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村上春樹 サイモン&ガーファンクルの解散を振り返る「まさに絶頂期にあるチームが突然ぽっかり消滅してしまった。みんなびっくりしました」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。12月29日(日)の放送は「村上RADIO~ポール・サイモン・ソングブック~」をオンエア。好評の「ソングブック」シリーズ第6弾は、1960年代、70年代を代表するシンガー・ソングライターで、アート・ガーファンクルとの音楽ユニット「サイモン&ガーファンクル」として一世を風靡したポール・サイモン特集。この記事では、後半4曲と今日の言葉について語ったパートを紹介します。



◆Aretha Franklin「Bridge Over Troubled Water」
◆越路吹雪「コンドルは飛んでいく」

アルバム『明日に架ける橋』は完成までに2年を要しました。2人はそれぞれの仕事を別々にすることが多くなったからです。彼らの音楽はますます複雑なものになっていったし、ガーファンクルは俳優として映画出演することに意欲を燃やすようになりました。「キャッチ22」とか「愛の狩人」といった映画に出て、高い評価を受けました。それでもこのアルバムの出来は実に素晴らしく、10週間続けてチャートの1位を独占しました。このアルバムからは3曲がシングルカットされ、それぞれにヒットしました。アルバム・タイトルにもなっている「明日に架ける橋」、「セシリア」、そして「コンドルは飛んでいく」です。
「明日に架ける橋」をアレサ・フランクリンが歌います。そして「コンドルは飛んでいく」を越路吹雪さんが歌います。どちらの歌唱も素晴らしい出来ですね。

「コンドルは飛んでいく」はアンデスのフォルクローレですが、ポール・サイモンが取り上げてアレンジし、世界に一挙に広めたので、彼のソングブックの中に入れてもかまわないですよね。
この「明日に架ける橋」という、彼らにとっての最高傑作アルバムを最後に、2人はデュオ・チームを解散します。まさに絶頂期にあるチームが突然ぽっかり消滅してしまった。みんなびっくりしました。しかし2人が仲たがいしたとか、お金のことでもめたとか、そういうことではなくて、ただ人間として、あるいはミュージシャンとして、それぞれの進もうとする道が次第にずれてきた、ということなのでしょう。まあそうですよね。いつまでも小学6年生の仲良し友だちのままではいられません。

◆Bob James「Take Me To The Mardi Gras」
ポールとサイモンはコンビを解消し独立したあと、より大きく音楽の幅を広げていきます。自分のスタイルを固定することなく、過去に固執することなく、レゲエやラテン音楽、アフリカの音楽、ゴスペル、ジャズ、そんな、さまざまな音楽の要素を積極的に取り入れ、彼独自の音楽世界を作り上げていきます。

サイモンはコンビ解消後、1972年に自己名義アルバム『ポール・サイモン』を発表し、このアルバムからは2曲のヒットソングが出ています。「母と子の絆」と「僕とフリオと校庭で」です。
「母と子の絆」はジャマイカで録音されたし、「僕とフリオと校庭で」はラテン音楽の強い影響を受けているし……、と彼の音楽は次第に、自由で幅広いワールド・ミュージック的な色彩を帯びていきます。

そして1973年には独立後第2作『ゼア・ゴーズ・ライミン・サイモン』を発表し、これも好評を博します。ザディコ音楽やゴスペルの影響をうかがわせるアルバムでした。ここからは「ラヴズ・ミー・ライク・ア・ロック」と「僕のコダクローム」がシングルカットされ、ヒットしました。このアルバムには他にも「マルディグラに連れてって」という素敵な曲も入っています。ボブ・ジェームズの軽快な演奏で聴いてください。

◆Ray Charles「Still Crazy After All These Years」
それに続いて、彼は1975年に『Still Crazy After All These Years(時の流れに)』を発表します。このアルバムはヒットチャートの1位を飾り、その年のグラミー賞も獲得しました。このあたりはもう「向かうところ敵なし」という感じですね。このアルバムには、スティーヴ・ガッドやリチャード・ティーをはじめとして、フュージョン系の一流ミュージシャンが参加し、これまでのサイモンの音楽とはまた少し違うテイストが付け加えられました。

聴いてください。レイ・チャールズの歌う「時の流れに(Still Crazy After All These Years)」。これだけの歳月が流れても、僕はまだ君に夢中なんだ。レイ・チャールズ、この人が唄うと、とにかくなんでもこのひとの歌になっちゃいます。

<クロージング曲>
Percy Faith「The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)」

ポール・サイモン・ソングブック、お楽しみいただけましたでしょうか? ポールは1980年以降も歌手として、ソングライターとして第一線で活躍しますが、時間の制約もあり、この番組では70年代までの彼の仕事を中心にまとめてみました。

今日のクロージングの音楽は、パーシー・フェイス楽団の演奏する「59番街橋の歌」です。スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」の中でも、このクイーンズボロ・ブリッジはとても印象的に描かれていますね。僕もニューヨーク・シティ・マラソンで何度かこの橋を走って渡りました。アーチ状でずいぶん高低差があるので、走るのはけっこう大変です。

さて、今日の言葉はウィリアム・シェイクスピアの「ハムレット」に出てくる言葉です。

Brevity is the soul of wit.

ウィット(機知)の要は簡潔さにある。気の利いた一言というのは短ければ短いほどいいんだ、ということです。寸鉄人を刺す。しかし言いたいものごとを簡潔にまとめるのはむずかしいですね。至難の業です。だからスピーチはたいてい、だらだらと長くなります。どうすればうまく短くまとめられるでしょう?

来年は巳年なので、新年に向けて、僕からヘビさんに贈るスピーチを試しに書いてみました。

<えー、2025年は巳年、ヘビさんの年です。龍さんからのバトンタッチですが、竜頭蛇尾みたいなことにならず、より平和でより豊かな1年が世界にもたらされることを願っています。昨今の情勢を鑑みるに、これはかなりヘビーなお仕事になるとは思いますが、どうか頑張ってください>

うーん、あまり良い見本にはならないみたいですね。ただのしょうもない駄洒落です。でもとにかく短いことは短い。

それではまた来月。よいお年を。

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12月29日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 1月6日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~ポール・サイモン・ソングブック~
放送日時:2024年12月29日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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