村上RADIO

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村上春樹「僕の顔を覚えていてくれて…」20年ぶりぐらいに訪れた中古レコード店でのやり取りを明かす

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。6月25日(日)の放送は「村上RADIO~再びアナログ・ナイト~」をオンエアしました。エルヴィス・プレスリーのデビューアルバムから、村上さんがボストンの中古レコード店の1ドル・コーナーで買ってきたレコードまで、自宅から厳選して持ってきたアナログ・レコードを村上DJの楽しい解説付きで紹介しました。
この記事では、前半2曲を紹介した内容をお届けします。



こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今夜はお馴染みの「アナログ・ナイト」です。
僕が自宅から持参したアナログ・レコードをかけます。その合間にいろいろ話をします。たいした話じゃないですけど、猫の頭でも撫でながら気楽に聞いててください。
猫はいない? 困りましたね。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」

僕は今年の1月から5月にかけてボストン近郊で生活しておりまして、暇を見つけて中古レコード屋巡りをし、古いレコードをいっぱい買いました。ニューヨークにも行ったので、ここでもレコードを買い込みました。全部で100枚くらいは買ったかな。ほとんどがジャズですけど、持ち帰り、すげえ重かったです。でもね、中古屋の主人が僕の顔を覚えていてくれて、「おお、あんた久しぶりだな」と5ドルおまけしてくれました。久しぶりっていっても、前にこのあたりに住んでいたのは20年くらい前だから、記憶力がいいんですね。というか、それとも僕がすごく熱心に通っていたからなのか……いずれにせよ、マニアックな世界です。

◆Matt Monro「Wednesday’s Child」
最初に「水曜日の子供」をかけます。Wednesday’s Child、水曜日生まれの子供は悲しみに満ちている。僕も実をいうと水曜日生まれです。それに加えて丑年の山羊座、血液A型という、あまりぱっとしない地味な生まれです。おかげでいろいろとひどい目にあいました。まあ、楽しいことも少しはありましたけどね。全国の水曜日生まれのみなさん、けなげに頑張って生きてください。そのうちにいいこともあります、たぶん。
歌うのはマット・モンロー。「ロシアより愛を込めて」の主題歌を歌った歌手ですね。作曲者も同じジョン・バリーです。
これは古い映画の主題歌で、映画の題は「さらばベルリンの灯」といいます。戦後のベルリンでのナチ残党の暗躍を描いたサスペンス映画で、脚本はハロルド・ピンターが書いています。ノーベル文学賞をもらった人ですね。僕は18歳くらいのときに神戸の映画館でこの映画を観ましたけど、正直言ってそれほど面白い映画じゃなかったです。地味で暗くてね。でもこの曲はよく覚えています。聴いてください。「Wednesday’s Child」、マット・モンローが歌います。

◆Samara Joy「Nostalgia」
この間アメリカに行ったとき、友だちが「ハルキさん、これ、わりに新しく出たレコードだけど、とても素晴らしいから聴くといいよ」と推薦してくれたものです。サマラ・ジョイという若い黒人女性がジャズ・スタンダード曲を歌っているんだけど、これがやたらうまくて、センスが良くて、感心しちゃいました。とても20代前半の歌手とは思えない。でもこの練れ方、なんかウィントン・マルサリスの女性ボーカル版みたいですね。僕は最近のジャズってあまり熱心に聴いていなかったので、よく知らなかったんだけど、すごく人気があるみたいで、彼女の出演するジャズクラブはすべてソールドアウト、みたいな状況だそうです。
ジャズ・トランペッターのファッツ・ナヴァロが作った「ノスタルジア」という曲を聴いてください。作ったといっても「アウト・オブ・ノーホエア」というスタンダード曲のコード進行を借りて、勝手にメロディーをつけただけなんですけど。その曲にジョイさんが更に歌詞をつけたんですね。
しかし、いや、かっこいいです。サマラ・ジョイ「ノスタルジア」。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO ~再びアナログ・ナイト~
放送日時:6月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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