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村上春樹「ポールよりジョン・レノンの音楽のほうが評価がいくぶん高いみたいですが…」ポール・マッカートニーの音楽が好きな理由とは?

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。2月23日(日)の放送は「村上RADIO~村上の一生ものレコード~」をオンエア。村上さんが大事にしている「いつまでも聴いていたい」 “一生もの”の貴重なレコードを紹介しました。この記事では前半2曲について語ったパートを紹介します。



◆Paul & Linda McCartney『Ram』より「Uncle Albert / Admiral Halsey」
僕はポール・マッカートニーの音楽が好きです。日本では、というかおそらく世界的に見て、ポールよりはジョン・レノンの音楽のほうが評価がいくぶん高いみたいですね。とくにビートルズの解散後は「ポール・マッカートニーの音楽は商業的だ! 堕落している!」みたいに言われることが多かったかもしれない。ポールの音楽にはジョンのような思想性がない、みたいに。まあ、たしかにそうかもしれない。でも、ポールの作る音楽には彼ならではの独特の軽みと温かみがあって、それでいて意外に甘ったるくならないんです。僕はそういうところが好きです。もちろんジョン・レノンの音楽も素晴らしいとは思いますけど、それはそれとして……。

で、やたらいっぱいあるポールのアルバムから、どの1枚を選ぶかというと、僕は初期の作品『Ram』を選びます。これ、世間的にそれほど高い評価を受けているアルバムではないみたいだけど、僕はなぜかこれが大好きで、よく聴いています。中でも「アンクル・アルバートとハルゼー提督」が好きです。途中で曲調がガラッと変化するところなんか、いかにもポールという感じでたまらないですよね。
聴いてください。独立後まもないポール・マッカートニーの歌う「アンクル・アルバートとハルゼー提督」

◆Glenn Gould『Glenn Gould Plays Bach / The English Suites Complete』より「イギリス組曲第1番イ長調 BWV 806」
映画「羊たちの沈黙」の中で、ハンニバル・レクター博士はガラス張りの独房の中で聴く音楽として、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を選んでいました。グレン・グールドの、亡くなる直前の新しい吹き込みの方ですね。レクター博士、なかなか賢明なチョイスだとは思いますが、もし僕が独房に入れられるとしたら――もちろんぜんぜん入れられたくなんかないですが、もし入れられるとなったら――僕はおそらく同じグレン・グールドの演奏でも、バッハの「イギリス組曲」を“独房の1枚”として選びたいと思います。

「イギリス組曲」、なぜか昔から好きなんですよね。同じグールドが弾いていても、「ゴルトベルク」のような強烈なカリスマ性はないんだけど、一音一音がなぜか僕の心にぎゅんと染みついています。この曲集、並のピアニストが普通に弾くとけっこう退屈な音楽になってしまいがちなんだけど、グールドの演奏は聴きどころ満載で、何度聴いても飽きません。とくに左手が、生きた動物のように強靱(きょうじん)に動き回る様を目の当たりにしていると、わくわくしてしまいます。右手の内省に対する左手の自我、みたいな構図なのかなあ。

グールドの演奏では、ブラームスの曲集も好きで、どっちにしようかとちょっと迷ったんだけど、やはりバッハは深いです。繰り返し聞くのなら、どうしてもこちらになります。
組曲第1番の1曲目「プレリュード」を聴いてください。

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2月23日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 3月3日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~村上の一生ものレコード~
放送日時:2月23日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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