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テレビで睡眠時無呼吸症候群について特集をしていた。ブラックマヨネーズ小杉さんの睡
眠時の状態を測定すると、大いびきをかいていて長いときは1分ほども息をしていない、無
呼吸の状態であると判明。これでは睡眠中に十分な酸素が取り込めず、寝ても寝ても睡眠不
足になってしまう。睡眠不足が続くと、覚醒していても酔っ払っているときと脳の状態が大
して変わらないという説もある、というのだ。改善するために鼻から空気を送り込み、気道
を確保する CPAP という装置を勧められていた。
数年前に亡くなった父も、小杉さんのようないびきをしていたのを思い出し、この装置を
教えてあげていたらもっと良い睡眠がとれていたかな、としんみりしていると隣でポテチを
かじっていた妻がのたまった。
「あなたもこれつけたら?」
……え?
確かにへとへとに疲れている日は、いびきをかいている自覚があった。多分、疲労で筋肉が弛緩し、
喉の奥の気道が狭くなっているのだろうと自分なりに分析もしていて、疲れて帰ってきた日は
「ごめん、今日はちょっといびきかいちゃうかも」と、殊勝にも妻に詫びを入れていたものだ。
が、詳しく聞いてみると振り幅はあるものの、大体毎日いびきをかいているというではないか。
驚天動地である。
そもそも睡眠時無呼吸症候群やいびきというのは、肥満が原因だと思っていたので、やせぎすの自分には無縁のものと思っていたのに。
いや、よくよく思い返してみれば、納得できるものがある。
ここ数年、8時間位のしっかりした睡眠をとっても、体感では1時間位の仮眠をとったときよりも回復した気がしない。昼頃には眠くなるし、疲れなんて勿論とれない。睡眠環境が悪いせいだと、ベッドや枕をオーダーし、窓には真っ黒いシートをはって完全に遮光し、お風呂にもしっかり浸かる、リカバリーウェアなる疲れをきれいさっぱりバイバイしてくれちゃうパジャマまで取り入れた。 お話を伺う機会があった快眠セラピストの三橋美穂さんには、完璧な睡眠環境ですとお墨付きをいただいた。でも悲しいかな、僕の睡眠の質は悪かった。
夜泣きをする子どもの寝かしつけで細切れ睡眠だし、年齢的にも疲れが取れにくくなってきたんだな。年をとるって大変だ、諸先輩方はパワフルですごい、などと諦念の境地に至った気になっていたが、とんだ見当違いだったのだ。
早速、番組で紹介されていた睡眠外来なる病院にかかり、測定装置をもらって帰宅した。
未だ受け入れがたいものがある僕は、いつもより早めに風呂に入り、スマホも就寝3時間前
には触れないようにデスクに置き、普段よりも気合を入れてベッドに入った。はたしてその日の睡眠の質は、
いつもより大分いいものだったと思う。
自信満々に病院で結果を聞きにいったが、医師からはまあまあ深刻な表情で重度の睡眠時無呼吸症候群です、と告げられた。
保険も適用されるレベルで、直ちに治療のために小杉さんも渡されていた CPAP という装置をつけて就寝して下さいとのこと。猿ぐつわの鼻バージョンのような形で、装着後の見た目は間抜けなハンニバル・レクター。半端なハンニバル、ハンパニバルである。
・・・は?
試しに1時間昼寝してみると、寝起きのスッキリ感がとんでもない。視界までクリアになった気がする。いびきをかいている皆様、睡眠外来にかかってみてくださいと回覧板に書き記してご町内に回したくなるほど効果てきめんだった。
ああ、これまで僕は常に睡眠不足で、日中も酔っ払ったような状態でパフォーマンスをしていたのだ。
これが改善されて十全の働きができるようになったら、とんでもないスーパーマンになってしまうかもしれない。
読者諸賢は今後のハンパニバルの活躍に大いに注目していただきたい。
……ちなみに執筆時点では、赤子の夜間授乳や夜泣きへの対応で、CPAP を装着していても寝不足なのは変わっていない。つまりこのエッセイはほぼ酩酊状態でハンパニバルが書いていることを、皆様には十分に考慮していただきたい。