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村上春樹「ビートルズ、ストーンズ、そしてビーチ・ボーイズは、10代の僕にとっての素敵なバックグラウンド・ミュージックの役割をつとめてくれました」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。10月27日(日)の放送は「村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~」をオンエア。1組のアーティストに焦点を当てて特集する「ソングブック」シリーズの第5弾は、1962年の結成以来、音楽史にその名を残し続けるロックバンド、ローリング・ストーンズを特集しました。
この記事では、前半2曲について語ったパートを紹介します。



こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今日はローリング・ストーンズ・ソングブックをお届けします。この前にやったソングブック・シリーズはマット・デニスでした。マット・デニスからストーンズ、考えてみればかなりの飛躍ですね。しかしそういう大胆さがこの番組の持ち味です。見る前に飛べ。そう、大胆な飛躍こそが人生の醍醐味(だいごみ)です。
とはいえ、みなさんも着地にだけはくれぐれも気をつけてくださいね。思い切って飛んだはいいけど、着地する場所がなかったなんてことになると、とても困ります。
というわけでとにかく、ローリング・ストーンズ・ソングブック、元気にぶちかましましょう。Let's Spend The Night Together!

<オープニングテーマ>
The Rolling Stones「Let's Spend The Night Together」

ローリング・ストーンズが結成されたのは1962年ですから、僕はその登場時からずっと、リアルタイムで彼らの音楽を聴き続けてきたことになります。ビートルズ、ストーンズ、そしてビーチ・ボーイズは、10代の僕にとっての素敵なバックグラウンド・ミュージックの役割をつとめてくれました。
でも実を言うとその当時、僕はストーンズもビートルズもビーチ・ボーイズも、レコードを買ったことがありませんでした。ただの1枚も。ラジオのスイッチを入れれば、それこそいやというほど彼らのヒットソングが流れていたから、レコードを買う必要もなかった。本当に至るところにまんべんなく流れていたんです。まるで記憶の中の部屋に貼られた壁紙みたいに……。

◆Marianne Faithfull「As Tears Go By」
それではまず初期のヒット曲からいきましょう。「As Tears Go By(涙あふれて)」。この曲はもともとはストーンズの持ち歌ではなく、ミック・ジャガーとキース・リチャーズがマリアンヌ・フェイスフルのために共作し、提供したものです。
1964年、マリアンヌ・フェイスフルの歌でヒットして、ミックとフェイスフルはそれが縁で恋人同士になりました。ストーンズがこの曲を録音したのはその翌年、1965年のことです。とても美しいメロディーを持った曲ですね。マリアンヌ・フェイスフルの歌で聴いてください。
「As Tears Go By」、涙あふれて。

マリアンヌ・フェイスフル、可憐な歌声ですが、やがてドラッグと酒と煙草で身を持ち崩し、声を潰してしまいます。でもがらりと変わったハスキーな声で再起し、独特なスタイルを持つ個性派の歌手となります。僕は1997年に来日した彼女のコンサートに行きましたが、クルト・ワイルの曲ばかりを歌う内容で、心が揺さぶられました。「ああ、彼女もしっかり成長したんだな」と痛感しました。

◆Buckwheat Zydeco「Beast Of Burden」
次は「Beast Of Burden」、1978年にリリースされたアルバム『Some Girls』の中の1曲で、ビルボード誌の8位まで上がりました。僕が個人的に好きな曲の1つです。ザディコ(Zydeco)音楽の代表的シンガー、バックウィート・ザディコが歌います。「Beast Of Burden」。
Beast Of Burdenというのは、重い荷物を運ばされる動物のことですね。使役動物。君にいいように利用されるのはうんざりだ、もうくたくただ、みたいな歌詞です。なんか切実ですよね。

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10月27日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 11月4日(月・振休)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~
放送日時:2024年10月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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