「あなたの特命取材班」の舞台裏(後編)

2020年7月1日Slow News Report



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地方紙どうしの連携でパスを回していく

速水:Slow News Report昨日に引き続きお話を伺うのは西日本新聞の坂本信博さんです。昨日は、西日本新聞が立ち上げた「あなたの特命取材班」は16000人を超える読者と LINE で繋がり、読者から調べてほしいという調査テーマを受けて実際に取材し、それが記事になるというお話を伺いしました。これは全国の地方紙との連携を行っているということなんですが、どういうことなんでしょうか。

坂本:西日本新聞が取り組んでいるあなたの特命取材班(あな特)は、ジャーナリズムオンデマンド(JOD)よんでその取り組みをしています。そして同じような手法で取り込むローカルメディアと緩やかにしなやかに連携しようということで、JODパートナーシップというネットワークを作っています。北海道から沖縄まで全国23社27媒体、ほぼ日本全国をカバーできるまでに広がっています。

速水:連携することで、具体的にどういうことが行われたのでしょうか。

坂本:具体的には三つの連携をしています。一つは日常的に調査依頼や内部告発などの情報の共有をしています。そしてもう一つお互いのJODの記事を交換して、それぞれの紙面やウェブに載せたりしています。そしてもう一つは、例えば外国人労働者の声を集めるというよな、全国に共通するテーマについて共同調査報道をやっています。

速水:昨日お伺いした話の中でも、日本に住んでいる外国人の方からの調査依頼のお話なんかもしましたが、それを広げているということですが。

坂本:そうですね。野菜に例えると産直野菜みたいなものですね。それぞれ地方紙というのは、その地域に根ざして自分たちの責任でこだわったおいしい野菜を作って届けているんですけれども、どうしても自分の取材エリア以外のニュースについては他の業者だったり大量生産の野菜を買うしかなかった。それを、お互いこだわって作った記事を、美味しい野菜を生産者同士で交換し合って、お互いの食卓やマーケットを豊かにしていこうというのがこの取り組みです。例えば去年ラグビーワールドカップが大変盛り上がったと思うんですけども、北海道新聞が「歓迎ラグビーワールドカップ」というのぼり旗を立てたお店が商標権侵害だと批判を受けたと。それっておかしくないですか?という記事を北海道新聞さんが書きまして、今度はそれを岩手日報が岩手の事例を盛り込んで、北海道新聞の記事とドッキングして記事を書きました。今度は西日本新聞が北海道新聞と岩手日報の記事をドッキングして、九州の事例を合わせて載せました。それを今度は神戸新聞がまた追加して載せて、最終的には青森の東奥日報が載せてということで、記者の署名がどんどん長くなってですね(笑)、ラグビーのパス回しのように、お互い面白い記事をどんどん回していって一つの記事を作っていたという事例もありました。

速水:うまい比喩ですね(笑)。もともとの記事に自分たちの独自情報を載せてどんどん回していくというイメージなんですね。

坂本:お互いのそれぞれの記事をそのまま載せることもあるんですけれども、中には自分のところの話とドッキングしてということもあります。


「西日本新聞」なのに関西じゃない?

速水:こういう地方紙同士の連携が生まれていったきっかけはあったんでしょうか。

坂本: 2018年の1月にあな特がスタートしまして、それから半年くらい経った頃に、「西日本問題」と我々が呼んでいる問題が起きました。私たち九州の新聞なんですけれども、名前が西日本新聞ということで、関西の方から非常に深刻なテーマの内部告発をいただいたんですね。本当だったらすぐに一面トップになるような大きな話だったんですけれども、物理的に取材に伺えないので、「申し訳ありません。私達九州の新聞なので」ということで謝ると、「西日本じゃないの?」とお叱りを受けました。名前が西日本新聞なので、当然関西の事も調べてくるだろうと思って情報を寄せてくださったで、このままだとせっかく築いた読者との信頼を損ねてしまうので、そうであれば、全国のローカルメディアとノウハウを共有して、助け合ってやれたらいいんじゃないかということで、2018年の6月にJ OD 研究会という会を開きました。全国各地の地方紙に呼びかけて、無償で全てのノウハウの共有をしていきました。また、同じような取り組みをされているところもあったので、じゃあ一緒に組みましょうということで、輪がどんどん広がっていって、最初は西日本中心だったんですが、やがて関東、東北、そしてこの春ぐらいでほぼ全国をカバーできるまでに広がりました。共同で一緒に手分けをして取材をすることも今やっています。

速水:ノウハウごと共有しましたというところが面白いところですよね。

坂本:そうですね。主に LINE とか特設サイトで受け付けているのですが、どういう返しをしたらいいだろうかとか、こういう難しいテーマが来た時にはどんな風に返信をしたらいいのかとか、そういうところをみんなで知恵を出し合いながら、読者の方との信頼を積みげるような工夫をしています。


