スーパーシティ構想

2020年6月11日Slow News Report


スーパーシティ構想とは

速水:Slow News Report今回は堤未果さんとスーパーシティ構想について一緒にお話を伺っていきたいと思います。先月5月27日人工知能などのテクノロジーを活用した先端都市=スーパーシティの構想実現に向けた、改正国家戦略特区法が参院本会議で可決成立しています。こちら全国で5か所程度の地域を特区に指定する方針ということで、秋までに募集開始、そして年内の決定を目指すという道筋が伝えられています。計画を具体化し実現するのは再来年以降になる見込みということなんですが、スーパーシティ法案は竹中平蔵氏が有識者会議の座長になり検討を進めてきたものです。そして衆議院での審議は4月2日に本会議の質問が行われました。時期というのもあるんですが、ほとんどメディアにも取り上げられることはなく、今国会で見送りなのかと思われていたんですが、急遽成立した経緯があります。あまりにも性急だということで、採決のタイミングに問題があるという反対もあります。2019年の通常国会で一旦廃案となり、19年秋の臨時国会では法案の提出自体が見送られていて、三度目の挑戦での通過成立可決となったわけです。まずもうちょっとスーパーシティ構想についてどういうものか説明をお願いしていいですか。

堤:これはですね一言で言うと AI とかビッグデータを導入していろんな情報を全部つなぐんですね。街全体を繋いで、それによって自動運転だったり、ドローンによる配達だったり、キャッシュレス決済だったり、オンライン診療、オンライン教育、ゴミ出しですとか、いろんなものを全部 AI が管理して非常に効率よくやるという計画なんですね。

速水:自動運転、ドローンを使った配達なんていう話も割と聞くし、海外では結構その実証例みたいな話もあって、それを目にする機会もあるんですが、日本だと、例えばトヨタが進めているウーブンシティがありますよね。東京などの日本の都市では規制が色々あって交通状況なんかが自由にならないから、そういうテクノロジーを導入した都市を作るんだという話は話題になりましたが、今回のスーパーシティとトヨタのウーブンシティとは同じものなんでしょうか。

堤:もっと広げた版という感じですね。トヨタのスマートシティというのは今おっしゃったように、交通だったり、エネルギーとか、あくまでも個別の分野で実証実験的に進んでいたものだったんですね。スーパーシティというのは、都市全部を AI でつないで住民の生活すべてを丸ごとデジタル化するというイメージですよね。


特区ではすばやく一括で規制緩和ができる

速水:これは特区であるということで、例えば本来交通だったら国交省とかが関わっているところをスルーして、政府官邸なんかが「こう進めよう」とテクノロジーを導入できるみたいなことがあるわけですよね。これは日本だといろんな規制があって新しいことはできないじゃないかみたいなことが背景にあるのかなと思うんですが。

堤:おっしゃる通りですね。スマート化という考え方そのものは2000年の小泉政権の時からどんどん進んでいたんです。2013年には国家戦略特区法という法律が通りまして、特区という地域の中では現行法とは違う規制緩和ができて、そこにたくさん企業が参入してイノベーションがおきるみたいな話があったんですね。ところがそれは、自治体が先に計画を作ってからそれを上に上げるというボトムアップだった。それじゃあ間に合わないからトップダウンにしましょうということになって、内閣主導で先に規制緩和のメニューを作って、それを地域に提案する。つまり上から下の方向にしましょうということになったわけです。各省庁にいちいち許可を取るというのではなく、一括になるので大変サクサク進むわけです。

速水:日本は給付金の IT化ですらうまくいってないのを見ると、そういうのをやっぱりサクサク進めたほうがいいんじゃないのと思うところがあるんですが、それだけではないところもあるんでしょうか。

堤:そうですね。例えば住民生活という意味では、交通管理、キャッシュレス、医療、教育、それからなんといっても役所の手続きが早くなるとか、いろんな利便性があるんです。けれども一括で規制緩和するというのは、例えばある企業がスーパーシティの中で自動運転で新しいビジネスをやりましょうという時に、道路交通法みたいなものをスルーできるということです。内閣が許可を出せばそれはフリーになってしまう。オンライン診療だったら薬事法みたいなものの縛りがなくなってしまう。また、一括でどんどん進むというのは、企業的にはビジネスしやすいんですけれども、一方で全部個人情報が上がってしまうわけですね。

速水: IT化することでいろいろ便利になる一方、一括で規制緩和をするとこれまで築き上げてきたものを失ってしまう。まさに法律って文化なので、例えば交通事故が減っていますというのも、ずっと長い歴史で規制緩和があって、シートベルトがあって、みたいなものがあるからですね。それを一括で規制緩和ということで全部飛ばしていいのかという話ですよね。そしてもう一つデメリットとしては個人情報の問題。非常にヨーロッパなんかでもシビアな問題になっていますが、企業が都市に入ってくる時に、全部それを売り渡すようなことになるというのは大変リスクがありますよね。

堤:それは結構大きな問題で、じゃあプラットフォームはどこがやるのと思った時に、やっぱり Google なのかなと考えますよね。ところが今回スーパーシティ法案を担当している片山さつき地域再生大臣が視察に行ったのはスーパーシティの世界トップランナーと言われている中国なんですね。

速水:中国の都市、非常に発展していて、深センであるとか上海であるとか、行った人たちはみんなその話をしますね。

堤:やっぱりああいう政治体制なので、トップダウンでどんどん決められるので非常にデジタルの分野では早いです。広州という市ではアリババと提携して交通インフラを入れたんですね。これはもう凄くて、渋滞はほぼ無くなって、車の流れは15%速くなった。世界中から今注目されていて、これ自体がアリババの商品になっているんですね。世界中に売られていて、クアラルンプールがもう購入決定したといいます。


