書き出し「ものすごく青い」

「ものすごく青い」

書き出し:RN. 平日の平行線
作:蓮見翔
声優:浅野良介、大空直美

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「優勝は青の席の鈴木さん!おめでとうございます。」
数年ぶりにアタック25でパーフェクトが出た。
僕はその時、緑の席に座っていた。

いつもより早く目が覚めて、とりあえずリビングに降りる。
できれば外出したかったけど、光希は日曜日にも関わらず
家で仕事がしたいみたいで説得しきれなかった。
なんとしても見られたくない。
今日を乗り切ればおそらく大丈夫なはずだから。
少しして起きてきた光希すぐにテレビをつけた。
どんな番組でも一緒に見てくれるところは好きだけど、
今日だけはテレビ離れしていてほしかった。

光希「早いね」
健太「あぁ、まぁね」
光希「今日はどこにも行かないの?」
健太「今日は今のとこ行かないかな」
光希「そっかそっか、私作業してるけど
         気にせずテレビとか観てていいから」
健太「あぁでも集中できないでしょ消しちゃうよ」
光希「あぁつけといて、他の音あったほうが集中できるから」

絶対根拠のない理由で、テレビを消すことができなくなった。
優勝したら言おうと思っていたから出ることは言っていない。
優勝する気だったのだ。参考書買って勉強もしたし、
どの順番で数字とっていけば角を取りやすいかも
調べて臨んだ。
こんな結果にならなければ、一緒に楽しく観られたのに。
白と赤の席に座っていた人にも腹がたってきた。
なんで角を取らないのか、俺が児玉清なら
静かに怒っていたはずだ。
自分が答えたタイミングではどうやっても取れなかったけど、
白にはチャンスがあった。せめて他の色が一色でもあれば
ここまで惨めにならずに済んだのに。
最後の問題でどこも隠れることなく聳え立っていた
ノイシュヴァンシュタイン城が、今も脳裏に焼き付いている。

光希「もうこんな時間か、なんか食べる?」
健太「あぁ、食べようか」
光希「なんかあったかなぁ」

光希が冷蔵庫を漁り始めた時、ちょうどオンエアが始まった。
ここから30分逃げ切ればいい。
テレビでは激安スーパーが特集されている。

光希「ラーメンでいい?」
健太「いいね」

光希が料理を始めた。パエリアでも作り始めてくれたら
一気に乗り越えられそうだったけど、そんな不自然な注文も
流石にできずにじっとしていた。

光希「あぁ私この芸人さん嫌いなんだチャンネル変えて」

あんなに憧れていたオープンキッチンが完全に裏目に出た。
光希は自分が好きなタレントを雑にいじった芸人を許さない。

光希「この時間って何やってたっけ」
健太「なんだろうね」

テレ朝を避けてザッピングする。
光希の興味をひいてくれそうな番組はやってなかった。

光希「5は?」

光希は放送局を数字でしか認識していない。
普段はそういうところも好きだけど、
今日は全てを見透かされているような気がした。

健太「5、なんだろうね」

覚悟を決める。ボタンさえ押してしまえば
楽に慣れる気がしていたけど
なかなか押せない。こういう思い切りのなさが、
クイズの弱さにつながっているんだろう。

健太(テレビからの声)
「今日きていることは彼女には伝えていないので、
   優勝して伝えて、そのままプロポーズしちゃおうと
   思ってます」

・・・さすがに使わないだろうと思っていたのに
   ガッツリ使われていた。キッチンの方は見れない。

光希「え、出てんじゃん」
健太「まぁ、うん」
光希「え、これ出れんの?」
健太「まぁ、応募したら」
光希「へー、変えていいよ」
健太「え、観ないの?」
光希「負けたんでしょ?」
健太「え?」
光希「勝ってたら言うでしょ絶対」
健太「あぁ、まぁ」
光希「惜しかったの?」
健太「青がパーフェクトで終わった」
光希「え、じゃあ観たい」
健太「ほんとに恥ずかしいんだけど」

勝ててたらなと、すごく思った。
僕はだいぶ前から、光希に角を取られている。
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