あな特は記者自身のモチベーションや自信のアップにもなっている

速水:他の地方紙の方がこの手法をやってみて、何か反応と反響はなにかありましたか。

坂本:私たちがあな特を始めた時に思ったのと同じような感想を皆さん持たれていて、やはり自分たちが必要とされている、世のため人のためになりたいと記者になった自分たちの原点を改めて思い返したとか、地方紙は自分の地域では最強のメディアだと思っていたけれども、何となく全国メディアに対してちょっと下にあるような感覚があった。でも実は我々がこれからの新しいジャーナリズムを開いていけるんじゃないかというような自信が出てきたとか、嬉しい反応がいっぱいありました。

速水:地方紙の置かれている立場って、その地域のローカルの情報に関して一番詳しく載っているわけですけれども、一方で朝日新聞だとか読売新聞といった、いわゆる全国紙として知られている新聞の地方板というのがライバルとしてある。昔だったら二紙とも取りますみたいな人たちいっぱいいたと思うんですけれども、この新聞離れの中でそんな余裕がある方達だけじゃないし、地方紙はどんどん人を削ったりしているような状況の中で、地方紙独自のローカル色をより強めていく方向の中で、こういうアイデアが出てきていると言ってもいいですよね。

坂本:そうですね。先程の例えでいうと、お互い産直で美味しい野菜を作っていたのが、全国の野菜もおいしいのが食べれますよと。また嬉しいのは、一生懸命作った生産者の方の名前って産直の野菜によく書いてありますけれども、例えば 高知新聞の記者の方の名前が西日本新聞にも載ったりということで、記者にとってもモチベーションが上がるんです。

速水:そこは大きいですね。

坂本:あと西日本新聞であったのが、販売店と連携する販売局の同僚達がすごく喜んでくれました。なんでかと言うと、以前は新聞とりませんかという勧誘の中で、「3ヶ月サービスしますよ」とか、「洗剤をつけますよ」だったのが、最近では「困っていることありませんか?調べて欲しい事ありませんか?」と言って新聞の購読をお勧めすることができると。

速水:なるほど、新聞本来の売りがちゃんとセールスの文句になっているわけですね。作ってる側にとってもプライドとして大きいですね。「自分たちは洗剤とか野球のチケットとかのために作っているんじゃないよ」というのもあったと思うんですよね。そこも変化が生まれているという話も非常に興味深いんですが、後半はリスナーによる「これを取材してほしい」というメッセージを坂本さんにぶつけてみたいと思います。メッセージを読みます「 同じ福岡なのに博多駅近辺を博多、それ以外を福岡とよび分けるのはなぜ?と聞いてみたい」というメッセージです。これは僕も福岡の謎の一つですね。

坂本:あな特ではないんですが、以前に記事にしたことがあります。元々商人の町だった博多と、城下町だった福岡というところの歴史的な経緯とかがあるんですよね。こういったやわらかい話もどんどんあな特ではで取り上げていきたいと思っています。


プライベートなことでも困っている人がいる事自体がニュース

速水:じゃあどんどんいきたいと思います。茨城県50代の女性の方「現在マンション住まいです。網戸で換気をしていると、下の階から強烈なニンニクの臭いが上がってきます。リビングにいるときはもちろん、北側のベランダから離れた部屋でも感じるほど強烈です。おそらく外国の方がお料理をしているエスニックな香りのようです。今ではちょっと鼻について恐怖感すら感じます。どうしたらいいのでしょうか」という、ご近所問題になると思うんですけども、こういうのはどうでしょうか。

坂本:非常に多いですね。例えばマンションで、隣のベランダのタバコの煙で困っていますとか、あと騒音とかですね。そういった当事者の方でないと分からない大変さというのがあると思うので、例えば過去には音量の測定機器を持ち込んで、どれくらい音がうるさいのかというの調べたりとかしました。ですのでこういったテーマも、すぐに答えは出ないのかもしれませんけれども、まさに困っている人がいること自体がニュースだということで、それを何らかのきっかけで関係者の方が読んでくださったら、気をつけようとか何か新しいアクションが生まれるんじゃないかなと思っています。

速水:なるほど。そんなのプライベートの問題でしょうとも思うんですけど、そこを測定器でデータをとって取材するみたいなこともやられるということですね。次は40代男性自営業の方「坂本さんにぜひ調べて欲しいことがあります。ズバリ Twitter JAPAN は明らかに Twitter 規約に違反する差別ツイートを繰り返すユーザーのアカウントをなぜアカウントを凍結しないのかについてです。どれほどの通報があっても凍結しないのはなぜなのか、調べて欲しいです」というメッセージです。