利便性と民主主義

速水:メッセージたくさん頂いています「スーパーシティ、住んでみたいです。最先端サービスが結晶した未来都市、子供の雑誌で見たような夢の都市が実現するかもしれない時期に自分が生きていたことが嬉しく、一目見てそして住んでみたいです」「スーパーシティ構想については反対です。確かに利便性は上がるかもしれませんが、公的機関がGAFAのようなプラットフォームを利用することによって、さらなる利益の一極集中が進むことによる貧富の差の拡大を懸念しています」というメッセージです。一極集中が進むんじゃないか、貧富の差が拡大するんじゃないかという話は堤さんいかがでしょうか。

堤:特区というものの性質上、例えば今50以上の地域が手を上げているんですけれども、特区に選ばれたいくつかの自治体で「利便性が上がりました。いろんなことがよくなりました、。成功です」とみなされた場合、他の地域にも広げていくというものなんです。だから最初に東京、大阪、愛知など、いくつかのところがうまくいったとなったら、全国に広がっていきます。そのうち国全体がどこもかしこも全部繋がっていくというようなそういう流れになっていきます。一極集中の怖いところは、今だったら東京都の一極集中でも都議会があって、そこにはルールがあって、一応公的機関があるじゃないですか。でもスーパーシティの場合、このルールを決めるのは本当に一部の人なんですね。これ誰かと言いますと、大臣、内閣府、そのビジネスをやる事業者や関係者、それから自治体の首長。この4者の人達なんです。

速水:欠けているのは住民ということですか。

堤:そうなんです。住民合意のところが世界各国でもやっぱり引っかかるところが多く、住民合意の取り方が曖昧なんですね。住民合意は事業計画ができた後なんです。

速水:突然示されて、「はいオッケーですね?」という時に議論すらなく進んでいく可能性があるということですか。

堤:そこが難しくて、例えば住民合意の取り方って一定のガイドラインみたいなものはないんですね。その4者の利害関係者と内閣府のミニ独立政府、これは竹中さんの言葉ですけれども、ミニ独立政府が住民合意の取り方を「こうやろう」と言ったらそれで決まってしまう。例えば、「2週間その計画を役所の外に貼っておきましょう。それで何も反対が特になかったら合意を取ったということにしましょう」とということもできてしまう。そこがすごく曖昧なんですね。

速水:いわゆるトップダウンの利便性がある一方で、みんなの合意のもとでどういう街にするという住民合意の部分で非常に懸念が生じているわけですね。

堤:そこが一番時間を食うんですよ。これはスピード重視の計画だからなるべくサクサクいきたいということで、そこを効率化していくとなったらやっぱり限りなく縮小されていくんですね。民主主義というのは時間がかかるものですから。


技術の進歩に追いつかない規制

速水:メッセージをもう一通読みたいと思います「スーパーシティ。住んでみたい。人材不足やキャッシュレス、コロナ禍によるソーシャルディスタンスが求められる昨今、人の力だけで課題を解決することは不可能な時代です。AI や IoTを利用し将来の課題に対する政策などを考案し実施していく必要が生じてくると思います。犯罪抑止や自然災害などによる被害を少しでも減らすためには、一人一人の意識だけでは不可能なのでは」 というご意見なんですけれども、まさに何かを解決するためにはスピードとかテクノロジーが必要なんだけど、それだけに頼ることの危険性みたいなものというのもあって、やっぱり一人一人の意識って逆に大事ですよね。

堤:そうなんですよね。例えば個人情報をどんどん差し出すことによってもちろんいろんなことが効率化されます。感染症の拡大防止にもなるかもしれない。でもその時に、例えば政府はデータを企業に提供できるんです。個人情報保護法が日本にはあるでしょう?と思うかもしれませんが、実は行政機関個人情報保護法というもう一つの法律がありまして、公益に叶うものなら提供できるんですね。でも個人情報を渡した企業を規制する法律がまだしっかりないんです。Facebook でも Twitter でも Google でも、個人情報を差し出す際に、無尽蔵にはできません。ここまでしか収集できませんよという法律があってもいいんですよ。それから収集したデータをどうやって使うのかを私たちに公開するそういう法律があってもいい。私たちが収集されたデータにいつでもアクセスできる権利があってもいいんですね。ところがこういう技術が先に進んでしまって、規制が追いついていないんです。なぜ追いついていないのかというと、私たちが個人情報を差し出しているという実感があまりないんですよ。

速水:まあターゲッティング広告なんかあるけど、大したことないなとちょっと舐めている部分がありますよね。例えば IT企業のサービスなんかは、最初はベータ版で始まって、人数が集まればそのうち収益化するみたいな感じでどんどんスピードを持って進んでいくんだけど、ベータ版で許されるのは単体アプリだからですよね。都市がベータ版だったら非常に危ういし、民主主義自体がどっかに置いていかれるような危機みたいなものがありますよね。今、早急に話が進んでいるんだなということが今日の話を伺ってわかりました。本当はメッセージもっとたくさん来ていたんですが、住みたい、住みたくないの次の話として課題の部分も見えてきました。

堤:あともう一つ。これはものすごい大きな技術なので、メガサーバーが使用されるわけですけれども、その時にサーバーへの電力供給だとかシステムの管理というものが外からハッキングされたらどうするのかという問題があります。それから携帯でも今度は5Gという一つ進んだ技術が入ってくるんですね。5Gは本当に新しい技術なので、世界各国で賛否があります。導入しないという政府地域も随分あるんですね。そのあたりもまだ議論とか情報が追いついていない状態で、日本は先に導入が進んでしまっているんですね。

速水:時間になってしまいましたが、今夜はスーパーシティ構想について堤美香さんにリポートをいただきました。ありがとうございました。


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