ネットの誹謗中傷、規制で解決できるのか?

2020年6月4日Slow News Report



速水:Slow News Report今日は伊藤詩織さんとお送りします。今夜のテーマは「ネットの誹謗中傷」です。フジテレビのリアリティ番組テラスハウスの出演者が亡くなった事件なんかがきっかけになっている部分も非常に大きいんですが、この事件の前にも、芸能人の政治発言に対してのものすごい量の誹謗中傷があって、発言の自由みたいなことを妨げられる一方で、「お前らは黙れ」ということに対する誹謗中傷も発せられ、そこに関しての議論もありました。今日はどうやって誹謗中傷から身を守るかという議論なんですが、その話を伊藤詩織さんと一緒に伺います。


誹謗中傷したと裁判で戦うには2つの裁判をする必要が

伊藤:本当に木村花さんの件は私もショックでした。こういうことがあると「見なければいいじゃないか」という声もあるんですけれども、私たちが生活していく中でネットはとても重要なもので、またこういったソーシャルネットワークからくるものって、目にしなくてはいけないような文字が日常に現れるんですよね。オンラインは私たちがいつも通っている通勤通学路のようなもので、そこを通るなと言われても難しいんですよね。また、その時は通らない、見ないとしても、その言葉というのはどんどん増えていって蓄積されていってしまう。私の場合はやっぱりセカンドレイプ的な発言が多かったので、同じような境遇にあっている方を見ていて、ものすごく苦しいものがあるんじゃないかなと思いました。そういったネガティブな言葉をどう消していけばいいのか、打ち勝っていけばいいのかというのは、本当に日々考えていることなんですよね。

速水:今日僕たちが考えなければいけない問題は個々に細かく切り分けていく必要があるかなと思います。一つは、誹謗中傷をする人の話ですよね。特に問題になっているのは匿名で投稿できるということ。そしてもう一つは、それを発信するプラットフォームの問題です。SNS などのサービス元がそれを放置しているということの問題もあります。今日も先ほどニュースで読みましたが、請求をもとに開示できる情報の対象に電話番号も含めるということの議論が今日行われていたそうなんです。これはポイントはどこにあるのでしょうか。

伊藤:情報開示をしたとしても、例えばメールアドレスだけの場合、フリーメールアドレスだったりすると本人特定になかなか繋がりづらいことがあります。でもここに電話番号があると、本人確認がしやすくなります。この情報開示というのがひとつの裁判なんですが、本来の名誉毀損の裁判をする前に、実は情報開示の裁判をしなくてはいけないといんですね。

速水:それは非常に重要なところで、誹謗中傷の問題というのは、それをした人とされた人の間で裁判で戦えばいいんだけれども、誹謗中傷した相手を特定するまでには非常に高いハードルがあり、そのコストを引き下げるという意味では、電話番号の情報開示が制度としてできると随分変わるということですね。誹謗中傷した人が匿名の人の場合、その人を訴えたいと思ったらどんなハードルがあるんでしょうか。

伊藤:まず情報開示の請求の裁判。それから名誉毀損の裁判なので、資金面でも2倍かかってしまうというハードルがひとつありますよね。また、情報開示の請求をする場合、たとえばツイッター だったりすると、本社がアメリカなので英語でまず問い合わせなくてはいけないという事に時間がかかる。ログの保存期間は3ヶ月と言われていますが、そこで問い合わせても3ヶ月過ぎてしまっているかもしれないというところがあります。そうすると、誹謗中傷が発生してから1ヶ月以内のものでないとできないんじゃないかということもハードルになります。


ログの保存期間という時間との戦いも

速水:単純に3ヶ月ログが残っているじゃないか、ということではなく、誹謗中傷を受けたダメージということを考えると、そこから何かしらのアクションを起こすまでの時間も考えないといけないのですね。

伊藤:そうですね。ですので、ログの保存を長くするべきだとおもいます。あと情報開示のハードルがすごく高く、例えば「死ね」という言葉は決定的なんですけれども、そういったものでないとなかなか情報開示が許されないんです。この情報開示を請求するというのは、次の名誉毀損の裁判のためにするわけであって、その前段階の情報開示で明らかな侮辱があるんじゃないかということを証明しなくてはいけないというハードルがあるんですよね。

速水:メールだけでは個人を特定するのは難しい場合もありますが、携帯電話電話番号があれば特定できるということも、ここをちょっとシンプルにすることで非常に時間や資金面のハードルが下がるということですよね。そしてもう一つ、これがいちばん大きいはハードルなのかなと思いますが、心理的ハードルですね。

伊藤:やっぱり、自分に向けられた苦しい言葉を自分でまた見て、それについてアクションを起こさなくてはいけない。本当にいちばん辛い部分になってしまいますよね。

速水:誹謗中傷というのは不特定多数からくる場合もあり、それを一人で受け止めなければいけないということは、 SNS の仕組み上そうなることが多いですよね。いちいち自分を誹謗中傷した人たちのメッセージを見るのって辛いですよね。