坂本:これはぜひ取材班で共有させていただきたいと思います。

速水:ネットの差別とか中傷も結構困っている人たちが多いですよね。

坂本:先日あな特でも、誹謗中傷を受けた時にどうしたらそれを止められるのか、具体的にどうしたらいいのかということを、専門の弁護士に聞いたり、いろんな専門家の方に聞いて解決策はどうしたらいいかということや、実際に訴訟で誹謗中傷を止めることができたという方の事例も含めて書いています。

速水:ご近所問題もう一つ来ているんですけれども、40代男性の方「身の回りで困っているのはゴミ捨てルール守らない問題です。家から駅まで空き缶やタバコのポイ捨て、コンビニの空き容器など結構目立ちます。昔は公園などにゴミ箱あったのに、いたずら、テロ対策のご時世で今はなく、マンションの共同ゴミ捨て場も曜日が違うのに燃えないゴミを捨てたり、袋に入れてなかったり、モラルに直結しているだけに何とかならないものかと」というご意見もあるんですが。

坂本:あな特であったのは、コンビニの入り口にあるタバコの灰皿。入り口でタバコをスパスパ吸っている方がいて、タバコが苦手な人は困っているとといった調査依頼がありました。聞いてみると、お店としてはあそこでタバコの火を消してもらって中に入ってもらうために灰皿を置いていたんですけれども、なんとなくタバコを吸う場所になってしまっていると。そういう話もありました。

速水:それは確かに調べてみなきゃ分からないことですね。

坂本:私達だけではわからないものももちろんあるので、読者の方に良い解決策はないでしょうか?という呼びかけをすることもあります。

速水:最後にもう一つ、「常にチャリンコ移動なんですが、都内も神奈川県も自転車置き場が少ないことと、料金が高いことにいつも困っています。月極の自転車置き場は空きが出るまで数年待ちはザラです。コインパーキングは次々できるけど、やっぱり駅近に自転車置き場を増やすのは難しいかな」 という自転車置き場が少ないことに困っているというご意見ですが。

坂本:福岡でもあな特にあったのは、他の人が止められないように自転車置き場に勝手に鍵をかけてしまう方がいて、それはおかしいんじゃないかという調査依頼がありました。そういうことが起きているということ自体、私達も初めて知って、それは新聞紙面にも大きく載りました。

速水:ここの自転車置き場でこういうことがあったみたいな通報があったとしたら、それがどういうことなのか現場に行ってみるんですね。

坂本: SNS だけで取材が終わることはありません。現場に行って裏を取るというのは、今までの報道と何も変わらないというところです。


読者との双方向のやり取りはこれからのメディアのあり方のヒントになる

速水:現場に足を運ぶことは新聞記者さんにとって大事な原則なわけですけれども、ステイホーム期間中だとなかなか行けない現場なんかもあると思うんですが、新聞社も影響を受けますよね。

坂本:顔を合わせての取材は我々にとっては当たり前のことだったんですけれども、それすらできなくなってしまいました。やると取材相手に迷惑をかけるという初めての事態に我々も直面しまして、そうした時にあな特が繋がっているフォロワーとか、JOD の各社でつながっている読者が全部で7万人くらいいるんですけれども、そういった方と直接 LINE で双方向のやり取りができるというのは、実はこのコロナの時代の大きな取材ツールになっていると感じています。

速水:なるほど情報源という形で始めて作ったネットワークというのが、取材のためのネットワークにもなったということですね。

坂本:日頃から丁寧にやり取りをしていく中で、信頼関係を読者の方と紡いでいって、いざという時に我々が助けてもらっているということがたくさん起きています。以前だと、野球で例えると読者がピッチャーで、記者がそれを打ち返すバッターに過ぎなかった。それを会場の読者が見て喜ぶというだけだったんですが、このあな特の手法は、読者がピッチャーで、我々記者がキャッチャーで、場合によっては観客席からも玉が投げ込まれてきて記者がボールをやり取りするという、何か新しい、本当の意味での双方向のやりとりができるようになったというのは、テクノロジーの進歩の賜物かなと思っています。

速水:新聞と読者の関係は送り手と受け手なのかなと思っていたら、どちらもが送り手であり受け手であるという関係性。メディアのこれからのあり方みたいなことを考えるヒントとしても、投げ手と受け手の境目がはっきりしなくなっていく時代に、どういうやり取りができるのか。まさにコミュニケーションの問題そのものだなと思いました。今日は西日本新聞の坂本信博さんに昨日に引き続きお話を伺いました。坂本さんどうもありがとうございました。

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