詩人・谷川俊太郎さんを偲んで…小山薫堂も驚いた詩との向き合い方 谷川「お金に換わらない詩なんてリアリティがない」

放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。12月22日(日)の放送は、「サンポスクロニクル」と題してお届け。11月13日(水)にご逝去された詩人の谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)さん(享年92)を偲んで、2020年2月23日の放送回から、谷川さんへのインタビューの模様を振り返りました。


(左から)小山薫堂、谷川俊太郎さん



◆92歳でご逝去された詩人・谷川俊太郎さんを偲んで

今回お届けしたインタビューは、谷川さんが88歳のときにご自宅でおこなわれたときのものです(放送回:2020年2月23日)。

あらためて、小山は「緊張しながら行った記憶があります」と当時の胸中を回顧。というのも、小山は高校時代から谷川さんと、詩人という職業に憧れを持っていたから。

小山はまず「最初にご自身で『詩人である』と意識されたのはいつ頃だったんですか?」と質問します。これに、「今でもちょっと疑問なんですよね、詩人であるかどうか」と谷川さん。「詩人として生活費を稼いでいるわけだから、詩人であるはずなんだけど。実は『職業辞典』という辞典があって、そこに詩人という項目はないんですよね。作家はあるんですけど、作詞家も確かあったかな。詩人は職業としては認められていないと。だから勝手に詩人って言ってもいいんじゃないかと思うんですけど、とにかく詩人の数は多いですよ。俳人、歌人も多いですけど。僕がほかの詩人と違うところは、10代の終わりに詩を書き始めてから今まで、ずっと僕は詩というものを疑ってきているんですよ。何でこんな役にも立たないことを書いているんだろうと。詩だけじゃなくて言葉も、僕はずっと疑ってきていますね」と思いを語ります。

これを受けて、小山が「疑うとは、どういうことですか?」と尋ねると、谷川さんは「言葉なんて、リアルなものの100分の1も表現できない。詩の場合には矛盾性がまず根底にあって、全然捉えどころがないものばかりですから。みんなが読んで感動してくれているのはすごくありがたいんだけど、これが詩であるという定義は言葉では書けそうにないなということをずっと思っていて。だから逆を言えば、いろんな言葉で詩らしき言葉を書き散らして『これは詩である』と言えたわけなんですけどね」と答えます。

谷川さんいわく、自身が詩を書くようになったきっかけは、高校時代に遡ります。詩が大好きだった同級生の影響で詩に興味を抱くようになり、詩を書き始めたそう。

それを聞いた小山は、「ものを書いて生きていこうと思われた瞬間はあったんですか?」と問いかけます。谷川さんは、「徐々に徐々に、自分にはほかに能がないと。しょうがない、書いていくしかないと。会社勤めをしている同級生はちゃんと定期的な収入があって、生活が成り立っていて。自由業のように生活が不安定な者は、彼らの10倍の収入がないとダメだと言われたりしたこともあったんですよね。だからすごくお金には執着しました」と振り返ります。

その言葉が意外だったようで、小山が「へぇ~! そんなお金のことを考えるような部分が、頭のなかにあるようには全く見えなかったんですけど」と印象を語ると、谷川さんは「詩人はお金の話なんかしちゃいけないっていうのが伝統的な考え方ですよ。僕は、お金に換わらない詩なんてリアリティがないと思っていたわけ。つまり、社会のなかでお金に換われば、自分の存在意義があると。だから僕は、(詩は)最初から商品という意識が強かったんです」と話します。


(左から)小山薫堂、谷川俊太郎さん



ここまでインタビュー前半を聴き、宇賀は「思い出しました。結構ビックリしたんですよ。イメージしていた谷川さんとはちょっと違ったっていうか」とそのときの記憶が蘇った様子。小山も「詩を商品だと意識しているとか、お金に換わらない詩なんてリアリティがないとか、そういう言葉を聞くとは思わなかったので、すごくビックリしたんですよね」とうなずきます。

そして、谷川さんに“好きな言葉”について伺うと、谷川さんは「『好き』ですね。『好き』って言葉が好き」と即答。「好きってすごく肯定的ですしね、好きって言葉から何かが始まるわけじゃないですか。何かを好きになったらそれから興味が出たりするわけだから。好きっていうのはすごく大事な言葉だし、子どもだって言えるし、年寄りだって言える」とその理由について言及します。

最後にはリスナーに向けてのメッセージも。谷川さんは「僕自身は詩を書いている人間だから、自分の真実に即した言葉じゃない言葉、つまり簡単に言えばフィクションで詩を書いているんですよね。だから時々、自分が本当だと思っていることは何だろうとわからなくなっちゃうことがあるの。いまは全体的にそういう世界になっていますよね。言葉の値打ちが下がっていると言えばいいのか、フェイクニュースもそれがまるで本当みたいになっちゃっているでしょ? だから、自分のなかの本当のことを言葉にできるようにしたほうがいいんじゃないか、ということは言えますね」と話していました。

小山は、自身が2020年におこなった谷川さんへのインタビューを振り返り、「いい言葉をたくさんいただきました」としみじみ。宇賀も「本当ですね。あらためて、いろいろな名言というか」と感じ入っていました。

“手紙”がテーマの当番組にちなんで、谷川さんが人生のなかで印象に残っている手紙について語った模様などもお届けしました。生前におこなった谷川さんへのインタビューの模様、貴重な言葉の数々を、ぜひradikoでお聴きください(※聴取期限 2024年12月30日(月) AM 4:59 まで)。

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12月22日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年12月30日(月) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY’S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/post/

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