村上RADIO

村上RADIO

記事コンテンツ

村上春樹「今の時代にも十分通用する音楽。びりびりと痺れました」と唸った楽曲とは? 自身のラジオ番組『村上RADIO』でソウル・インストルメンタル・グループ特集

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。8月25日(日)の放送は「村上RADIO~ソウル・インストルメンタル・グループ~」をオンエア。
今回の「村上RADIO」は、1960年代のソウル・インストルメンタル・グループを特集。ブッカー・T&ザ・MG’sのリーダー、ブッカーT・ジョーンズの自伝『Time Is Tight』を手にした村上さんが、その時代・場所に思いを馳せながらお届けしました。
この記事では、前半2曲について語ったパートを紹介します。



こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今夜は1960年代の「ソウル・インストルメンタル・グループ」の特集です。ここのところ僕はブッカー・T&ザ・MG’s(Booker T. & the M.G.'s)のリーダー、ブッカーT・ジョーンズの自伝を読んでいまして、本のタイトルは『Time Is Tight: My Life, Note by Note』っていうんですが、読んでいるとなんかじわじわ懐かしい気持ちになって、そのへんの音楽を久しぶりに聴き直していました。その流れで、今夜は「ソウル・インストルメンタル・グループ」特集、いってみますね。
よければお付き合いください。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」

ブッカー・T&ザ・MG’sはもともと、テネシー州メンフィスにあるスタックス・レコードのスタジオにたむろしていた若いバック・ミュージシャンたちが、適当にこしらえたバンドだったんです。そんな彼らが1962年に待ち時間の暇つぶしに作って録音した曲「グリーン・オニオン」がたまたま全米大ヒットして、その勢いでなんかそのまま常設バンドになってしまった……そういう行き当たりばったりな成り行きでした。なにしろブッカーTはまだそのとき高校生だったんです。でもそれにもかかわらずというか、彼らは結果的にソウル・ミュージックのひとつのスタイルを打ち立てることになり、今では偉大なレジェンドと見なされています。10数年前に、亡くなったアル・ジャクソンJr.を除いたオリジナル・メンバーで来日して、青山のブルーノートで演奏したんですが、それはもうかっこよかったですね。今の時代にも十分通用する音楽でした。びりびりと痺(しび)れました。

◆Booker T. & The MG's「Hip Hug-Her」
今夜は1960年代のソウル・インストルメンタル・グループの特集です。
まずはそのブッカー・T& The MG'sからいきます。このバンドはいわゆるインターレイシャル・バンド、つまり白人と黒人の混合バンドです。1960年代の南部ではきわめて珍しいケースで、他にはこういう例は見当たりません。
4人編成で、キーボードのブッカーTとドラムズのアル・ジャクソンJr.は黒人、ギターのスティーヴ・クロッパーとベースのドナルド・ダック・ダンは白人です。当時の南部はセグレゲーション(人種分離)が厳しかったし、人種混合バンドは双方の側から冷ややかな目で見られ、やりにくいことが多かったようですが、彼らが長期間にわたって同じメンバーでバンドを維持し、目覚ましい成果をあげることができたのは、4人が音楽的理解によって密接に結ばれていたからでしょうね。
1967年のヒット曲「ヒップ・ハグ・ハー」を聴いて下さい。
彼らのオリジナル曲で、全米ヒット・チャートの35位を記録しています。理屈抜きでご機嫌、快調なリズムです。

◆Booker T. & The MG's「Fuquawi」
ブッカー・T&ザ・MG’sは4人しかメンバーがいないシンプルな構成なんだけど、単調さをほとんど感じさせません。一本調子になるということがないんです。一曲一曲それぞれにそれぞれの工夫があります。彼らが多彩なサウンドを作り出すことに心を配ったということが、その理由としてあげられると思います。

当時のオルガンというと、ばしばし派手に弾きまくるスタイルが多かったんですが、ブッカーTは、一台のオルガンから実に巧妙に、さまざまな音を引き出していきます。そしてスティーヴ・クロッパーはまさにギターの魔術師です。ブッカーTはスティーヴ・クロッパーについてこのように語っています。

「スティーヴはものすごくサウンドにこだわる男なんだ。彼は1本のテレキャスから、セッティングを変更することなく、実にさまざまな音を引き出すことができる。指使いを変え、ピックを変え、アンプを替えるだけでね。スティーヴと一緒に演奏していて何より楽しいのは、彼が僕以外の唯一の独奏楽器奏者でありながら、まるでビッグ・グループで演奏しているような気持ちにさせられることだね」

