政府が進める「退職金」税制見直し…労働者にとってのメリット・デメリットは? 専門家が解説

モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。6月28日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「退職金の税制見直し その背景と懸念点は?」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。


※写真はイメージです



政府が6月16日(金)に閣議決定した今年の「骨太の方針」には、退職金にかかる所得税の見直しが盛り込まれました。

◆政府が退職金の税制を見直す背景

吉田:塚越さん、まずは政府が退職金の税制を見直す背景を教えてください。

塚越:基本的には政府が進めている労働市場改革の一環です。今年の「骨太の方針」や「新しい資本主義」の実行計画として、構造的な賃上げ実現に向けて、成長産業に労働力を円滑に移行させる方針が盛り込まれています。つまり、より賃金の高い職種に人々が転職しやすい社会にしたいということです。

現状の制度だと、退職金を受け取るときにかかる税金は、同じ企業で働けば働くほど軽くなる仕組みになっており、それが転職意欲を阻害していると指摘されています。退職金は年金として分割で受け取るケースと、一時金として一括で受け取るケースがあるのですが、この一括で受け取る一時金の場合、勤続20年を超えると控除額が増える、つまり退職金への課税が大幅に軽減されます。

吉田:退職金にかかる税金は、同じ企業で長く働けば働くほど、税の負担が軽くなります。これは、なぜでしょうか?

塚越:いわゆる日本型雇用形態の問題です。戦後の日本は「終身雇用」を前提とした働き方が一般化し、多くの企業や官公庁でも長く働くほど退職金の支給額が増える仕組みになっていきました。これを踏まえて、退職金で収入が一時的に増えても、税負担が急激に増えない仕組みが作られ、先ほど話したように、勤続年数が多いと税金の控除額が増えるようになりました。

ユージ:同じ企業で長く働けば働くほど、税の負担が軽くなる今の制度を、政府はどのように変えようとしているのでしょうか?

塚越:政府は、勤続20年を超えた際に退職金への課税が軽減される今の制度を見直そうとしています。今回の政府の方針では、自己都合による退職の場合、退職金を減額するといった現在の労働慣行の見直しに向けて、企業が就業規則を作成する場合の参考となる「モデル就業規則」の改定をおこなうとしています。

◆退職金の受け取り方を選べるメリット

ユージ:退職金の税制を見直すことについて、塚越さんはどうご覧になっていますか?

塚越:まず、単純に今の制度を変えるだけでは、退職金を住宅ローンの返済や老後の資金と考えている多くの人にとって、影響が大きすぎます。税に関する有識者で構成されている「政府税制調査会」でも、退職金への課税問題は長年テーマになっていて、多方面への配慮が必要で慎重に議論すべきだとされています。

財務省の幹部からは、影響が大きいとして、制度を変えるにしても経過措置を設けたり、新制度への適用対象を絞り込んだりすべきといった指摘もあるので、特に今の年配層の労働者についてはじっくり考える必要があると思います。

その上で、労働環境を変える必要はやはり重要です。労働者にも企業にとっても、多様な選択肢は必要になります。例えば、大手金融グループのみずほ銀行などグループ5社は、これまで自己都合による退職の場合、退職金は減額されていましたが、来年度からこの制度を撤廃します。自己都合で会社を辞めて転職しても、退職金が減らないようにするということです。

さらに、退職金は辞めるときに一括で支給するのではなく、毎月の積立分を給料に上乗せすることを可能にして、子育てや介護といった資金が必要なときに手元にお金が残るよう、さまざまな選択ができるようにするということです。

(こうした制度を作ることで)企業にとっては人材が流出、つまり「今よりも退職しやすい環境にしているのでは?」と感じる方がいると思いますが、逆に言うと、転職先としてはこうした企業は有力な候補になり、人材獲得がしやすくなる面もあります。変化の激しいビジネス分野(銀行・金融など)では、出ていく人にも入ってくる人にも優しい環境をつくることが、結局は企業のためになるという考え方です。

一方で、いわゆる町工場など社員数も多くない中小企業にとっては、高い技術力を持っている社員に長く働き続けてほしいと思っている所が多いです。そのため制度の見直しによって労働者が職場を選びやすい環境になることは必要としながらも、中小企業では人材確保が難しくなる側面もあります。

制度が大きく変わるなかで、中小企業によっては終身雇用制度を続けることで、「長く働いてくれれば従来のままの退職金の制度にしますので、高い技術力を持ったまま、うちで働き続けてください」というようなケースのほうが望ましい場合もあります。

逆に、人材の入れ替わりが激しい業界では、退職金の問題をいろいろと考えて、さまざまな制度を作っていけば、労働者もいろいろと比較して選べるようになります。自分のスキルを活かした転職を考える労働者にとっては、退職金の制度が選べるというのは良いことなのではないかな、と思います。

ユージ:選択の幅があればいいですよね。ただ、やはり制度としては、一人ひとりオリジナルプランを……と考えると、(一本に)まとめるのは難しいですよね。

塚越:難しいですよね。この辺りの話がどうなっていくのか、この制度について、これからも注目してください。


吉田明世、塚越健司さん、ユージ



<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/

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