野口聡一「いまは誰しも心が折れる時代」「自分の弱さを認めたほうがいい」定年間近でJAXAを退職 著書『50歳からはじめる定年前退職』で伝えたかったこととは?

脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 4月19日(土)、26日(土)の放送ゲストは、宇宙飛行士の野口聡一さんです。19日(土)の放送では、野口さんの著書「宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職」(主婦の友社)についてお話を伺いました。


野口聡一さん



1965年生まれの野口さん。東京大学大学院を修了後、IHI(旧・石川島播磨重工業)入社後、1996年にJAXAの前身であるNASDAの宇宙飛行士候補者に選抜。3回の宇宙飛行に成功し、15年間での船外活動は4回。世界で初めて、3通りの方法(滑走路、地面着陸、水面着陸)で帰還したとして、ギネス記録に認定されています。

また、2021年に野口さんがISS国際宇宙ステーションでショパンの「別れの曲」を生演奏した動画「宇宙からのショパン生演奏」でYouTubeクリエイターアワードを受賞。2022年6月にJAXAを退職し、現在は合同会社・未来圏の代表、国際社会経済研究所の理事、東京大学特任教授などを通し、講演活動や大学での教育、研究活動を精力的におこなっています。

今年2月には、著書「宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職」を出版しました。定年を前にJAXAを退職し、自らの未来を切り開いた理由と、その舞台裏を公開。モチベーションの低下、収入の不安、アイデンティティの喪失――定年を迎える50代が直面する“三重の悩み”を解決するための生き方を提案しています。

◆人生の岐路で見つめ直したい自分の“弱さ”

茂木:「宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職」を拝読して僕がすごく感心したのは、やっぱり、そうは言っても野口さんは特別な方なのですが、本の内容自体はどんな方にも当てはまるような悩みとか、人生の選択のポイントが書かれています。リスキリング(※新しい仕事や役割に適応するために、必要なスキルや知識を学び直すこと)の話だかとか、組織に頼るのか、それとも思い切って飛び出すのか、とか。そのあたりが非常にいい本ですよね。

野口:ありがとうございます。宇宙飛行士のことだけを書くのなら、もう書く意味がないのですが、私のケースは1つの例であって。例えば、オリンピック選手の方も、金メダルを獲って帰ってきて、やはり似たような壁にぶつかって苦労されているんですよね。サラリーマンであっても、60歳、65歳で定年退職した次の日に、同じようなアイデンティティの総替えや収入、モチベーション、生きがいがなくなると、まったく同じような状態になることに気づいて、こういう本を書こうと思いました。

茂木:リスナーの方のなかにも、ご自身、あるいはご家族で人生の岐路に立って考えている方がいらっしゃると思います。いちばん訴えたいポイントはどこですか?

野口:「いまは誰しも、心が折れる時代である」ということです。かつては「性根がなってない」とか「気持ちが甘いから心が折れるんだ」と言われていたような気がするのですが、いまはみんな心が折れる時代なんです。

自分に弱さがあることを、むしろ積極的にオープンにしたほうがいい、認めたほうがいい。僕は、“弱さの情報公開”みたいな言い方をしますが、むしろ「自分がこんなに弱いんだ」ということをしっかり認めないと、自分の痛みに気がつかないふりをしているほうが、あとになって痛くなってくる。

ですから、いま生き方に悩んでいたり、職場環境で苦しんでいたら、それを積極的に情報公開して、そこからどうやれば立ち直れるのかというのを、みんなと一緒に(考える)。我々は、自分の弱さを言語化するのが下手なんです。私自身も下手だと思います。だからなかなか自分の弱さを認められない。それだと人生は変えられないですよね。それが1つの大きなメッセージです。

茂木:確かに、この本を読んでいると「弱さの情報公開」というのは、非常に印象的なキーワードになっています。野口さんにも弱さはあるのですか?

野口:ありますね。私自身も、本当に些細なことで悩んできているわけです。自分自身で仲間の宇宙飛行士と比べたり、上司にあたる人からの何気ない一言、現場で一生懸命頑張っているのに、それを認めないような発言をされたりしたときにはすごく傷つきましたし、それでアイデンティティを失うことになりかねないわけですよね。それが社会人というか、会社人としては当然と思っているところもあったのですが、それは、やはり「評価軸を他人に置いている」ことがよくなかったんじゃないかなと。「自分のことは自分でちゃんと評価してあげようよ」というところも、もう1つ大きなポイントかなと思います。

茂木:「棚下ろし」みたいなことも、書かれていましたよね?

野口:そうですね。自分の苦しい状態から抜け出す3つのステップとして、1つは「評価軸を自分に持ってこよう」、自分が正しいと思うことは正しい、自分が生きたいやり方に合わせていこうと。

2つ目は「自分の力をちゃんと棚下ろしして、理解しよう」。何ができるか分かれば、評価軸が自分にあって、自分の持っている力をしっかりと棚下ろしできる。

そして最後に、「できることであれば、自分の得意技に持っていく」。そのほうが結果的にハッピーな人生になるので、その3つのステップで戦略的に生きてほしいなと思います。


野口聡一さん、茂木健一郎



4月26日(土)の放送も、引き続き野口さんをお迎えしてお届けします。

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4月19日(土)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 4月27日(日)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:Dream HEART
放送エリア:TOKYO FMをはじめとするJFN全国38局ネット
放送日時:毎週土曜22:00~22:30
パーソナリティ:茂木健一郎

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