学校現場で“生成AI”はどう役立つ? 文部科学省が策定した「生成AIガイドライン」を専門家が解説

杉浦太陽と村上佳菜子がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「杉浦太陽・村上佳菜子 日曜まなびより」(毎週日曜 7:30~7:55)。「学びと成長」をコンセプトに、毎回さまざまなゲスト講師をお招きして、明日の暮らしがもっと豊かになる情報や気になるトピックをひも解いて、今よりもちょっと成長することを目指す番組です。5月4日(日・祝)の放送テーマは「学校に生成AIがやってきた!」。文部科学省 初等中等教育局の寺島史朗さんから、教育現場における生成AIの活用法を伺いました。


(左から)杉浦太陽、寺島史朗さん、村上佳菜子


◆学校現場における“生成AI運用の課題”

“AI”とは膨大なデータを学習し、それをもとに文章や画像などの新しいコンテンツを生み出す人工知能のことを指します。近年では、ChatGPTやGeminiといった先進的な生成AIが登場し、急速に注目を集めています。AIを活用したサービス自体は以前から存在しており、将棋などの対戦ゲームアプリやスマートフォンの顔認証機能、スマートスピーカーの音声認識などもAI技術が活用されています。

そのなかで、生成AIは新たな創作物を生み出すことに特化しており、文章や画像だけでなく、音楽や映像の生成も可能です。業務の効率化や創作活動の支援など、さまざまな分野で活用が期待されている一方で、漫画家の作風を無断で模倣したり、芸能人の声を偽って使用するなど、社会に影響を及ぼす事例も出てきています。つまり、生成AIは使い方次第で大きな力を発揮しますが、運用にはいくつかの課題も伴います。

特に重要なのが“情報の正確性”です。寺島さんは「生成AIは膨大な情報を学習しますが、事実とは異なる情報を出力する場合があり、それを完全に防ぐことは極めて難しいとされています。しかも、学校現場での利活用にあたっては一定のリスクがあります」と言及します。

◆文部科学省策定の「生成AIガイドライン」をチェック

AIが事実とは異なる最もらしい嘘を出力することを「ハルシネーション」と言います。また、生成AIは大量のデータのなかにある偏りをそのまま再生成することや、著作権、機密情報、個人情報の流出に関するリスクも指摘されています。教育現場での導入においては、こうしたリスクを十分に把握し、適切な使い方を検討することが求められます。

文部科学省では、学校現場で生成AIを安全かつ効果的に活用できるよう「生成AIに関するガイドライン」を策定しています。ガイドラインの基本的な考え方として、“人間中心の利活用”“情報活用能力の育成”の2点を示しています。

【人間中心の利活用】

生成AIと人間との関係を対立的に捉えたり、必要以上に不安に思ったりするのではなく、使い方によって人間の能力をサポートし、可能性を広げてくれる有用な道具になり得るものと捉えます。生成されたものは、あくまでも参考の1つとしてリスクや懸念を踏まえたうえで最後は人間が判断し、自らが責任を持つという基本姿勢が重要であることを示しています。

【情報活用能力の育成】

“生成AIを使うこと”自体が目的ではなく、それが児童・生徒の資質や能力の育成に役立つかどうか、また教育活動の目的を達成するうえで効果的かどうかを十分に見極めたうえで活用することが求められます。また、“ネット上のルールやマナーを守る”といった情報モラルも含めて、情報活用能力の育成をさらに強化していくことが示されています。

生成AIはあくまでも手段であり、子どもたちの成長を後押しするために効果的に使うことが求められています。そして、生成AIの存在を前提とし、その特性を理解して適切に扱える能力を育てることを目指しています。

◆生成AIパイロット校の取り組み

文部科学省は、ガイドラインに基づき「リーディングDXスクール 生成AIパイロット校」を指定し、教育現場や校務における生成AIの活用に取り組んでいます。学校における利用場面は、大きく分けて「教職員が校務で使用するケース」と「児童・生徒が学習活動で活用するケース」の2つです。

寺島さんは、教職員による利活用の具体例として「各種行事の案内文を作成するのに、まずは生成AIでたたき台を作成したうえで、先生が修正や補足をおこなうそうです。ほかにも、『学年だより』などを作成する際、生成AIに誤字・脱字チェックをおこなわせたりすることで、先生たちの確認時間を大幅に短縮できるそうです」と解説。ほかにも、授業で使用したワークシートや振り返りの内容を生成AIに読み込ませて、それをもとにテスト問題のたたき台を作成するケースもあります。

続いて、生徒の学習活動における生成AIの活用事例について。ある小学校では「誤りを含むAI生成の記事」と「正確な実際の記事」を比較する授業を実施。体感を通じて生徒自身が生成AIの特性や課題について学び、自分なりにAIとの関わり方を考える時間が設けられ、生徒からは「インターネット上の情報をすぐに信じるのではなく、さまざまな資料と照らし合わせたり、自分の経験をもとに考えたりすることが大切だと感じました」といった反応がありました。

また、中学校のパイロット校では、グループで課題に取り組む授業に生成AIを取り入れた事例も。話し合いがある程度進んだ段階で、生成AIに新たな視点や助言を求めることで、それをもとにさらに深い議論を交わすことができます。また、寺島さんは「少人数のグループでは違う視点が出にくく、反対意見を言うことをためらってしまう人もいますが、生成AIを上手に活用すれば、提示された視点を踏まえて、さらに考えを深めることができるわけです」と補足します。

そして、最後に「AI時代を生きる子どもたちが、生成AIをはじめテクノロジーを道具として使いこなし、才能を開花させるには、学校現場で生成AIが適切に利活用されることが望まれます。教職員をはじめ、日頃から子どもと接する機会がある方は、まずは自分たちが生成AIのリスクを正しく認識して、必要以上に恐れず適切に向き合っていくことが重要だと考えています」と話していました。

番組のエンディングでは、杉浦と村上が今回学んだ「学校現場における生成AIとの向き合い方」について復習。2人が特に注目した点をピックアップして発表します。まず村上は “生成AI 正しく理解し活用しよう”を注目ポイントに挙げます。続いて、杉浦は“生成AI時代 子どもと一緒に学んでいこう”とスケッチブックに書き、「学校現場における生成AIの適切な利活用について詳しく知りたい方は、文部科学省のホームページをご覧ください」と呼びかけました。


(左から)杉浦太陽、村上佳菜子



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5月4日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2025年5月12日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:杉浦太陽・村上佳菜子 日曜まなびより
放送日時:毎週日曜 7:30~7:55
パーソナリティ:杉浦太陽、村上佳菜子
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/manabiyori/

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