ゲスト:塩田武士(作家)
最後は“大泉洋”に騙される。
塩田武士さんの最新刊「騙し絵の牙」
今回の舞台は塩田さんが当事者中の当事者である出版業界。そして主人公は稀代のマルチタレントを最初から想定した、あてがき。
様々な曲者が暗躍する業界内を巧みに軽やかに立ち回る雑誌編集長・速水輝也=大泉洋。大泉の口調や言い回し、ものまねレパートリーまでを徹底的にリサーチしたうえで作り上げた人物像は、活字ながら本人の声や動きがリアルに感じられるほどのクオリティとなっている。テイストは三枚目風味を程よくまぶした二枚目。その言動、行動はとても魅力的である。
出版不況と言われて久しい昨今。当事者である塩田さんの危機感は大きい。と同時にこれだけ他のメディアに押し込まれている状況だからこそ旧来のメディアである活字には、今だからこそ求められる役割、そしてそれに応えうるポテンシャルがあると確信している。きっかけさえあればまだまだ人々は活字の世界に戻ってくる。そのためには時代に即した仕掛けが必要。作中にもその仕掛けとしてのアイデアが多く出てくる。小説史上類を見ない「あてがき」という手法もその仕掛けのひとつである。
咀嚼して血肉とするためには時間や労力を必要とするが、だからこその「本物の力」となる活字メディア。まだまだできることは沢山あるはずだ。
「ずっとある 古いメディア だからこそ
その底力 実はスゴイぞ」
P.S.かつてお笑い芸人を志したほどのユーモアセンスと、新聞記者として磨いてきた徹底した取材力。社会派長編として書き上げた今作でもそれが見事なマリアージュの上に結実しています。