加藤登紀子、EPO、俵万智が綴った「亡き父と母」への独白 小山薫堂・宇賀なつみも再確認した「手紙の力」

放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。1月4日(日)の放送は、「サンポス・アンコール」と題して、 2025年に出演したゲストの手紙朗読を改めてピックアップしていきました。


(左から)パーソナリティの宇賀なつみ、小山薫堂



◆歌という“故郷”を与えてくれた父に感謝の言葉

「日本郵便 SUNDAY’S POST」は、2025年の1年間に総勢53名のゲストをお迎えしました。番組では毎回、ゲストが「いま、想いを伝えたい方」へ宛てたお手紙を書き、朗読をおこないます。

今回は、そのなかから「もう一度、みなさんに聞いてほしい」と感じたお手紙を選び、ご紹介します。最初にお届けするのは、歌手・加藤登紀子さんのお手紙です。加藤さんは2025年3月16日の放送に出演。お手紙の宛先は、加藤さんのお父様でした。

<加藤登紀子さんのお手紙>

お父ちゃんへのお手紙

お父ちゃんが私に内緒でシャンソンコンクールに申し込んだことが、私の運命を変えました。歌手になろうと思ったこともなかったし、歌に自信があったわけでもなかったから、びっくりしました。でも、あの挑戦に乗って本当によかったと思う。

1回目は優勝できず、4位でした。けれど、それがかえってよかった。そこから1年、シャンソンを勉強して、本当に歌手になる決心ができました。そして2回目、1965年に優勝し、歌手になった。今年はそれから60年です。たくさんの経験があり、出会いがあり、何もかもが素晴らしかったよ。

お父ちゃんが言っていたこと、覚えています。「満州生まれの者は、故郷がないようになってしまう。故郷のない者ほど悲しいものはないぞ。お前にはそんな思いをさせとうないんや」って。

ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ攻撃で、たくさんの人が故郷を離れていくのを見て、涙が止まらないです。でも、お父ちゃん。私は歌手だから。

心のなかに、いっぱいの故郷があります。これからも、故郷のない人の悲しみを、私の歌にしていきます。お父ちゃんは、私に故郷をくれたんだよ。歌という故郷をね。登紀子

加藤:私の父はね、本当に歌が上手だったの。そして、82歳で死にました。死ぬまでお父ちゃんは歌っていましたね。亡くなる前、たまたま珍しくふたりだけで喋ったことがあって。そのときに「お前はまだまだやな。俺には及ばんな」って言われましたね(笑)。だから、お父ちゃんは「まだまだや」と思っているかもしれませんね。

小山:「歌が故郷」っていい言葉ですね。自分がたくさんの人の故郷を作り、歌い続けるということですよね。歌手という職業は、本当に羨ましいなと思います。

◆未来の自分は歌で人を癒す存在となる

2025年6月1日に出演したEPOさんは、自身に宛てたお手紙を朗読し、母への想いを伝えました。

<EPOさんのお手紙>

あの日の私へ。

あの日の私、お元気ですか? 未来の私から、あなたへお手紙を書いています。あなたが生まれる前のことですが、覚えていますか?

この世に生まれてくる前のこと。生まれ変わりのときを、雲の上で待っていたことを。あなたは神様に、こんなお願いをしましたね。

「私、どうしてももう一度生まれてみたいのですけど、どこかに私のお母さんになってくれる人はいますか?」

「1つあるにはあるんだが、そこはおすすめできないね」

「どうしてですか?」

「苦労するぞ。たくさん泣くぞ。たくさん傷つくぞ」

少しがっかりするあなたを見て、神様は何かひらめいたように、こう続けました。

「でも、君が地上に降りてやってみたいと思っていることのためだったら、このお母さんほど的確な人はいないだろう」

神様が、あなたにそう言ったのです。

「神様。その人がどういうお母さんなのかはよくわからないけれど、私、それでもいいです。では、行ってきます!」

「はい。楽しんで、楽しんで。明るいほうへ、明るいほうへ」

そして、あなたはこの地上に生まれてきました。

神様が言っていた通り、生まれてきてからのあなたは、お母さんが抱える心の問題で、とても苦労しました。ところが、どうでしょう。お母さんの言葉に傷ついて泣いては1つ、また泣いては1つ。そのたびに、あなたのなかから素敵な歌が生まれてきました。あなたは、自分のつらい気持ちを歌にして、自分で心の傷を治してきたのです。

