ビッグデータと監視社会

2020年5月28日Slow News Report



速水:Slow News Report 今夜のテーマは「ビッグデータと監視社会」です。新型コロナウイルスの感染拡大、その対策として注目されているのがビッグデータです。例えば「通常に比べて人出が7割減少しました」というニュースが伝えられるとき、携帯電話の位置情報サービス、通信アプリ、交通系 IC カード等、人の移動を記録するようなデータが大量に集められ、こういう調査・分析をやっている企業等が発表しているものをメディアが報じているわけです。これだけたくさんの人々がスマホを持ったり、IC カードを使ったり、そういうことが日常的になっている中で、サービスとして非常に便利である一方、個人情報やプライバシーの保護等の問題もあります。今日はそういったことを浜田敬子さんと一緒に議論していきたいと思います。


厚労省のLINEによる健康調査のデータの行方

浜田:これまでも“ビックデー”タという言葉は何回も聞いたことがあると思うんですね。先程の人手が何パーセント減ったというのはまさにビッグデータを使って解析をしているわけですけれども、それ以外にも身近な例ですと、今回のコロナウイルスの件で厚生労働省と LINE が行った健康調査皆があります。みなさんの元にも届いたんじゃないでしょうか。割と簡単なものだったの回答した人も多いと思います。LINEの利用者8300万人に4回調査をして、累計で9000万人分のデータが集まったそうです。9000万を4で割っても2000万人以上という結構な人がちゃんと答えているわけですよね。健康ヘルスケアに関するデータとしては2000万人のデータってすごく大きいなと思っています。
この調査を設計するのに尽力されたのが慶応大学医学部の宮田裕章先生なんですけれども、宮田先生のインタビューを読むと、こういったデータを活用することで感染拡大や風評被害の対策、予防に活かせたとおっしゃっていました。一方でこのデータが具体的にどのように活かされたのか、このデータは今後どこに保有されて誰のものになるのか、そういったことは私たちには知らされないまま、健康調査に応じたという部分もありますよね。


コロナと監視社会

浜田:そして、今回もう一つ話題になったのが海外の事例です。韓国や台湾が封じ込めに成功したという評価が高まっているわけですけれども、ここに使われたのがビックデータと言われています。特に韓国は携帯電話の位置情報を使って感染者の追跡調査をしたり、濃厚接触者を特定したりということをしたわけですね。かたや日本はクラスター班の方が 感染者が出た場合に人力でヒアリングをして「誰に会いましたか?」みたいなことを聞き取りをしていたわけです。非常に対照的で、韓国や台湾はすごいという評価になったわけですね。前回に出演させていただいたときにもお話したのですが、ニューヨークにいる友人が、彼女は普段とても人権意識が高いんですけれども、ニューヨークで1日に700人も800人も死んでいるような状況で、「自分の健康のデータを全部差し出してもこの状況を止めてほしいという気持ちになる」と言っていたんですね。やっぱり命のためには、ある程度の監視は OK なのか、データを管理してもらいたいのか、今そういう議論になりつつあって、今回のコロナ対策で日本が非常にアナログで遅れていた面を突きつけられたので、 ビッグデータの活用が必要だと感じている人は多いんじゃないかなと思っています。

速水:確かに、今のコロナが何かしら解決に向かうのであれ個人情報を差し出すことに躊躇がない状況はあります。先ほどの LINE のアンケートなんかも、僕はちょっと臆病なタイプなので、危ないものじゃないかネットで検索をしてからおっかなびっくり回答したんですが、情報漏洩などのネガティブな面の事は考えてなかったなと思いました。また、先日もマイナンバーカードの普及が低かったせいで特別定額給付金が遅れたなんていう話を聞くと、もうちょっと電子化を進めてくれよとも思うので、今日のテーマ「ビッグデータと監視社会」みたいな事に関しては、もうちょっと日本は進んでもいいのかなと思いました。

