放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。6月25日(日)の放送は、栃木県の伝統工芸品「鹿沼箒(かぬまほうき)」の職人・増形早苗(ますがた・さなえ)さんをゲストに迎えてお届けしました。
(左から)小山薫堂、増形早苗さん、宇賀なつみ
◆日本で唯一の「鹿沼箒」職人
蛤型(はまぐりがた)の「鹿沼箒(かぬまほうき)」を作る“唯一”の職人である増形さん。ほうきが名産品になった背景について「江戸からほうきの材料にする種が渡ってきたのがもともとの始まりだったんです。栽培をしていい草が採れたのですが、鹿沼は日光東照宮を建てた職人たちが移り住んだ街なので、職人が多かったんですね。それで、ただのほうきじゃなくて、“日本一のほうきを私たちで作ってやろう”ということで技術を高めていったことで、こういう独特のかたちのほうきに仕上がったと聞いています」と説明します。
増形さんによると、通常、ほうきの柄の部分には真竹(まだけ)が使われることが多いものの、増形さんが作る鹿沼箒の柄には高知の黒竹(くろちく)が使われています。
その理由について、「黒竹って皮が薄くて軽いんですね。加工はちょっと難しいんですけども、ほうきは軽いほうがいいということで、うちは先代からのこだわりで黒竹を使っています」と語ります。
そして、柄と草の接合部分が蛤の形に似ていることから、「その部分を“蛤”って呼んでいます。ここが鹿沼箒の特徴になります」と増形さん。実際に使われている草は「座敷ほうきにするためだけの、“ほうききび”とか“ホウキモロコシ”と呼ぶ植物になります。とにかく柔らかくてしなりがいいんですね。日本の座敷の細かな塵やホコリを掃くことに特化しているんですね。それに適した柔らかさになっています」と解説します。
さらに、使い始めて約50年持つ耐久性の良さも特徴のひとつ。「いいほうきって使っていくと短くなっていって、上のほうにある糸の部分を外して、最後の最後まで使えるんです」と増形さん。
これには、小山&宇賀ともども「50年!」と声を上げて驚きます。さらに小山は「50年物のほうきとか見てみたいですよね。だって掃除機は絶対に50年も使えないじゃないですか」と反応します。
ちなみに、増形さんの母は、嫁入りするときに鹿沼箒を持たされ、ちょうど金婚式を迎えた今もなお「同じほうきを50年使っています」と話します。これに宇賀は「もう一生物ですね。見た目も美しいですし、何より軽いですし、使ってみたいなと思いました。究極のエコでサスティナブルですよね」と感心しきり。
増形さんいわく、掃除機にはないほうきの良さについて、「いい草で作られたほうきは、自分の手の延長みたいに指先で撫でるような感覚が手に伝わるんですね。手の触感と、目で見てゴミが取れる感覚と、耳で“サッサッ……”と掃く音と、体の五感を使って掃除ができるので、そういう意味でも『心地良い』とおっしゃる方は多いですね」と語ります。
使い勝手のいい鹿沼箒
現在、増形さんは鹿沼箒を作る唯一の職人です。祖父の代で最後の職人の1人だったところ、介護福祉士をしていた増形さんがなぜ職人となったのか。そのいきさつについて、「もともとはまったく興味がなかったんですけど、私の母方の祖父がほうき職人だったんです。小さい頃から母が忙しかったので、祖父のもとで遊んで育ったんですね。本当に育ての親みたいな感じでした。
祖父と祖母が二人三脚で、ずっとほうきを作っていたのを見ていただけだったんですけど……祖母が急死してしまって。祖父が気落ちをしてしまい『もうほうきの仕事はやめたい』と言い出したので、小さい頃から当たり前に(ほうき作りを)見てきていたので、“このままなくしてしまうのは惜しい”と思って、思い切って「『じゃあ、私にやらせてくれないか』と言ったんです」と増形さん。
最近では、鹿沼箒を使う層にも変化があるそうで「おじいちゃんがやっていた頃は、ご年配の女性がほとんどだったんですけど、ここ10年で若い方、特に都心に住んでいる若い方や、子育てをしていらっしゃる若いお母さんが『静かに掃除できるから』と。あとは男性が非常に増えました」と現状を語ります。
ちなみに、今回増形さんがスタジオに持参してきてくれた鹿沼箒が伝統的なサイズのもので、値段はおよそ3万円。9月30日(土)に栃木県宇都宮市大谷町で販売会を開催予定で、現在はその販売会に向けて「早ければ7月中旬から(草の)収穫が始まるので、その収穫を待って製作が始まります」と増形さん。
初代と祖父が作った鹿沼箒をそれぞれ1本ずつ大切に持っており、時折見返すこともあるといいます。「見ると、もう自己嫌悪みたいになっちゃって、つらくなっちゃうんですけど、でも、あえて見るようにしています」と明かします。
先代の作った鹿沼箒は自身の作ったものと全然違うそうで「まだ自分が納得できるほうきが作れていないので、1歩でも祖父のほうきに近づきたいですね」としみじみと語ると、小山は「そうやって高みを目指す、その思いがあるだけで素晴らしいですよね」と感服していました。
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聴取期限 2023年7月3日(月) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY’S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/post/