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村上春樹「村上さん、これあげます。聴いてください」コレクターズ・アイテムとなったレコードにまつわる思い出

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。6月25日(日)の放送は「村上RADIO~再びアナログ・ナイト~」をオンエアしました。エルヴィス・プレスリーのデビューアルバムから、村上さんがボストンの中古レコード店の1ドル・コーナーで買ってきたレコードまで、自宅から厳選して持ってきたアナログ・レコードを村上DJの楽しい解説付きで紹介しました。
この記事では、中盤2曲を紹介した内容をお届けします。



◆林ヒロシ「片道切符」
次はちょっと珍しいレコードを聴いてください。林ヒロシさんの歌う「片道切符」……と言っても、何のことだかきっとわかんないですよね。実は林ヒロシさんというのは、僕が学生時代、水道橋の「スイング」っていうジャズ喫茶でバイトしているときに、一緒に働いていた高校生の男の子で、当時フォークソングの歌手をしていました。本名は小林政広くんといって、のちに映画監督になり、『春との旅』や『海辺のリア』といった作品を撮って高く評価されて、海外の賞をもらったりもしたんですけど、残念ながら昨年の8月に癌のために亡くなりました。

フォーク歌手をやっているとき、僕らは「小林少年」って呼んでいたんですけど、彼はレコードを出しまして、「村上さん、これあげます。聴いてください」と言って、そのLPを3枚くれました。アルバムのタイトルは『とりわけ10月の風が』です。僕はその3枚、まだ手もとに持っています。
ジャケットのクレジットを細かく読んでみると、なんと若き日の坂本龍一さんがピアノで参加して、アレンジまでしているんです。たぶんその時代、坂本さんもまだ藝大の学生ですよね。これ、すごいコレクターズ・アイテムというか、正直びっくりしました。
坂本龍一さんもこのあいだ亡くなってしまって、淋しいです。小林くんと坂本さん、お二人の冥福を祈って、この曲をかけます。「片道切符」、作詞作曲は小林政広くん、ピアノとアレンジメントは若き日の坂本龍一さんです。

<収録中のつぶやき>
あ、ここ坂本龍一さんのピアノだ。なかなかアレンジもかっこいいですね。

◆Ahmad Jamal「Just The Way You Are」
亡くなったといえば、ジャズ・ピアニストのアーマッド・ジャマルさんもつい最近亡くなりました。僕は一度アメリカのジャズ・クラブで彼のトリオ演奏を聴いたことがありますが、素晴らしかったですよ。奥深い音が鳴っていました。1950年代から活躍している人だけど、歳を取って枯れるということのない人で、絶えず自己革新を続けていました。
1950年代にはマイルズ・デイヴィスが彼の熱心なファンでして、「髪が緑色で、アーマッド・ジャマルみたいなピアノを弾く子供がほしい」と発言しておられました。いいですねえ。
でもジャマルさんはなぜか管楽器奏者とまず共演しない人でして、マイルズ・デイヴィスとの顔合わせはないままに終わりました。
ビリー・ジョエルのヒット・ソング「Just The Way You Are(素顔のままで)」をジャマルさんが演奏します。

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聴取期限:2023年7月3日(月)AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:村上RADIO ~再びアナログ・ナイト~
放送日時:6月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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