速報のその先を追いかける(2020年3月30日放送Slow News Report)

TOKYO SLOW NEWS Slow News Report「スローニュースとは?」


Fast NewsとSlow News

速水:時刻は8時18分TOKYO SLOW NEWS 速水健朗です。ここからはSlow News Report。第1回目の今日は、このコーナーでこれから何を伝えていくのか、スローニュースとは何なのか、そこから始めてみたいと思います。というわけでこの方をスタジオにお迎えしました。スローニュース株式会社代表瀬尾傑さんです。よろしくお願いします。瀬尾さんは月刊現代であるとか、フライデー、週刊現代など、色んな編集長、編集を歴任されてきまして、僕もよくお世話になってました。そして2018年スマートニュースに入社。スマートニュースメディア研究所所長を経てスローニュース代表を兼務していらっしゃいます。
まずは、この番組のタイトルでもある「スローニュース」または「スロージャーナリズム」がどんなものかお伺いしたいんですが。

瀬尾:一言で言うと取材に時間をかけた記事のことをスローニュースと言っています。できれば読む側にもゆっくり読んでほしいなという思いを込めています。

速水:ニュースとはそもそも「ニュー」って言葉が入っているぐらいに、速報性であるとか、とにかく今起こっていることを伝えるんだっていう要素があると思うんですけど、それとスピードがスローであること、これをどう両立するのですか?

瀬尾:おっしゃるようにニュースって、これまでは早いことに意味があるという風に思われたわけですよね。例えば典型的なのは、裁判の判決が出た時に記者の方が奥から走ってきて「無罪でした!」みたいなことを見せますよね。あれがスピード競争なんですよね。僕らはそれを Fast NEWS と名付けてるんです。
もちろんスピードが大事なニュースもあります。例えば震災が起きたとかですね、あるいは事件があって安否を知りたいとか、そういう時のスピードももちろん大事だと思うんですよね。でもニュースの価値って、本来それだけではないと思ってるんです。スピードだけじゃなくて、むしろもっと真相を知りたい、このニュースの裏側を知りたい、あるいはもっと正確な情報が知りたい。こういう人向けに作ってるのがスローニュースなんですね。

速水:たとえば世界でも速報性以外の部分を追求する流れっていうのはあるんでしょうか?

瀬尾:そういう動きが出てきてます。例えばフランスでMediapar(メディアパルト)っていうネットメディアが注目されてるんです。フランスにはル・モンドみたいな高級紙があるんですけども、それに対してネット中心のメディアであるメディアパルトは、今ルモンドの半分ぐらいの読者がいる大きなメディアになってるんです。やってることはスローニュースの中でも、ジャーナリズムのいちばん代表的なジャンルである調査報道というジャンルなんですね。普通のニュースというのは、例えば事件とか事故。多発性物って言うんですけども、今ですとコロナウイルスで患者が出ましたとか、そういう話ですね。これに対して、この前文藝春秋がスクープして話題になりましたけども、森友事件の渦中で亡くなられた財務省の職員の方の遺書ですね。これなんかはライターの相澤さんが時間をかけて取材して、遺族の方の信用を得て、そしてこの時期になって公表できたわけなんですけど、こういう時間をかけて取材したものを調査報道というわけですよね。メディアパルトもフランスの大統領のスキャンダルとか、そういうものを時間をかけて取材することによって読者の信頼を得て、会員を獲得しているメディアなんです。他にも、オランダでもコレスポンデントというメディアができてます。これもやっぱりネットメディアなんですけども、ここはジャーナリストが、そのコレスポンデントというプラットホームの中で記事を書く。そしてこのジャーナリストの記事がすごく出来がいいので応援したいという場合は、ある意味寄付のような形で集まってくるメディアですね。こういう形でじっくり時間をかけて取材しようという方を応援するメディアというのは、ヨーロッパでも次々に生まれてます。

速水:これは瀬尾さんがまさにやられているお仕事なんですけど、この会社の役割ってどういうものになってるんでしょうか?