浜田:今回はお金がいつ入るのかという切実な問題と紐づけられていたので、マイナンバーカードの普及があまりにも低いということに対してみんな問題意識は持ったと思います。ただ一方で、マイナンバーカードがなぜこんなに普及しないのかというと、これを持つことによってどんなメリットがあるのかということがちゃんと伝えられてなかったと思うんですよね。
先ほどの LINE の調査の件でも、宮田先生は「データというのはどう使われるのかを可視化しなければいけない。誰がデータを持ってそれをどう使っていくのかということを、ちゃんとデータを提供した人に明らかにしなきゃいけない。データの共有権は21世紀の基本的な人権なんだ」ということもおっしゃっているんです。ですから、2000万人の健康のデータがコロナ対策のためにどう活かされたのか、例えば何歳くらいの人がどのくらい熱があるのかとか、何区に熱が高い人が多いのかというようなデータが実際にどのように活かされたのかがもう少し具体的に見えてくると、みんな進んで調査に応じようと思いますよね。やっぱり情報の透明性とかそういうものが、デジタル社会に移行する時に一つポイントになるのかなということを今回感じました。


監視社会のメリット デメリット

速水:誰にデータを差し出すのか、政府なのか、GAFAのようなプラットフォーム企業なのかみたいなことって、実はそんなに考えないままデータを出している状況に関してちょっと問題があるのではないかということですね。
一つメッセージを読みます。「新型コロナウイルスの接触確認アプリ入れる入れないについて、結論から申し上げると入れません。私は医療現場にも仕事で行っており、スマホの 電源を入切する機会がとても多いため、その行為自体がストレスになってしまいます。このアプリがアリバイにならないことも入れない理由の一つです。インストールしてスマホを自宅に置いていき、私は自宅にいたので感染するわけではないなんということも可能なら、いったい何のためのアプリ?となりますよね」 というメッセージをいただきました。つまりこのアプリを入れていることでどんな便利なことがあるのか、マイナンバーカードも何かしらのメリットが無いから普及していないわけですけれども、このアプリも自分にメリットが本当にあるの?という部分は面白い話ですよね。公衆データの統計を取ることって、全体を把握するという大きな価値がある一方で、個人にとってはメリットなのか、デメリットなのかという部分。個人の話なのか、パブリックの話なのかみたいな話は、まさに今日のテーマなのかなと思います
もうひとつメッセージを読みます。「監視社会、むしろ監視して欲しいんだよな。ただし AI に。データを採取し勉強しまくったら非常事態を判断して助けてくれるくらいの仲間になると科学の力を信じています」というメッセージです。 AI だったら企業でも政府でもないので、管理してくれる相手としてはふさわしいんじゃないかということですね。

浜田:結局 AI も誰が何のために設計をするかということだと思うんですよね。AI は自然発生的に生まれるものではなくて、誰かがアルゴリズムを設計するわけですよね。そうするとアルゴリズムを誰が作るのかという問題が出てくると思います。一時期アメリカで問題になったのは、例えばGAFAのようなものすごくAIを研究している企業のエンジニアのほとんどが男性であるということ。そうなると、男性側の思想が濃く反映された AI ができるのではないかということが問題になったんですよね。結局 AI にしてもビッグデータにしても、このデータは誰のためにどう使うのか、AI の設定もそこに関わってくると思うので、やっぱりその思想がすごく大事だと思っています。
今、私たちの前にあるモデルケースではGAFAモデルか、中国モデルかの2種類くらいしかないわけです。巨大プラットフォーマーによってビッグデータを活かすのか、中国のように国家がビッグデータを握るモデルなのか。日本はこれまでGoogle とか Facebook にすごくデータを取られながらも、あまりにも無自覚で、この議論自体があまりされていないですよね。一方でヨーロッパはものすごく個人の権利が強いので、自分たちのデータがどこにどう使われるのかということにはすごく敏感で、この件がよく議論されてきたという経緯があります。今回、コロナ感染者の追跡をどこまでやるのかということが、国によって結構違っていて、ヨーロッパの中でもイギリスはイギリス独自の仕組みを作ろうとしていますし、フランスはみんなこれを拒否しているそうなんです。私たちは鍵を閉めてマスクをするという選択をしたいという人達が多いそうなんですよね。国民性がすごく現れていると思います。

速水:先ほど巨大プラットフォーマーなのか、国家による監視なのかという話がありましたが、中国の監視社会というのは良い面もあって、例えば交通渋滞なんかを避けるような仕組みができていたりとか、中国では信用スコアみたいなものが普及していますが、例えばトラックドライバーが自分たちのこれまでの仕事の評価で融資を受けやすくなったりということがあったりします。中国のように民主主義がない国の監視社会は恐ろしいんじゃないかというイメージもある一方で、コロナ対策ではうまくいっている国いくつかありますが、テクノロジーをうまく使って、信用スコアみたいな監視社会システムを入れることでガチガチの官僚主義を突破できている部分なんかもあるという評価もされますよね。

