花粉と林業

2020年4月13日Slow News Report



なぜ日本中に杉林があるのか

速水:Slow News Report今日のテーマは「花粉と林業」ということなんですが、スタジオには調査報道グループフロントラインプレスのメンバーで週刊朝日編集部の記者、西岡千史さんをお迎えしております。林業ってこれまで西岡さんが取材してきた分野なんでしょうか?

西岡:十数年ぐらい前に記者の仕事を始めたとき、最初は農業をずっと取材していたのですが、当時、林業はもう衰退産業で未来がないと言われていたんです。でも現場に行ってみると、実際に林業をやっている人が結構いて、そこから興味を持って林業の取材を始めたんです。頑張ってる人がいる一方で、国の政策の問題点ですとか、方向性におかしな所もたくさんあって、そんな中でずっと今も林業の取材を続けています。

速水:杉林って、もちろん自然に自生してるものではないので、ある時点で杉林ができてきたわけなんですけど、その経緯からお伺いできますか?

西岡:元々日本には、戦時中に木材の供出といって、要するにお国に捧げるという形で木材が生産されていたんですね。その後、戦災復興の過程で、家がなくなった方が大勢いらっしゃったので、木材の需要がどんどん高まって、それで日本の山はどんどんどんどん切られていったんです。それでも木材需要が足りなくて、拡大再造林という政策が始まり、そこで植林運動が始まったんですね。そこで最も植えられたのが杉とヒノキでした。というのも広葉樹だと成長に時間がかかってしまいますので、短期に売り物の木になれるような木ということで、杉とヒノキの木が選ばれました。

速水:なるほど。杉林って日本全国にあるんでしょうか?

西岡:北海道と沖縄はあまりないんですね。だから花粉症もほとんどないですよね。日本の森林率が66%なんですが、人工林が1000万ヘクタールくらいあって、そのうち杉林が444万ヘクタール。ですから、だいたい国土の1割ぐらいが杉林ということになります。

速水:多いですね!今は“木材を使おう”っていうブームもちょっとあると思うんですけど、1970年代ぐらいまでの経済成長期に比べると、そんなに住宅需要があるわけではないので、その時の政策で作った杉林がそのままになっている状況であるわけですよね。

西岡:そうですね。日本の木材需要のピークは1973年だったんですが、今はその6割ぐらいまで減っていますね。

速水:そういえば小池都知事も、花粉対策の中で林業に手をつけるって話だったと思ったんですけど、そうですよね?

西岡:ありましたね。花粉症ゼロというのを目標にされてましたね。どうなったのかよくわからないですけど。ただ、単純な話で、花粉をゼロにするには、杉林を全部切ってしまえばいいわけなんですが、木をたくさん一度に切ってしまうと、生態環境が変わってしまいます。土砂災害ですとか、鹿などの獣害が出やすくなりますので、環境を大きく急激に変えるというのは、それだけ副作用があります。ですから、そんなに簡単にできることではないですね。


国産材の弱点

速水:今、国産の木材を使おうという流れってあると思うんですが…

西岡:国産材を使いましょうということで、林野庁も一生懸命活動してまして、CLT(Cross Laminated Timber)という、木と木を重ね合わせた建築材があって、ヨーロッパなんかでは10階建てのビルでも木材で建てるということがあるんですけど、それを日本にも取り入れようとしています。でも、新国立競技場もそうなんですが、実際には国産材を使うと言っていたにもかかわらず、輸入材の方が性能が良くていいので、東南アジアのマレーシアですとか、そういったところから輸入していたということで、環境団体なんかからも発展途上国の環境破壊を招くということで、批判を受けたりということもありました。

速水:国産の木材を使おうということ、これ自体は、取材されている西岡さんの目線からすると、進めるべきということは確かなんですか?

西岡:進めるべきだと思います。これから家を建てたいっていう人の中にも、やっぱり木で家を建てたいっていう人もたくさんいらっしゃるでしょうし、そういった人に向けて木材需要をのばしていくというのはあると思います。

速水:海外の輸入材に比べてて、まだうまくいけない部分ってどこなんでしょうか?

西岡:そうですね、なかなか一つの要因ではないので難しいんですが、やはり海外の製品の方が性能がいいですね。国産材は、今そんなに高くないですね。ただ、国産材は縮んだりとかそういったものが大きいということで、建築家の方がなかなか使いたがらない。海外の木材のほうがそういうズレが少なくてしっかりしてるというので、使いやすいから使ってるという建築家さんが多いですね。

速水:新国立競技場は国内の木材も使っていて、どんどん国産材を使えばいいじゃんと思うんですけど、隈研吾さんにお伺いしたら、木ってただ使えばいいものではなくて、何十年も使えるちゃんとした木材を見極めていかなきゃいけないっていう中で、僕らが思うように、どうしても国産材だけを使えといっても、そう単純ではないと。そういうこともありますよね。


日本人の4人に1人は花粉症

速水:そして今日のテーマ「林業と花粉」なんですが、花粉ってどうなんでしょう?減ってる感じもしないんですが。

西岡:今年は少なかったですね。ただ、気象庁の予測では、今後も増えていくのではないかと言われてますね。というのも、間伐ってありますよね?山の一部の木を切るという作業で、森を育てるために切るんですが、間伐をしたら花粉が減るかというと、間伐をすると残った木が大きくなってしまうので、花粉の量自体は減らないのではないかと言われてます。

速水:花粉症は日本人の4人に1人ということで、ちょっとメッセージを紹介したいと思います。「林業の方はスギやヒノキを扱うと思うんですが、花粉症対策どうされてるのか気になります。やはり花粉症発症率高いんでしょうか?」というメッセージです。木を切ってる皆さんは花粉症対策ってされてるんですか?

