本部長・マンボウやしろと秘書・浜崎美保がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「Skyrocket Company」。毎月第2水曜日に、我々が知っているようでよく知らない「お金」や「経済」の仕組みなどを、専門家の方に詳しく解説してもらうコーナー「スカロケ資産運用部」をお届けしています。
7月12日(水)の放送では、愛と経済の伝道師“宗さま”こと三井住友DSアセットマネジメント株式会社フェローの宗正彰(むねまさ・あきら)さんに、「過去最高を更新した“国の税収”と2023年の“株主総会の特徴”」というテーマでお話を伺いました。
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(左から)宗正彰さん、マンボウやしろ、浜崎美保
◆過去最高の税収でも、景気が良く感じられないのはなぜ?
浜崎:宗さま、今回は「過去最高を更新した“国の税収”と2023年の“株主総会の特徴”」についてお話しいただけるということですね。
やしろ:国の税収が過去最高を更新したというニュースを見た方も多いと思います。受け取り方はいろいろあると思いますが、今このタイミングでというのは、少々意外だなと思う方もいるのではないでしょうか。
宗正:意外に感じる方も多いでしょうね。国の税収は2022年度に初めて70兆円を超えました。しかもコロナ禍の3年間、毎年過去最高を更新しています。主な国の税収は、法人税と所得税と消費税です。この3つを合わせて基幹三税と呼びますが、総じて伸びました。
法人税が伸びた主な理由は、近年の円安トレンドです。国内の企業は輸出関連企業が多いですから、円安になれば国内企業全体の業績が伸びて、法人税も増えます。次に所得税。企業の業績が伸びれば給与が上がるので、所得税も伸びる。そして消費税。これは物価高が原因ですね。物の価格が上がったので、消費税も伸びたということです。
やしろ:でも、景気が良いと実感している方は少ないような気がします。税金は上がる一方で、手取りの収入は増えない。生活状態は良くならないということで、税金を納める側としては、これは釈然としない、こういう意見の方が多いんじゃないかなと思うんです。
宗正:納税は勤労や教育と並んで、国民の三大義務の1つです。税金は国が維持・発展していくために欠かすことのできないものですが、それも国民生活の向上があってこその話です。釈然としないのも自然と言えば自然なことですよね。
厚生労働省が発表した昨年度の名目賃金は、前年比で1.9 %の増加でした。確かに手取りの賃金は増えましたが、そこに物価の上昇率を考慮すると、実質賃金はマイナスの1.8 %。賃金は確かに増えましたが、物価の上昇がそれを上回っているので、実際には賃金が減っているのと同じです。
やしろ:物価高の速度と賃金が上がっていく速度には、乖離があると思います。今後は追い付いていくのでしょうか?
宗正:当面の間は、乖離した今の状態が続くと思います。30年ぶりの急激な物価高に実質賃金が追いつくためには、今しばらく時間がかかるでしょうね。
やしろ:これに関しては、仕方のないことなんですよね?
宗正:物価が上がらなければ企業の業績は良くならない。業績が良くなった後に上がるのが賃金ですから、今は賃金が本格的に上がり始める前のタイミングです。そこにコロナ禍直後の経済活動のややこしさも加わって、しばらくの間は、今の状態が続きそうですね。
やしろ:それにしても、実質的な手取りの収入が減る状況が続くのは痛いですね。
宗正:手取りの収入が減るという意味でもう1つ心配なのが、社会保障給付費の増加です。具体的には医療や介護・年金などの給付額。この国は少子高齢化が今後ますます加速しますから、社会保障給付費が増えていくのは紛れもない事実です。
その額は、2023年度で134兆円。これは大きいですよ。約20年後の2040年度には、これが190兆円から200兆円にまで膨らむ見通しです。このとき、私たちの年収から差し引かれる社会保険料は、今よりも3割増になるといった試算結果もあります。
やしろ:今でも相当高いなっていう感覚があるんですけど。
宗正: 今後どのように対応していくのかについては、「経済」というよりも「政治」の力で解決すべき。若干「政治寄り」の話になりますが、「政治と経済は車の両輪」です。いずれにしても、認識しておく必要はありますね。
◆“モノ言う株主”が日本経済に与える影響
やしろ:少し前の6月末辺り、例年よりも多く株主総会のニュースを耳にした気がします。これは、何故なのでしょうか。
宗正:国内の企業は、3月決算の企業が圧倒的に多いので、4月から5月に決算発表、6月に株主総会が開かれる、こんなスケジュール感になります。そうなると、必然的に毎年6月末辺りに株主総会が集中するんですよね。「株主総会集中日」と呼んだりもします。
そして、例年よりも多く株主総会のニュースを耳にした気がしたのは、今年の株主総会で株主からの提案数と議案の数が過去最多を更新したからだと思います。
6月の主要企業の株主総会で、株主提案を受けた企業は約90社、議案の数とともに過去最高を更新しました。中でも急増した内容の多くは、「ガバナンス」関連。「ガバナンス」という単語を聞かれたことはありますか?
やしろ:聞いたことはありますけれども、ちゃんと分かっているかと言ったら微妙です。
宗正:日本語では、「企業統治」と訳します。一言で言えば「経営のあり方や、経営そのものの改善を企業の経営陣に求める動き」です。今年の株主総会で、その主導的な役割を果たしたのが、海外の“モノ言う株主”、いわゆる“アクティビスト”です。
具体的には「取締役の過半数を社外取締役に」といった動きや「取締役にも株式を持つことを求める」といった動きです。社外取締役の割合を高めることで、第三者の視点や考え方を取締役会に取り入れたり、自社の株式を保有することで取締役にも株主目線の経営感覚を求めるといった目的があります。
やしろ:今年の株主総会で海外のアクティビストから「ガバナンス」に関わる株主提案が急増した理由は何かあるのですか?
宗正:「日本型経営」という単語があります。日本の企業の経営の仕方っていうのは、グローバルな視点で見た場合に、日本特有のガラパゴス的な側面が多い。例えば、創業家や現在の社長に権限や影響力が集中していたり、経営の安定ばかりを求めて事業リスクを取らず、成長を追求しなかったり……。成長無くして株価は上がらないですからね。
つまりは株主を軽視している。こういった「日本型経営」には、改善の余地が大いにあるということで、そこに海外のアクティビストが注目して、今年の株主総会で提案を積極的にしてきたということです。
やしろ:そうすると、こうした提案は、今後は増えていく一方ということですかね。
宗正:増えていくと思いますし、日本の株式市場のグローバル化と日本の株価上昇のためには必要不可欠な動きですね。
やしろ:日本の株式市場の動きを考えれば、悪いことではないと。
宗正:「ガバナンス」の改善は、企業価値の向上につながり、引いては株価の上昇につながります。「アクティビスト」と聞けば、上場企業に無理難題を言って株価を釣り上げて売り抜ける動きを連想する人も多いのですが、今風に言えば企業と株主の直接的な対話を意味する「エンゲージメント」と言ったほうが近いかもしれません。企業側にもモノ言う株主の動きを受け止めて、企業価値を高める真摯な姿勢が求められます。
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<番組概要>
番組名:Skyrocket Company
放送日時:毎週月~木曜17:00~19:52(※コーナーは毎月第2水曜18:15ごろ~)
パーソナリティ:本部長・マンボウやしろ、秘書・浜崎美保