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相性の悪さを自覚したのは、いつのことだったか。
夜な夜な濃厚な鶏出汁と優しい米麺を求めて買っていた冷凍のフォーが、突然なんの前触れもなく長崎ちゃんぽんに入れ替わったときか。東京と神奈川でのみ新発売という生チョコの情報をネットでチェックし、スイーツコーナーを毎日確認しては陳列されていないことに落胆し、店員さんに聞いてみると「うちには入荷の予定はないですね。」とすげなく返されたときか。九州でしかお目にかかれないと思っていた袋入りのかき氷をアイスコーナーでみつけ、7月中は毎晩一袋買って風呂上がりの楽しみにしていたのに、8月に入り更に暑さが厳しくなったらなぜか補充されなくなったときか。
とにかく近所のセブンイレブンとの相性が悪い。
厳密に言えばフランチャイズ店のオーナーないしは仕入れ担当との相性が悪いのだが。好きになる商品がことごとく棚から消えていってしまう。確かに僕の好みはあまり一般的ではないかもしれないが、それにしたって毎回毎回、それを目的にコンビニに行っているといって差し支えないレベルのものがなくなってしまうのはヘコむ。だったらそちら様がプッシュするものを愛したら応えてくれるだろうかと、先日麺類の棚の最下部を埋め尽くして大々的にフェアが開催されていた麻辣刀削麺を購入したみた。
……美味すぎる。
ペロンと平たい麺はもちもちの食感が心地よく、上にかかっているタレは幅広の麺にもしっかり絡み、最後にかける花椒の香りが鼻を抜けると、脳がもっと食わせろとシグナルをガンガンに発信する、好みどんぴしゃの絶品だった。なんだ、これまでは僕が一方的に愛していたからうまくいかなかったのだ。あなたが自信をもって愛してほしい部分が見えていなかっただけなのだ。恋は盲目とはよく言ったもんだ。ごめんねセブン。これからは二人で幸せに暮らしていこうねと誓った翌日、ご想像の通り麻辣刀削麺は棚から消えた。
あんなにプッシュしていたのに。何故なんだ。僕が気付くのが遅すぎたのだろうか。買い支えてあげられなくてごめん、と歪な愛憎を心の奥から燻らせていると、数日後、奇跡がおきた。
麻辣刀削麺は、麻『婆』刀削麺となって帰ってきたのだ。
会いたかったよ。すこしイメチェンしたみたいだけど、そんな君も素敵だ。麻辣も麻婆も、なに、僕の愛の前では変わらない。早速食べてみると、まあ正直な感想としては昔の君のほうが好みではあったけど、今の君も勿論素敵だ。
こうして、二人は末永く幸せにくらしましたとさ。
ところがどっこい。全くもって理解できないのだが、麻婆刀削麺も2日後に消え去った。前日に真っ赤なシールで「新発売」と貼ってあったにも関わらずだ。なぜだ。なぜなんだ。なぜことごとく僕の愛した存在は消え去ってしまうのか。唯一そばに寄り添い続けてくれるのは、学生時代から愛している野菜スティックくらいのものだ。彼女の存在は神の悪戯かなにかだろうか。
もしかしたら、僕が愛することで他にも刀削麺を楽しみにしていた誰かを悲しませているのかもしれないとすら考えてしまう。ごめん、昼食に刀削麺を食べようと楽しみにセブンに買いに来た見ず知らずの山口さん(仮)。
さて次なる悲劇が生まれる前に、お伝えしておきたい。今僕はおつまみコーナーのイカの醤油漬けにぞっこんだ。棚にはいつもひとつかふたつしか補充されていない。もしかしたら、彼女との日々も残り僅かかもしれないが、僕が買い支えていくことで今度こそ幸せな未来を築いてみせる。
「愛されるよりも愛したい、真剣(マジ)で。」まもなくDOMOTOに生まれ変わるKinKi Kidsの名曲を口ずさみながら、今夜も僕はセブンイレブンに繰り出す。