“公文書”とは?

2020年4月15日Slow News Report



公文書とは

速水:ここからはSlow News Report。今日もオンラインのゲスト出演という形になります。繋がっているのは毎日新聞総合デジタル取材センター副部長の日下部聡さんです。日下部さんは毎日新聞桜を見る会取材班の記者たちをとりまとめるデスクでもあるということで、行政が作成した文書を引き出して読み解くことをやられてきた、いわば公文書開示請求のプロということなんですが、まず公文書とは何か?という基本的なところからお伺いしてもよろしいでしょうか。

日下部:国、あるいは政府、自治体で働いている公務員たちが仕事で作った記録です。主に文書なんですけれども、電子的な情報、例えば映像なんかについても公文書という扱いになっていて、公務員が職務上を作成し、仕事で使っている記録のことですね。

速水:例えばいま、政府がコロナ対策のチームを作る時に専門家と会議をやります。そこでの議事録が公文書になるということは想像つくんですが、それだけではなく、デジタルデータも含むのですね。

日下部:そうですね。法律や条例上は電磁的記録と書かれているんですけれども、役所の中で共有されていれば建前上はみんな公文書になります。


公文書開示請求の大切さ

速水:公文書開示請求の重要さを知ったきっかけはどういうことだったんでしょうか?

日下部:もう十数年前になるんですけれども、東京都知事が石原慎太郎さんだった時に、サンデー毎日という週刊誌で記者をしていたんです。当時私は東京都庁を担当したこともないですし、そもそも行政を取材したこともなかったんですが、何かキャンペーンをやれと編集長に言われまして、どうしたらいいものか悩んでいました。そんなとき、いろんな方にアドバイスをいただき、東京都庁に情報公開請求をして、石原さんの周辺の記録を取ってみたらどうかと言われて、やってみたんです。石原さんは知事交際費という予算を持っていたんですけれども、これの使い道を書いた文書を請求したら、どれくらい職務としての付き合いがあるのかよくわからない人たちとの飲食がすごくたくさんあることが分かったんです。また、海外視察旅行に行った際には、リムジンを借りたり、船の中の一室を借り切ったりとか、必要以上に贅沢なケースが次々に出てきたんです。今までは、記者というのは役所とか政治家の人に取材をして、そこから聞き出すという仕事をずっとやってきたわけなんですけれども、情報公開制度という条例に基づいて請求をすることによって、ここまで具体的な情報が得られるのかと驚いたんですね。実際その結果、最終的には交際費や海外視察の費用をホームページ上で事前に公開するということに変わりましたので、公開されてる情報を報じることによって、社会の仕組みがちょっとでも動いたということは、記者として印象的な体験でした。

速水:関西電力の金銭授受をめぐる問題。これは資源エネルギー庁が必要な手続きを忘れて、それをごまかしたということですが、この問題についてはどう思いますか?

日下部:私の受けた印象では、ここ一連の森友学園の問題ですとか、加計学園の問題などに通じるところがあると思っています。それは何かというと、目先のことにとらわれて都合の悪い所は変えてしまえという、それをやってしまった官僚のメンタリティと言いますか、その辺が相通じるところがあるなと思っています。
公文書は何のためにあるかというと、一つは情報公開制度の話にも通じるんですが、今現在の市民に対して、きちっと仕事をしているという説明の責任。もう一つは何十年、何百年たったあとの、将来の世代に対して、私達はこういう仕事をしていたんだということをきちっと伝えなければ、将来の世代が今この時代に何をやってたかわからなくなってしまう。やったことをちゃんと伝えないと、将来の世代に対する背信行為じゃないのかなと思ってるんです。けれどもなかなかそういう意識を持っている方が少ないのかなと感じました。


公文書開示請求は誰でもできる

速水:情報開示請求は、具体的に誰がどうやればできるものなのでしょうか。

日下部:これは誰でもできます。ジャーナリストであろうがなかろうが、日本人であろうがなかろうができます。細かいことを言いますと、自治体によって微妙に規定が分かるところはあるんですが、基本的には誰でもできます。

速水:じゃあジャーナリストだけができる特権ではなくて、国民の権利であると。ただ、議事録であろうと請求書であろうと、たくさんある中で、”これ”っていう重要なところを目指していくわけですよね。その辺はどういう風に情報を掘り起こしていくんでしょうか?

日下部:これはいろんなアプローチがあります。例えば「この議事録を調べてみたら面白いよ」みたいなことを取材先の人に言われて始める人もいれば、先ほどの石原知事のケースでいいますと、もともと石原さんは週に3日ぐらいしか登庁してないっていうことを編集長が聞いてきまして、これを何とか調べられないかというのが発端だったんですね。そして私は、都庁の情報公開窓口に行きまして、窓口の職員さんに「こういうことと、こういうことを知りたいんだ」と説明しましたら、予想以上に親切に教えていただきました。「そういうことが知りたいんだったら、こういう文章がある。交際費だったら現金出納簿というのがありますよ」ですとか、かなり親切に教えてもらって請求したというのが私の最初の経験ですね。

速水:国立公文書館ってありますよね?ここにあるものが公文書ということですか?