瀬尾:僕らは調査報道の新しいエコシステムを作ろうということなんです。僕らは調査報道をやろうとしてる人たちをまずは支援するんですね。ジャーナリストとかメディアの方に対して、取材費を提供したりとか、あるいは配信のお手伝いをしたりとか、そういうことをします。でもこれは、単に支援するというだけでは長続きしないんですよね。やっぱりちゃんとビジネスとして健全にそれが評価する仕組みがないと長続きしないわけです。僕はそれをエコシステムと言っています。今のニュースっていうのはすごくみんな急いで急いで出そうとしてるんですけども、そうじゃなくてじっくり時間をかけて取材されたニュースこそが価値を持つ空間を作ろうということを考えてるのが、スローニュースという会社です。

速水:スローニュース株式会社の支援を受けているジャーナリスト集団、フロントラインプレスの方々には、今後このコーナーで、今起こっている様々なことを伝えていただきますが、例えばどういうこと今取材されているんでしょうか?

瀬尾:例えば、選挙資金の報道というのをすでにやりました。これは選挙のときに集めた選挙資金の行方が不透明になっていて、これまで新聞であまり書かれてこなかったんですけども、フロントラインプレスが全国会議員の政治資金報告書調べて、このお金がどう使われているのかということを調べました。そうすると、多くの国会議員の方が非常に不透明な使い方をしてるんですね。これはおかしいということを調査報道したのが、政治資金の調査報道企画です。

速水:なるほど。当選落選にしか興味がないっていうところから、興味をまずもってもらうっていうことですね。先ほど、聞く側、読む側にもスローを要求するというお話でしたけど、僕らの感心事って、選挙で言うと「誰が落選するんだ?」ですけど、その後をちゃんと追いかけるっていう事ですよね?

瀬尾:そうなんです。今まで、この選挙資金の行方という話が出た時に、不正が行われると個人の政治家を追求するわけですよね。ところが僕らフロントラインプレスはそういう書き方をしなかったんですね。つまり、これは多くの政治家が同じ不正を行っていたけど、これは制度自体に問題がある。個人が悪いという問題だけにしちゃうと、その政治家が辞めればもう無かったことになっちゃうわけですよね。これが今までの週刊誌のスキャンダル報道とかだったんですけど、僕らはその記事の書き方をで、社会の制度を変えることを目標にする。この制度自体の問題点を指摘するという記事にしました。この部分がまさにゆっくり読んで欲しいとこなんですよね。つまり好奇心だけだと、この政治家が良くないという話で終わってしまうんです。例えば不正が出たら大臣はやめるけど、またやっぱり同じようなことをする人が出てくる。

速水:それができないようにするためには、制度を変えるんだっていうところまで含めての調査報道というか、時間をかけた社会のあり方を変えていくみたところまで踏まえているわけですね。

瀬尾:そうですね。僕らの記事の作り方って、社会的インパクトを重視するという言い方をしてるんですね。その社会的インパクトっていうのは、今までの報道だと、大臣を辞めさせれば一番インパクトがっていう形にしたんですけども、そうではなくて、制度が変わることにインパクトがあるんだと、世の中をよくすることに意味があるんだということを調査報道にするということを目指しました。




メディアが信頼を得るために

速水:街の人達の声を色々聞いてみましたが、テレビのニュースだけ見て信じているわけではなく、皆さんいろんな媒体を使い分けてるなって思いました。瀬尾さんはテレビのコメンテーターもやりますけど、こういう声を聞いてどうですか?。

瀬尾:改めてマスコミ、テレビとか新聞に対する不信感がすごく根強いなと感じましたね。
でも、だからそここそ実はチャンスだと思ってるんです。一般の方からすると、こういうラジオ番組も編集されてるんじゃないとかとか、雑誌なんかでも、インタビューをした後に都合のいいように編集してるんじゃないかみたいな意見があったりするんですけど、それはその通りなんですよ。つまり1時間のインタビューから10分ぐらい作ったりするわけですが、そこが不信感を買ってるんだったら、作ってる作業自体見せればいいと思うんですね。例えば一つのやり方は、僕は現代ビジネスはこういうやり方をしたんですけども、インタビューをしたら1時間のインタビュー自体は例えば YouTube等にアップするわけです。そしてインタビューを編集でまとめた記事は現代ビジネスに載せますと。そうすれば現代ビジネスの記事を見れば僕らの運営編集方針をわかるでしょうし、僕らか何かやってるんじゃないかという方は「どうぞ元の YouTube を見てくださいね」と。そうすると全部見えるので、手の内を全部見せるということが、実は信頼を得るということではとても大事なことなんだと思うんですね。

