ゲスト:椎名誠さん(作家)
家族が全員そろって笑いながら一緒にご飯を食べるという情景は、人生の中でもかなり上等で至福の時間
椎名誠さんの最新刊「家族のあしあと」
大ベストセラーとなった私小説「岳物語」。少年だった岳くんはやがて大人になり結婚し子供が生まれる。物語はシーナさんにとってのその孫世代に舞台を移し語り継がれてきた。いわば「岳物語」“紀元後”のお話。あるときふとしたきっかけでシーナさんは思い至る。自分自身にもかつての岳少年、そして今の孫世代とおなじ年代だった時代=「岳物語」“紀元前”がある。そのあたりのことを客観的にじっくり見つめてみたい、と。
主な舞台となるのは千葉県 幕張。今では埋立地の上に威容を放つ幕張メッセの地として知られる場所だが、かつてそこには豊饒なる遠浅の海が広がっていた。そしてそこでは様々な経験を重ねて成長していくシーナ少年が躍動していた。
私自身はシーナさんと岳くんの中間ぐらいの世代であることもあり、自分自身の“紀元前”の時代の物語としても読んだ。
紀元前と紀元後は目に見える社会環境は大きく違う。しかしながらそれぞれの時の点をつなげると、それは線となって今への道筋が明らかになる。ある日突然変わった、という不連続なものではなく、連続したものとして。
そしてそんな一見大きく違う環境の中でも、「家族」という形態がもつ普遍性が、その儚さも含めて根源的なところで通底しているのであろう、ということが様々な角度から浮き彫りになってくる。
多くの人にとって、自分の“紀元前”の話として読み替えられる、そして「家族」をじっくりと考える示唆を与えてくれる物語である。
「食卓で みんな揃って いただきます
その有難さ かみしめながら」
P.S.偶然ですが私自身も少年時代の数年を、千葉で暮らしていました。時代は違いますが、あーそういう風景だったよなーという情景もあり、その意味でも引き込まれる物語でした。続編で更にその風景がどう変わってゆくのか、楽しみです。