西岡:意外と山間部に住んでる方って、都心部に比べると花粉症の方は少ないような気がしますね。まあ林業者に限らず山間部の方は少ないような気がしますね。

速水:もう一つメッセージを読みたいと思います。「林業と花粉対策に関して、現場では花粉対策として行われている、木をみんな切ってしまい、花粉の出にくい木に植え替える。そしてまた育った頃には税金で賄われて伐採されるという、自然が全く循環しない仕組みだなと感じています。いわゆる自然の循環とは逆行していることやろうとしてるんじゃないか」というご指摘なんですが、杉林がそもそも人工。それを今、花粉対策をしなきゃっていうことになっているって、ある意味仕方が無い流れではあるんですけど、何かしら自然なサイクルの中こういう対策ができないのでしょうか。

西岡:天然林=善、人工林=悪ということでは決してないんですね。例えば明治神宮の森、東京でお住まいの方なら行ったことがあるかなと思うんですけど、あれは全部人工林なんですよね。人工林というのは、人間が一度手を入れたものですが、それでもちゃんと手入れをすれば素晴らしい森になりますし、実際にそういうことを実践されてる方もいらっしゃいます。杉、ヒノキに偏ってるというのも、徐々に変えていくということは、時間はかかると思いますが可能だと思います。
結局、持続可能な森をどうやって作っていくかっていうことがいちばんの問題になるかなと思うんですが、今、林野庁が進めているのは、40~50年たった杉、ヒノキは伐期を迎えたということで、一度切ってしまって、もう一度植え直す。もちろんその中には杉以外のものも植えるという政策は進めていますが、問題はそれが本当にちゃんと育つかどうかというところになんですよね。というのも、林業でいちばん大変なのって、伐採よりも育てることなんですよね。一度切ってしまって砂漠みたいに裸の山になってしまったところに植えるとなると、いろんな木が雑草も含めて出てきますよね。それをまず下草刈りといって全部刈らないといけない。しかも真夏に。そしてやっと育ったと思ったら、鹿に食べられたりとか、スズメバチが大量発生したりですとか、ものすごく労力がかかってしまします。実際、1ha あたり200万円以上かかると言われてるんですね。それで販売できるようになる時は100万円ちょっとぐらいで売れないとものすごく赤字になってしまうんですよね。

速水:市場原理として、そもそも40年、50年かかるビジネスと考えると、自分の代ではないので、そこに投資という感覚も、あまりにスパンが長すぎて難しいし、そもそもそれ以前に、その額では経済が回ってるとは言えませんよね。

西岡:そうですね。実際、拡大再造林をやった、今60~80代の方というのは、やっぱり子供や孫のために、ということで木を植えて、一生懸命下草刈りをしたっていう人が多いですよね。じゃあそれ同じことが、今日本でできるかと。山間部の人口がこれだけ減っていて、若い労働力が減っているのに、そんなにきつい労働をやる人がそもそもいるのかというところと、あと予算の問題ですよね。そんな莫大な費用をかけてできるのかというところですね。


花粉の他にも杉林が引き起こす問題が

速水:この杉林の問題について、僕らが今抱えている花粉っていう問題を話してきましたが、それ以外のところでも問題が起こっているのですか?

西岡:そうですね。いちばん皆さん記憶に新しいのは、昨年の千葉県の大規模停電だと思います。台風で、木が折れて電線に引っかかって停電になったというケースが多かったんですね。僕も実際に現場に行って専門家の人と一緒に歩いて回ったんですが、すべて倒れてるかというと決してそうではないんですよね。やはり不健康な木が倒れていることが多かったですね。ちゃんとした木を育てることができていなかった部分が多いと感じました。

速水:千葉に停電の被害があったのには、山間部の林と普通に人が住んでるところとが近いっていう問題がありますよね。

西岡:千葉県は平地が多いので、他県に比べて平地に植えられている杉が多かったので、それが電線にひっかかったっていうところもあるかと思うんですけど、例えば境界木という形で防風林を作ってあるのを、道路の拡張とかで切ってしまったりするということがあります。そうすると、風が直接森の中に入ってしまって、木が倒れてしまう。あるいは間伐という名のもとに木を切りすぎてしまって、森の中がスカスカになってしまう。スカスカになると乾燥してしまうので、木も弱ってしまって、それで倒れてしまったりとか、そういうところが多かったように感じました。

速水:放置してもダメだし、伐採しすぎてもダメだし、そこら辺をうまく考えていかなければいけないわけですね。明日も引き続きお話をお伺いします。


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