1971年に発表された、彼らの最後のアルバム『メルティング・ポット』から「フクゥワイ」という曲を聴いてください。

<収録中のつぶやき>
このバンドは生で聴くと、ドナルド・ダック・ダンのベースがいかにすごいかということがよくわかるんです。レコードだとちょっとわかりにくいけど、生で聴くとすごくよくわかる。

----------------------------------------------------
8月25日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 9月2日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

----------------------------------------------------

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ソウル・インストルメンタル・グループ~
放送日時:2024年8月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

コンテンツ一覧

MURAKAMI JAM 第2弾を記念して、村上春樹さんからコメントが到着 音声

MURAKAMI JAM 第2弾を記念して、村上春樹さんからコメントが到着

【後編】村上RADIO 年越しスペシャル〜牛坂21〜 24時台 ゲスト  山極壽一さん 音声

【後編】村上RADIO 年越しスペシャル〜牛坂21〜 24時台 ゲスト 山極壽一さん

【前編】村上RADIO 年越しスペシャル〜牛坂21〜 23時台 ゲスト 山中伸弥 さん 音声

【前編】村上RADIO 年越しスペシャル〜牛坂21〜 23時台 ゲスト 山中伸弥 さん

村上RADIOステイホームスペシャル「あなたがいま語りたいこと」「村上春樹さんと考えたいこと」 音声

村上RADIOステイホームスペシャル「あなたがいま語りたいこと」「村上春樹さんと考えたいこと」

村上春樹、チャールズ・シュルツの言葉をラジオで紹介「人生の選択肢は数多くあっても、僕らが実際に選ぶ道って、結局は限られているんですね」 記事

村上春樹、チャールズ・シュルツの言葉をラジオで紹介「人生の選択肢は数多くあっても、僕らが実際に選ぶ道って、結局は限られているんですね」

村上春樹「素晴らしい音楽も、政治や社会状況とは無縁でいられないんだなあと」当時のブッカーT・ジョーンズの音楽活動から考える 記事

村上春樹「素晴らしい音楽も、政治や社会状況とは無縁でいられないんだなあと」当時のブッカーT・ジョーンズの音楽活動から考える

村上春樹「高校時代にこういう音楽をラジオでずっと聴いていた」と語るインストルメンタル楽曲は? 記事

村上春樹「高校時代にこういう音楽をラジオでずっと聴いていた」と語るインストルメンタル楽曲は?

村上春樹 スガシカオとラジオ共演の思い出「『キング・カーティス、最高だね』と2人で盛り上がりました」 記事

村上春樹 スガシカオとラジオ共演の思い出「『キング・カーティス、最高だね』と2人で盛り上がりました」

村上春樹「今の時代にも十分通用する音楽。びりびりと痺れました」と唸った楽曲とは? 自身のラジオ番組『村上RADIO』でソウル・インストルメンタル・グループ特集 記事

村上春樹「今の時代にも十分通用する音楽。びりびりと痺れました」と唸った楽曲とは? 自身のラジオ番組『村上RADIO』でソウル・インストルメンタル・グループ特集

村上春樹 人生に絶望し、立ち上がった浪人生に届けた言葉とは?「人生には必ず『どつぼ』のようなきつい時期があります。僕にもちゃんとありました」 記事

村上春樹 人生に絶望し、立ち上がった浪人生に届けた言葉とは?「人生には必ず『どつぼ』のようなきつい時期があります。僕にもちゃんとありました」

村上春樹 大勢の前でも緊張せずにスピーチするコツは?「一度エクアドルで2,000人を前に話をしたことがあります」 記事

村上春樹 大勢の前でも緊張せずにスピーチするコツは?「一度エクアドルで2,000人を前に話をしたことがあります」

村上春樹 自分の葬式でかける音楽のプレイリストは作らない!?「もう静かにしていたいですね」 記事

村上春樹 自分の葬式でかける音楽のプレイリストは作らない!?「もう静かにしていたいですね」

村上春樹「関西弁ネイティブを隠すつもりはまったくないのですが…」上京して半世紀以上経って関西弁がヘタになったかも!? 記事

村上春樹「関西弁ネイティブを隠すつもりはまったくないのですが…」上京して半世紀以上経って関西弁がヘタになったかも!?