ゲスト:乙武洋匡
「車椅子のホスト。ちっとも無理なんかじゃないって俺が証明してやるよ」
乙武洋匡さんの最新刊「車輪の上」
タイトルの本歌はもちろんヘッセの名作「車輪の下」。少年の成長、挫折、苦悩を描く古典である。「車輪の上」もまた青年の成長、挫折、苦悩がテーマというところで、大きな意味で通底している。
足に障害を持ち、車椅子という文字通り「車輪の上」に乗って行動する主人公は、ひょんなことからホスト業界に身を置くことになる。そこに待ち受ける様々な困難。車椅子だから、という先入観やレッテルが生み出す偏見。そしてそのレッテルを貼っているのは他人だけではなく、外ならぬ自分も、であるかもしれないという自省。
難問である。快刀乱麻を断つ絶対の正解は存在しない。しかし少なくともそこに気づくことが解決の方向に向く第一歩となるはずだ。
「五体不満足」から20年。バリアフリー、ダイバーシティ、インクルージョン・・・様々な概念は一般化しつつある。これは大いに喜ばしい変化である。しかし、と乙武さんは指摘する。先にあげた言葉はすべて外来語、外国からの輸入品であるのだと。表層的な意味は理解できていても、まだ日本語として腑に落ちたことにはなっていないのではないか。
キーになってくるのは教育である、と乙武さん。世の中の意識を変えるのにはまだまだ長い時間はかかるのかもしれない。しかし少なくともそこに気づくことはできてきている、ということには光明を見出したい、とも思う。
「まぜこぜに なっているのが 当たり前
そうなりゃもっと 暮らしやすいかも」
P.S. ここ数年の大きな挫折(ご本人の表現をお借りすれば「社会的な死」)を経て、どっこいここに生きてるぜという所信表明でもあるはずの今作を上梓した乙武さん。以前よりもさらに人間的魅力がバージョンアップしているとお見受けしました。今後の乙武ニューチャプター、大いに期待してます!
OA曲:「WHEEL」JHON MAYER