やがてあなたは大きくなり、いつしか歌を作ることが、あなたの大切な仕事になりました。そう、あなたは歌を作る人。そして、その歌を歌う人。それが、あなたの未来の仕事です。

あなたは、心に問題を抱えたお母さんをあえて選んだことで、あらゆる感情を体験し、やがてそれを歌にして、人の心を癒やす人になりました。それが、今の私です。

だから、これからも約束して。数えてはいけない、ありがとうと言ってくれない人たちを。数えてはいけない、悲しみの数を。悲しみというのは欲が深くて「なんで?」が増えていくだけだから。

数えてはいけない、ホクロの数を。数えていいのは、感謝と「ありがとう」の数だけ。EPOより

EPO:大変な人生の母でした。でも、そのお母さんしか私は知らないので、そういうもんだと思っていました。子どもながらに混乱して大人になったんですけど、その母を選んだことで、私は心のことにすごく興味を持ったんですね。私は今、心理セラピストの仕事もしているんですけども、それもあの母を選ばなかったら、たぶんそうはならなかった。

◆俵万智が亡き父に向けて短歌の贈り物

2025年の放送には、歌人の俵万智さんも出演しました。放送日は、俵さんの代表作「サラダ記念日」に記された7月6日でした。俵さんが書かれたのは、亡き父に宛てたお手紙でした。

<俵万智さんのお手紙>

お父さん、お元気ですか?

天国でも毎日、囲碁を楽しんでいますか? 病室の天井の格子模様に向かって、手を動かしていた姿を思い出します。あれは、天井に白黒の碁石が見えていたんだよね。看護師さんに説明したら「本当にお好きなんですね」と感心していました。

晩年は、1日10時間くらいパソコンの前に座って、ネットで囲碁をしていましたね。いつだったか、サイトで募集していた「囲碁川柳」にも応募して、娘が歌人のわりには見事落選。家族で笑い合ったのを覚えています。

その囲碁川柳の審査員、小山薫堂さんに、今日はラジオでお会いしましたよ。川柳は下手くそだったけれど、私の短歌は誰よりも暗唱してくれていましたね。お父さんを見送ってから、どんなに気に入った短歌ができても、もう読んでもらえないんだなと思ってしまいます。

この1年あまりは、お父さんを詠んだ歌ばかり作っていました。歌が生まれては「ああ、もう読んでもらえない。当たり前じゃん、お父さんがいないって歌なんだから」と、自分でツッコミを入れつつ、改めて寂しさを実感します。

今日は、こういう特別な電波なので、もしかしたら届くんじゃないかと思って、いくつか短歌を読みますね。天国で聴いていてください。

「妻の名前 隠されているパスワード もう一度打ってほしい父の手」

「形式と 思っておりし 線香の煙は 空へ届くひらがな」

「父逝きて はじめての雪 思い出し泣きという語の辞書にはあらず」

「大谷が結婚しても 藤井くん負けても 真顔のまんまの遺影」

「死にたいと言いつつ母は 塩分を控えて 今日の健康を見る」

最後の歌は、お母さんの近況です。早くお父さんのところへ行きたいと言いつつ、それはもう少し先になりそうかな。ゆっくり待っていてください。万智より

宇賀:短歌はもちろんですけども、お手紙全体が本当に素晴らしい作品でしたね。

小山:たくさんの短歌を書いてくださいました。短歌の面白さを改めて感じましたよ。



2025年に番組へ寄せられた手紙の一通一通には、それぞれの人生と、時代を超えて受け継がれていく想いが込められていました。2026年の「SUNDAY’S POST」も、さまざまなゲストを迎え、特別なお手紙の時間をお届けします。

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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1


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