モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。8月3日(木)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「最低賃金、全国平均の目安1,000円超え」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。
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厚生労働省の諮問(しもん)機関である「中央最低賃金審議会」は7月28日(金)、2023年度の最低賃金の目安を現在の961円から41円引き上げて、全国平均で時給1,002円にすることを決めました。この上げ幅は過去最高で、平均時給の目安が1,000円を超えたのは今回が初めてです。
◆最低賃金の目安が全国平均で1,000円超え
吉田:最低賃金は上がったものの、日本の賃金は先進国のなかでも低いほうだと言われています。果たして、日本の賃金水準は国際比較でどの程度なのか? どうやって、他の先進国並みに引き上げていったら良いのでしょうか? 塚越さんに解説いただきます。
ユージ:厚生労働省の諮問機関「中央最低賃金審議会」が最低賃金の目安を全国平均で時給1,002円にすると決めましたが、東京都の最低賃金はすでに1,000円を超えて1,072円です。今回の1,002円とは、どういう「目安」なのでしょうか?
塚越:1,002円というのは、全国の最低賃金平均の目安です。毎年、夏に労働者の代表と雇用主の代表、そして中立的な立場の公益委員で構成する審議会で話し合い、最低賃金の目安を提示します。これを参考に都道府県ごとに審議会が具体的な額を決めて、10月頃から適用するという流れです。
最低賃金はその名のとおり、時給の最下限額です。アルバイトやパートを含むすべての働く人が対象となり、額は毎年度改定されます。毎年目安に応じて都道府県の最低賃金が引き上がるので、全国平均ではありますが1,002円を超えることになります。
◆先進国のなかではまだ低水準
吉田:最低時給の平均が1,000円を超えるというのは良いことですが、日本の最低賃金は先進国のなかでも低いほうなのでしょうか?
塚越:各国の最低賃金も、昨今の物価上昇を受けて上がっています。それを8月2日の為替(1ドル 143円)で換算すると、イギリスは年齢などによってばらつきがあるのですが、最も高い23歳以上の最低賃金は、今年4月から10.42ポンド(1,906円)。フランスは今年1月から11.27ユーロ(1,773円)。ドイツは現在12ユーロ(1,888円)。来年はさらに上がることも決まっているのですが、このように非常に高いです。
アメリカは連邦政府が決めた最低賃金が7.25ドル(1,036円)なのですが、州ごとにも最低賃金があり、半分以上の州は毎年改定しています。アメリカは州や企業によってばらつきがありますが、最低賃金が15ドル(2,145円)のところもあります。レートが円安になっていることもありますが、それでもやはり海外の主要国と比べると、日本の最低賃金は圧倒的に低いです。
ユージ:最低賃金は上がっていくようですが、正社員として働く方の給与は、どのような状況ですか?
塚越:1990年代半ばまで、日本の賃金は世界トップクラスでした。しかし、1997年以降、名目賃金はほとんど上昇することはなく、物価上昇分を差し引いた「実質賃金」は、1997年を100とすると、2016年で89.7まで低下しました。2021年の日本の平均賃金は、OECD加盟国で34カ国中24位です。平均の77%という低水準で、同じく労働生産性もOECD平均より低いです。
少し前まで、こうしたデータをあまり知らない人も多かったと思いますが、個人的には2021年のオリンピックあたりから報道されるようになったと思います。昨今の円安の影響もあって、残念ながら「日本は安い国」というのを、誰もが認知するようになりました。
◆最低賃金を上昇させるためには?
吉田:どうして日本の賃金水準は低いままなのですか?
塚越:さまざまな要因がありますが、例えば安倍晋三元首相が提案した「アベノミクス」は、簡単に言えば企業がまず儲かり、その恩恵が末端にも行きわたる「トリクルダウン」を目指したものでしたが、実質的にはそうなりませんでした。大手企業の収益は改善したのですが、賃金は上昇しませんでした。
他にも、デフレが続いたこと、企業の生産性が低いこと、また賃金の安い非正規雇用を増やしたことなど、とにかく複合的な理由で賃金上昇が生じないとのことです。
ユージ:どうしたら日本の賃金が先進国並みに引き上がるのでしょうか?
塚越:難しいですが、まず今回の最低賃金の引き上げは岸田文雄政権の意向も大きいです。ただ、中小企業は大手との取引単価が上がらないと、社員を雇用できなくなる場合もあり、そうすれば全体としてマイナスにもなりかねないので、こうした点には注意が必要です。
(賃金の引き上げには)岸田政権が進めている「リスキリング」(職業能力の再開発、再教育)を充実させて、雇用の流動性を高めて、給料の高い分野に労働力が集まり、生産性が高まるといった方法もあります。他にも、賃上げすることで税制を優遇する「賃上げ促進税制」を導入する方法などもあります。
さらに、フランスなどは物価上昇に応じて最低賃金が自動的に引き上がる制度になっているので、日本でも導入するという方法があります。いずれにしても、物価上昇に賃金上昇がなかなか追いついていません。
世界水準にするなら(最低賃金は)1,500円が必要だと思うのですが、そうすると今の1.5倍になり、すぐに実現するのは、なかなか難しいです。構造的な問題なので、簡単なゴールはありませんが、少しずつ課題をみながら変えていく必要があります。
吉田明世、塚越健司さん、ユージ
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8月3日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)聴取期限 2023年8月11日(金・祝) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世