伊藤:実際に私も SNS を開くことすら辛くなっているので、それを第三者にやってもらえるんだったらいいんですけれども、なかなか…

速水:誹謗中傷を受けた本人が非常にダメージを負っている状況で、本人が情報開示の手続きをし、裁判で名誉毀損を認めさせるということは、非常に心理的なハードルが大きいと今の話を聞いて思いました。#KuTooで注目された石川優実さんもものすごくネット上で誹謗中傷を受けたんだそうですね。


面と向かって「死ね」という人はいないのに

伊藤:石川さんもいろんな苦しい言葉を直接受けていて、そういった言葉は社会全体から攻撃されているように苦しかったと言っているんですよね。そこでやっぱり大変だったのが、その言葉に向き合うということなんですけれども、彼女がすごいのはそういったメッセージに対して応答しているんですよね。こういった言葉が投げかけているんだということを世界に訴えるためにリプライをしていたんだそうなんですが、後にお話を伺った中で印象的だったのは、そういった中で応援する言葉を投げかけてくれる人がいたりとか、誰かがアクションを起こしてくれるというのは本当に助けられたと言っていたんですよね。

速水:なるほど。これおかしいじゃないかと思う人はたくさんいるはずなんですよね。そういう意味では、ある種社会で受け止めるための仕組みみたいなものにこのプラットフォームというものを武器にすることもできるという事例なのかなと思いました。まあそれでも、みんなが気持ちでわかっていても、じゃあ実際にそれを手助けできるかというと、おそらく難しい面もあると思いますが。

伊藤:ですからやっぱり今必要なのは、そういった誹謗中傷を受けた時に、どこに相談していいのかという、そういった受け皿も必要なんじゃないかなと思います。個人的に戦っていては本当に辛い作業になってしまうので。

速水:皆さんのメッセージも読みながら進めたいと思いますが「ネットのいわゆる規制での解決、残念ながらできないと思います。私はこれで余計にダークなネットコミュニケーションができてしまうと思います。ネットに関しては日本人の陰湿な部分がよく表れており、陰口など大好物です。匿名ならなおさらです。」 という意見も頂いていますが、ネット上の匿名だからできること、それを面と向かってやれるのかということってありますよね。

伊藤:そうなんですよね。ツイッターでは、日本は75%が匿名といわれています。アメリカや韓国は30%台といわれているので、2倍以上が日本では匿名なんですけれども、私の経験では、道を歩いていて声をかけてくださる人はかなり温かい言葉をかけてくださるんですね。オンラインで溢れているような、聞いていて本当に体が冷たくなるような言葉というのは、オフラインの世界ではかけられたことがなかったんです。なので本当にシンプルなことですよね。面と向かってその人に対してこの言葉が投げかけられるのかということ。規制じゃなくて、そういったところを心がけたいですよね。


表現の自由と規制

速水:もうひとつメッセージです。「きちんと特定するべきだと思います。それこそいま問題になっている給付金の支払い口座と同じように、投稿する人も特定できるようにマイナンバーを明記すべきだと思います」というご意見も頂きました。これはネットを匿名にしないという議論ですね。この問題で非常に重要なのは、ネットにはある種のピープルズパワー、表現の自由なんかを広げていくような力というものがあるということ。たとえば韓国でも非常にネットでの誹謗中傷が問題になり、芸能人がその被害で死を選ぶようなケースもたくさんありました。その中で実名制のネットの導入というのが行われたんですね。でもこれは挫折しているんですよね。発言の自由、表現の自由なんかとは相反する部分もあり、違憲判決ということになっています。
陰湿さみたいなことはどうしても匿名性と結びついている部分はあると思うんですが、この辺は伊藤さんどう思いますでしょうか。

伊藤:先ほどの議論に戻るんですけれども、やっぱり匿名だからということで起こってしまう言葉は、何にせよその次の誹謗中傷名誉毀損の裁判で争われる部分なので、そこに行くことをスムーズにしてくれればこういったアクションを起こしやすいので、そのやりやすさというところをスピードアップして考えていかなきゃいけないと思います。


プラットフォーム企業の責任

速水:被害者が投稿者にたどり着き、裁判という形で分かりやすく退治できるような仕組みも必要だし、例えばSNS のプラットホーム会社が放置している問題もあります。そこに関してはフランスなんかでは、悪質で差別的な投稿は24時間以内に削除しないと企業側が罰則を受けるようなルールができていたりもします。プラットフォーム側に課すべき責任も当然議論されていくべきですし、そして日本人自身のコミュニケーションの部分もあるのかなという気もします。例えばトランプの発言なんかは、誰かを叩くことに問題があるんじゃなくて、こいつはダメなんだという叩き方をすると反論のしようがないという部分。それは誹謗中傷の問題にも近いところがありますよね。人格攻撃に関しては返しようがないですからね。何か批判があるんだったら、この部分のこの発言ということならいくらでも返しようがありますが。

伊藤:そうなんです。そういった建設的なディスカッションにつながるものであればいいのではないかなと思いますよね。

速水:今日は「ネットの誹謗中傷」をどう解決していくのかというところまでは非常に難しいんですけれども、そこの手がかりみたいな議論ができたのではないでしょうか。伊藤さん、ありがとうございました。


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