番組MCの蒲田健による放送後記
今回は作家、ドイツ文学者の中野京子さんです。
中野京子さんの最新刊「運命の絵」。
西洋古典絵画には多くの“お約束”がある。
鎌や砂時計を持つ翼をはやした半裸の老人は「時」を象徴している
天秤と刀剣を持つヌードの女性は「正義」を表す、等々。
それらを知らずとも、単純に視覚刺激として心が動かされるということは
あり得る。“心を無にしてただ見れば良いのだ”という鑑賞の方法論は存在するし
それにも一面の真理はある。しかしながらその作品が描かれた時代
環境、背景などと共にそれらの“お約束”まで踏まえて向き合えば
登場人物、構図、色彩などに一定の必然性が浮かび上がる。
味わいはより深く濃厚になるといえよう。
中野さんは言う「画家は感覚だけで描いたのではない。
発注者と相談し、先行作品を研究し、多くの文献を読んで想を練り
構図と色を決め、さらにオリジナリティを加えたのだ。見る側が
少しでもそれを読み解こうとするのは画家への礼儀であり
絵画鑑賞の喜びを増すことにもつながるだろう」と。
まさに。
そこには作品を描いてくれたアーティストへの、愛と尊敬がある。
そしてその解説により、その愛と尊敬を共有できる。
心が豊かになるとはかくや、ではなかろうか。
「描かれた 様々なもの それぞれに
込められしこと 細部に宿る」
P.S.「名画の謎」シリーズ、「怖い絵」シリーズなどに続く
今回の「運命の絵」シリーズ。いよいよここが本丸なのではないでしょうか。
今後どんな作品が取り上げられるのかということも
非常に興味を惹かれるところです。