浜田:何事にも両面があると思います。中国の場合はすごく監視されていて、データは全て国家に握られているという印象があるんですけれども、例えばこれまで 全く融資を受けれなかった人がアリババで買い物してローンを組んだときに、きちんと払っていくというような“正しい”ことを積み重ねていくとポイントが上がる。そのポイントによって住宅ローンが通りやすくなったりするわけです。信用スコアがあることで階級とか身分みたいなものが、努力すれば逆転できるというようなことを、先程もご紹介した宮田先生が朝日新聞のインタビューでおっしゃっていたんですね。この主張に私はなるほどと思ったんですけれども、個人の努力ではどうしようもなかったこと、例えば農村戸籍と都市戸籍の違い、階級を乗り越えられなかったり、貧困層からなかなか抜け出せなかったりした人たちが、少しずつスコアを自分の力で上げていくことによって、少し生活が豊かになるみたいなことはあるのかなと思う一方で、政府批判をしたりデモに参加したりとかするとおそらくポイントが一気になくなるとか、そういう恐れもあるわけですよね。


どれくらい監視社会を受け入れるのかの議論を

速水:日本ではそういった議論がないままに、逆に全く電子政府化も進んでなかったところもあるんですが、SNSでの発信の規制のように、みんなが望む形で進めればいいんじゃないの?って無批判に進んでいいってしまうような、監視社会に関しても、今の状況はそんなところに置かれているのかなというような気もしますよね。

浜田:今の国会でスーパーシティ法案というのが進んでいるわけですよね。スマートシティ特区みたいなものを作って、そこは AI やビッグデータなど最先端の技術を駆使して、デジタルをフルに活かしたまちづくりをするというようなことが今法案としてあるんですけれども、そんな法案が議論されているということは殆ど知られていないですよね。

速水:確かにあれは非常に個人情報、データを使ってどういう街づくりができるか、みたいなことという意味では監視社会の都市を作りましょうということですよね。

浜田:でもそこに関しての国会での議論は数時間なんですよ。こういう議論こそ本当はみんな国民を巻き込んでいかなければならない。スーパーシティって何?とか スーパーシティだと何ができて、どんな個人データが取られて、その代わりどういう行政サービスが良くなるのか、みたいなことが知りたいわけですよね。けれども知らないうちにスルっといってしまう。それがすごく問題かなと思います。

速水:それこそ給付金を早く払ってほしいみたいなことは、イコール個人情報がちゃんと紐付いた国家のシステムを作るんだということで、一つ進むべき方向としてはあるんだけれども、そこに何かしら議論が欲しいですよね。

浜田:北欧なんかはかなり電子化が進んでいるんですけれども、なぜあれだけ電子化が歓迎されているのかというと、不利益を被らないために電子化をしてるんだと思うんですよ。例えば速水さんがデータを全部、年齢、性別、生年月日など全部入れておくと、「速水さん、もしかしたら失業しました?失業保険を受けて下さい」と行政のほうからプッシュ型でお知らせがくるそうなんですね。自分のデータを全部出しておけば、自分が忘れて使ってないサービスまで行政が知らせてくれる。というと登録しておいて良かった、もっと言えば税金を払っててよかったなと思うんじゃないでしょうか。

速水:メリットデメリットで言うと、先にその制度のメリットを最大限に活かすような形で始まっていて、逆に僕たちは手続きがやりにくい制度が先に通っていて、その中でマイナンバーカード入れとけば良かったみたいな感じで、今の状態から遡る形でサービス制度っていうものを考えてしまう。どっちから始めるかみたいなことって、行動経済学なんかの話も含めると面白い話になりそうなんですが、コーナー時間が来てしまいました。データは何のために集めるの?っていうことが、今日の浜田さんの話の中でいちばん基本的な、立ち戻るべき話なのかなと思います。「データを勝手に使わないでよ」っていうところをまず基本として押さえた上で、僕たちの社会のあり方みたいなものの延長で、監視社会をどのくらい受け止めるのか、進めていくのかみたいな議論ができるのかなという気がしました。「今夜はビッグデータと監視社会」についてお送りしました。



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