日下部:国立公文書館にあるものは情報公開制度とは制度的には別になっています。情報公開制度の対象になってるのは、現用文書というんですけれども、現実に使われている文書の公開を求めるという事なんですが、国立公文書館にあるものについては、歴史的公文書といいまして、役所で使い終わったけど歴史的に価値があるというものについては国立公文書館に移管をする。それで国立公文書館が管理するとこういうことになっています。


テクノロジーに制度が追いついていない

速水:桜を見る会をめぐる招待者名簿がなぜ廃棄されたのか。こちらについて、日下部さんはどう見てましたでしょうか?

日下部:明らかに不自然ですよね。内閣府が持っている招待者名簿は、保存期間は1年未満でいいからという理屈で内閣府はシュレッダーにかけてしまった。そのバックアップも消えちゃったと言ってるんですけれども、同じ桜を見る会の推薦者名簿というのは内閣府以外の省庁からも出ているんですね。他の省庁の推薦者名簿は保存期間は1年以上に設定していて、残っているんですよ。内閣府だけが1年未満になっていて、だから捨ててしまいましたということなんですが、安倍総理の答弁にもあったように、野党議員から質問資料要求があったその日に捨ててるわけですね。だから、状況から見ると極めて怪しい。証拠隠滅したかったのではないかと見られてもおかしくないタイミングだったです。

速水:よく情報開示請求を出して、出てきた文書に黒ずみが塗られてたりするケースもあるじゃないですか。あれはなぜなんですか?

日下部:黒塗りにしていいと法律に書いてあるわけではないんですが、例外規定というものがありまして、例えば個人情報ですとか、国民の間に不当に混乱を招くような情報については開示しなくていいとかあるんですね。それから、国防とか治安に関することなんかもあるんですが、それに当てはめて、法律上は理屈を合わせた上で真っ黒にしているということなんです。

速水:桜を見る会の名簿についても、データのバックアップを破棄したということも同じような理由だったんですか?

日下部:若干ややこしいんですけども、公文書の定義では「組織的に共用している」ということ。つまり公務員がシェアしているものでないと公文書とみなさないという規定になってるんですけれども、バックアップデータというのは、政府の理屈ではバックアップデータは誰もがその見られるものではない。業者に頼まないと見られるものじゃないので”組織共用性”を満たしてないので公文書ではないという理屈を言ってますね。

速水:その理屈はどう思いますか?

日下部:なんのためにバックアップをしているかといえば、組織として共用するためにあるわけですから、共用性があるとみてもいいと思います。ただ電子情報というのはグレーゾーンのような所があって、暗号化されていた場合は共用性があるのかとか、細かいところを詰めていくとちょっとグレーな部分はどうしてもあります。だから、テクノロジーに法律が追いついていないところがありますね。

速水:デジタルデータの扱い方について日本は考え方が遅れているという部分はよく指摘されますが、ちょっと前にヒラリー・クリントンさんがやり取りしたメールを残していなかったことだけで非常に責められましたよね。ちょっと日本では考えづらいんですが、何の違いなんですか?

日下部:特にアメリカという国は、歴史が浅いことが関係するのかもしれないんですが、とにかく記録を残すことが国の形を作ることだという思想みたいなのものは行き渡っている感じはしています。私は3年前にイギリスでこの件を研究したことがあったんですけれども、イギリスは日本と同じように古い国なので、やっぱりアメリカに比べると秘密主義みたいなところが強いんですね。向こうのジャーナリストが言っていたのは、メールを削除しちゃうケースとか目に余ると。ヒラリーさんと同じように、自分の個人のプライベートなアカウントを使って情報公開請求逃れをしたというケースなんかも問題になっていました。

速水:公文書というものを考えた場合、”メールなんて打ち合わせみたいなもの”と僕たちは考えがちですが、メールであろうが打ち合わせであろうがそれは公文書なんですね?

日下部:そうです。決裁を受けた文書だけが公文書という考え方が日本はずっと強かったんですけれども、情報公開法とか公文書管理法の思想というのはそうではなくて、政策決定が行われたプロセスを全部含めて公文書だという定義になっていますので、メールで政策決定のプロセスのやり取りがされていれば、それは当然公文書になると思います。

速水:このご時世、政府や行政なんかの会議でもオンラインで会議と行われていると思うのですが、その場合これも公文書になるわけですか?オンライン会議でのやり取りも開示請求する事は出来るのでしょうか?

日下部:そのオンラインでのやり取りが録画されていたり録音されていたり、記録として残っていれば、それは開示請求の対象に理屈上はなると思います。記録が残ってないということであればちょっと難しいですよね。

速水:その辺はテクノロジーに制度が追いついていないとしたら、今後そういうものを全部議事録として残すようなテクノロジーを利用していく必要があるということですか?

日下部:これから課題になってくるのは、LINE等のいわゆるチャットアプリなんですよね。これは外国でも扱いがまだ定まってないところがあります。アメリカの公文書館ではチャットアプリのやり取りも含めて記録として残していくべきだというような通達を出してはいるんですけれども、ある政治家の方が言っていたのは、「それまで電話でやり取りしたものが文字になってるだけじゃないか。文字になったから即座に公文書と言われるとも何も喋れなくなっちゃう」と。でも逆に考えれば、テクノロジーのおかげでそれまでは記録に残っていなかったような詳細な政策決定のプロセスが残る時代になっているわけです。であれば、それを積極的に記録として活用していく方向に向かうべきではないのかなと思います。

速水:なるほど。今夜は毎日新聞総合デジタル取材センター副部長の日下部聡さんに話を伺いました。ありがとうございました。


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