速水:逆にそれをやると、聴く側、見る側、読む側にとっては非常に負担がありますね。でもここを変えたんだとかということを全部公開して検証を可能にする。これ自体が検証報道、調査報道っていうことを、自分たちではなくて読む側見る側にも委ねる部分も含めて公開するよっていうことですね。

瀬尾:検証出来るという事はすごく大事だと思っています。例えば科学の論文だと、よく”再現性”っていう言い方をされます。つまり論文を書いて、その実験を誰がやっても同じ結果が出るということが、その論文が信頼できるということですね。じつはジャーナリズムの世界もそうだと思っていて、誰が取材しても同じ結果が出る。もちろんそれはその時、話す人によって違ってくるんですけども、でも素材を全部提供していれば、元の音源を全部見せていれば、これをどういう風に加工するのかという手のうちが見れるわけですから、これは再現可能になるわけですよね。これがメディアが信頼を勝ち取るも一つの方法だと思うんですね。

速水:なるほど。例えばテレビには時間がありますし、雑誌だったら紙面の都合があって、何ページも使えるわけじゃないっていうのがある。それをいくらでも使えるのがネットであるというところを活かすということだと思うんですが、かつては時間をかけて取材したものを発表する場があったりしてるんですけど、今どんどん誰でも発表できる場が増えている一方、お金が回らなくなっている。もちろんビジネスとして取材して、それを発表する人も食ってかなきゃいけないっていう部分も含めて、実は選択肢は増える一方、ジャーナリスト、何かを伝える人たちが活躍する場って経済的に細くなっていっている。そういうこともありますよね。

瀬尾:そこが一番心配なんですよ。ある意味、取材をするジャーナリストって絶滅寸前じゃないかとすら思います。例えば取材に4年間かかるなんていうものもあるわけですよね。その間、雑誌社が原稿料出したり、取材費を出したりしてその方を支えたわけですね。エコシステムという意味でいうと、例えば雑誌がそれを支えることによって、雑誌が出ればスクープになって売れる。あるいは一回のスクープじゃ回収できなくても、最終的にそれを本にまとめれば、ノンフィクションの本が当時だと10万部とか売れたので、そこで回収できる。そういうエコシステムができてたわけですよね。ところが今、本が売れない、雑誌が売れないという時代になると、取材のお金をかけたくない、やりたくないってことになってしまう。そうするとわざわざお金をかけて取材しようという記者を支える仕組みがなくなってるというのが現実なんですよね。

速水:これすごい問題で、お金もらえるからやっているっていうことって大事じゃないですか。だから優秀な人達が集まり、インセンティブがあるから人は一生懸命やるわけで、そこの値段を下げて慈善事業にしてしまうと、その弊害って質が下がるということが端的に出ますよね。

瀬尾:これが本当にエコシステムが壊れる問題点だと思うんですよね。全てのジャーナリストが食えるかっていったら、これはなかなか難しいと思うんですね。でも本当に苦労していい記事を書いた人、あるいは本当に時間をかけて取材をしてる方は、やっぱり報われる仕組みがなきゃいけないと思うんですよね。そうしなければ才能は集まってこないですよね。そうすると、日本の中でジャーナリズムっていうとこに人が集まらなくなってしまう。これは大変な問題だと思うんですよ。

速水:お金がないないって話は、すぐ業界の人が集まるとしがちなので、新しいことも起こってるんですよって話を伺いたいんですけど、例えばエドワード・スノーデンの事件。アメリカの一般市民が、政府の情報機関に自分たちの情報が全然漏れていたって話を告発したんですけど、そこで重要なのはスノーデン自身が告発するときの仕方だと思うんですよね。自分が持っている情報っていうのをジャーナリストに提供して、膨大な情報の中から自分で取捨選択するのではなく、ジャーナリストに委ねたわけですよね。

瀬尾:そうなんです。それがすごく大事なんです。スノーデンのケースってとても新しいチャレンジだと思ってるんすよね。つまりスノーデンはただ暴露するだけじゃなくて、自分の持ってる材料を、ニューヨークタイムズとかガーディアンのような一流の新聞社に預けて、取材をしてもらうという仕組みも作ったわけです。だから、従来の取材力のあるメディアと、新しい誰でも投稿できるという仕組みですね。この二つを組み合わせたモデルというのは、とても新しい可能性を感じますね。


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