゃないか?」といった声もあります。なかには「独身者への嫌がらせだ!」という“ちょっと言いすぎじゃないか”という声もあるということです。

あとは「ベビーカーの優先レーンはいいけど、中高校生は社会のルールを学ぶためにも一般の列で並ばせるべき」といった意見もあります。こどもファスト・トラックでは、中高生も優先対象になっているものもあるんですよね。

ユージ:年齢制限の設定は、少しシビアにしたほうがいいかもしれないですよね。

塚越:難しいところですよね。例えば「中高生はダメだけど、小学生は優先レーンでいいんじゃないか?」とか、細かくなってくると「誰なら優先されていいのか?」といった点で判断が割れます。

また、「優先するなら子どもだけでなく、障がいのある人や高齢者などはどう考えればいいの?」という意見や、「外見ではわからない障がいがある人は、どうすればいいの?」という課題もあり、非常に難しい問題です。優先される人とそうでない人がいると、“ずるい”と思う人が必ず出てきてしまいます。

◆普及に向けた“キーポイント”は?

塚越:基本的には、“政治の力”だと思っているのですが、ファスト・トラックというのを作ると今までは見えてこなかった、あるいは見ようとしなかった社会課題が可視化されます。ファスト・トラックが実装されていくと、社会にはいろいろな人がいるんだ、ということを人々が実感できます。

最終的にはファスト・トラックがなくても、人々が助け合えるようになるのが理想ですが、先ほども言ったように“ずるい”と思ってしまう人が出てくることが非常に問題ですね。

そうすると、「共に生きる=共生」の思想を「強いられる制度=強制」だと捉えてしまい、それがいわゆる社会的な分断を進めることになります。このファスト・トラックにも批判が多いのですが、普及させるとしたら政治の力しかないんですよね。政治的リソースを使って、反感を買ってでも一気にやるしかない。

逆に、それができないのだとしたら社会が分断されてしまうので、やらないほうがいいですよね。やるのなら、それくらい本気でやってほしいですし、政府のやる気が問われる案件かなと思います。


吉田明世、塚越健司さん、ユージ


<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/

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