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村上春樹 ツェッペリンのジョンジーに“太巻き”を差し入れ?「“ジョン・ポール・ジョーンズがムラカミに会いたがっている”という話が……」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。1月26日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話6~」をオンエア。好評の「村上の世間話」シリーズは、村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届け。この記事では、童謡「村の鍛冶屋(かじや)」、レッド・ツェッペリンのベーシスト、ジョン・ポール・ジョーンズとのエピソードなどを語ったパートを紹介します。



◆R.E.M.「Talk About The Passion」
久しぶりにR.E.M.(アール・イー・エム)をかけます。初期のものですね。「Talk About The Passion(情熱について語る)」。
   


昔作られた童謡って、古い言葉が使われているせいで、今となっては、よく意味がわからんというものがありますよね。たとえば「村の鍛冶屋」という歌がありますが、今の子どもは鍛冶屋がどういうものかなんてわかりません。そういう職業自体がもう存在しなくなっちゃったわけだから。だからこの歌は小学校の音楽教科書から外されたということです。残念ですね。

僕は毎日朝早く起きて、机に向かってこつこつと小説を書いているときに、よくこの歌を思い出したものです。「しばしも休まず、槌(つち)打つ響き……」。自分を勤勉な村の鍛冶屋に見立てて、僕も頑張らなくちゃ……と自分を叱咤激励(しったげきれい)していました。
それからこれは以前ホームページをやっていたときに、ちょっと話題になった問題ですが、「赤い靴」という童謡がありますね。「赤い靴はいてた女の子、異人(いじん)さんに連れられていっちゃった」、これも「七つの子」と同じ野口雨情の作詞になるものです。

異人さん、つまり異邦人、ストレンジャー、外国人のことですが、今ではもうほとんど使われてない死語なので、意味のわからないまま歌っている子どもたち、間違った解釈のもとに歌っている子どもたち、あるいはそれがそのまま大きくなった大人たちがけっこうたくさんいました。

解釈の間違いでいちばん多かったのは「いい爺さん」でした。いい爺さんに連れられていっちゃった……のならまあいいか、とか思うんだけど、暗い裏道に来たら「いい爺さん」ががらりと豹変して、ひひひ……なんてことも起こりますので、注意しなくてはね、人は見かけによりません。

また「イージーさにつられていっちゃった」というかなり現代風の解釈もありました。これもまた怖いですね。「これって、なんかラクじゃん」みたいなことでふらふらと、よく知らない誰かにイージーについていったら、とんでもない目に遭わされるかもしれません。世の中、おっかないです。

◆Dante & Friends (The Evergreens)「Miss America」
◆Elsie Bianchi「The Sweetest Sound」

ダンテ&フレンズが歌います。「Miss America」。これはビーチ・ボーイズの歌で知られるようになったのですが、オリジナルはこちらです。
   


つけ麺ライダーさん 49歳男性、愛知県の方からメールをいただきました。つけ麺ライダー、僕が差し上げたラジオネームですね。使っていただいてありがとうございます。ちょっと古くなりますが、10月に放送した「ローリングストーンズ・ソングブック」回への感想です。

<ストーンズのリフ話、おもしろかったです。ところで僕の知る限り、春樹さんからレッド・ツェッペリンの話を聞いたことないのですが、ツェッペリンに関しては、どのような見解でしょうか? ちなみに、ジミー・ペイジは、最近のおじいちゃんになってからの日本人ぽい顔が好きです>

はあ、見解ですか……。ツェッペリンねえ。若い頃もちろんしっかり聴いていますが、僕の守備範囲からはいくぶん外れているかなあ……という感はあります。僕がレコード店でバイトしている頃、「移民の歌」が店頭でやたらかかっていました。店長がツェッペリン好きだったんです。「あ、ああー」というイントロが今でも耳にしっかり残っています。

何年か前にレッド・ツェッペリンのベーシスト、ジョン・ポール・ジョーンズが自分のバンドを組んで日本に来まして、新宿のライブハウスで演奏したのですが、そのときに知人から「ジョン・ポール・ジョーンズがムラカミに会いたがっている」という話がありまして、僕もちょうど暇だったんで、聴きに行きました。

それで、何か手土産がいるなあと思って、いつも行く鮨屋で太巻きを巻いてもらいました。ここの太巻き、なかなかうまいんです。「これは、これからジョン・ポール・ジョーンズにお土産に持って行くんだよ」と話をしたら、職人さんがツェッペリンの大ファンで、「おれも実はベース弾きなんです」ということでした。「心を込めてしっかり巻きますから、ジョンジーさんによろしくお伝えください」

で、楽屋でジョンジーさんに太巻きを渡すときに、そのことを伝えたら「おお、そうか、ありがとう。心して食べるよ」ということでした。音楽にはほとんど関係ない話なんですけど。
それではレッド・ツェッペリンの「移民の歌」を聴いてください……と言いたいところですが、かけません。すみません。ぜんぜん関係なく、エルジー・ビアンキがピアノを弾いて歌います。「The Sweetest Sound」。

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1月26日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2月3日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~村上の世間話6~
放送日時:1月26日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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