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村上春樹 鰻屋さんで“松”を頼めない理由とは?「今日こそ“松”を頼もうと思っていても…」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。1月26日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話6~」をオンエア。好評の「村上の世間話」シリーズは、村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届け。この記事では、鰻屋さんでの“うな重”の注文について語ったパートを紹介します。



◆Louis Armstrong & Duke Ellington「I'm Beginning To See The Light」
ルイ・アームストロングがデューク・エリントン楽団をバックに歌います。「希望の明かりが見えてきた(I'm Beginning To See The Light)」。
   


この前の回の世間話で、東京の表参道にあった鰻屋さんの話をしました。いつも猫がのんびり昼寝をしている鰻屋さんですね。
鰻屋さんにいくと、だいたい、うな重は「松・竹・梅」みたいなランクに分かれています。値段は松がいちばん高くて、梅がいちばん安い。余りお金がない頃、僕はいつも当たり前に梅を注文していました。何の迷いもなく。でも、いくらか生活に余裕ができてからは、ひとつランクアップして竹を注文するようになりました。多少後ろめたい気持ちはあったけど、「ま、いいか」みたいな感じで。でも、もっと歳をとって、さらにもう少し余裕が出てきてからも、「松」にいけないんですよね。今日こそ「松」を頼もうと思って鰻屋さんに入っても、つい「竹」を頼んでしまいます。決して気が弱いわけじゃないんだけど、どうしても上から二番目あたりが、気分的にいちばん落ち着くみたいです。何ごとに寄らず、いちばん上というのはどうも居心地がわるい。どうも気恥ずかしくて「松」を頼めない。これはひょっとしたら、育った環境のせいかもしれません。

僕は穏やかな住宅地の、中産階級まっただ中みたいな、けっこう「ぬるい」環境で一人っ子として育ったせいか、積極的に人より前に出る、人より上に行く……ということが苦手みたいです。自分のペースで、自分の好きなことをこつこつとやるのは、なにより得意なんですけどね。というわけで、そのせいかどうか知りませんが、僕は鰻屋さんで永遠に「竹」を注文し続けることになるかもしれません。まあ、それも人生なんだろうけどね。

ちなみに僕は昔、駅伝チームを持っていました。うちのアシスタントと編集者有志の混合チームだったのですが、これの名前が「梅竹下ランナーズ」でした。「梅」クラスと、「竹の下」クラスのランナーが集まったチームだったんです。それでも、いろんなレースに出て、わりかし健闘しました。

◆Maxi Priest「Crazy Love」
たまにはレゲエを聴きましょう。マキシ・プリーストが歌います。「クレイジー・ラブ」
  


<収録中のつぶやき>
僕がこの前入った鰻屋は、梅が一番高くて、松が一番安いの。頼むとき、「松!」って頼むとかっこいいじゃない、なんか。そこだと梅を頼めるかなあ。

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1月26日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2月3日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~村上の世間話6~
放送日時:1月26日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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