ネット・ゲーム依存症対策条例

2020年7月7日Slow News Report



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速水:Slow News Report今日はKSB 瀬戸内海放送の記者山下洋平さんとお届けします。KSB 瀬戸内海放送は岡山県と香川県で放送されているテレビ局ですが 「ゲームは1日1時間」、これが今日のキーワードになります。今のステイホームの状況で、家でゲームをして過ごしている子供たち多いと思うんですが、実は僕もゲームは好きなんです。ですので、この問題に関しては非常に前々から気になっています。今年の春、香川県で条例化された「ネット・ゲーム依存症対策条例」、こちらのお話を今日は取り上げたいと思います。山下さんはこの件で大きなスクープをあげました。まずは「ネット・ゲーム依存症状対策条例」とはどういうものなのか、教えていただいていいでしょうか。


ゲームは1日60分まで?

山下:今、社会問題になっているインターネットやゲームの依存症から子どもを守ろうということで、行政、学校、保護者、それから医療だったり、ゲーム事業者などが連携して、社会全体で取り組むということを定めたものです。医療の提供体制の整備とか相談支援、それから啓発などを行うことなどを盛り込んでいるんですけれども、最も注目されたのが子供のゲームの利用時間について平日60分休日は90分までという目安を明記して、保護者に守らせるよう求めたことなんです。

速水:科学的な根拠みたいなものが気になりますが、この条例についての議論というのは前々からあったものなんでしょうか。

山下:去年、 WHO がゲーム障害は新しい精神疾患であるということを認定したこともありまして、香川県議会の議員達が自分たちで立案して可決したものなんですけれども、去年の秋頃から県議会の中に検討委員会を立ち上げて、その中で議論が行われてきました。

速水:そして3月末に可決成立、4月1日施行ということで、その経緯の中で瀬戸内海放送が報じたこととというのは何だったんでしょうか。

山下:議会の条例検討委員会がまず条例の素案というのを作って、これについてどう思いますかということを、県民とゲーム事業者から意見を募ったパブリックコメントが行われたんですね。そのパブリックコメントの概要版というのが3月に公表されたんですが、その中身について我々が報じたことがきっかけになって大きく問題になりました。


不自然な賛成の数

速水:パブリックコメントの中身はどういうものだったんでしょうか。

山下:最初見たときびっくりしたんですけど、一つはこのパブリックコメントで寄せられた意見の数なんですね。通常香川県が行なっているパブリックコメントだと、意見が数件ということがほとんどで、多くても十数件というくらいだったんですが、今回は2686件という桁違いの多くの意見が寄せられたんですね。関心の強さというのもあったとは思うんですけど、それにしても多いなと。そしてもう一つが、報道陣に公表されたパブリックコメントの概要版の表紙に賛成と反対の意見の数が表示されていて、賛成が8割以上を占めていたことなんです。時間の制限については注目をされてネットでも結構話題になっていて、それを目にしていた肌感覚としては反対意見の方が多かったし、そもそもパブリックコメントは住民投票みたいに賛成ですか反対ですかということを問うものではありません。通常、パブリックコメントを送ってくる人は、条例のここをこうしてほしいという意見がある人だと思うので、圧倒的に賛成多数という結果は率直に言ってちょっと違和感を覚えました。公表されたものは概要版という、議会の事務局がまとめたものだったので、やっぱりその原本そのものが見たいということで、概要版が出た翌日に議会事務局に行って、原本を情報公開請求しました。本来15日以内に開示されるんですけれども、個人情報を隠すために時間がかかるとして延期になって、結局条例が施行された後の4月13日に原本が公開されました。

速水:開示された中身をご覧になってどうだったんでしょうか。

山下:反対意見というのはかなり綿密な長文のものが多かったんですけれども、8割を占める賛成意見を見てみると、「賛成します」「賛同します」という短い文がほとんどでした。気になったのは、似た文言というのがものすごく多かったことです。例えば「明るい未来を期待して賛成します」とか「判断のつたない大人を生み出さないために賛成します」というようなのが、たまたま重なることはあるにしても、これがなんと100件以上同じようなもので、しかも送信日時を見ると同じような時間に連続して送られていたんですね。この賛成意見のほとんどが、県議会のホームページにあるご意見箱と言う投稿ホームから送られてたんです。これだと送った人のメールアドレスは書かなくていいんです。私も番組の取材で実験させてもらったんですけれども、ブラウザの戻るボタンを使ったら1分ぐらいで名前と住所だけ書き換えて連続で送信できるということがわかりました。

速水:つまり仕組み的には、誰か一人の人間がやろうと思ってやれないことはないような仕組みになっているということですね。こういったパブリックコメントが、条例の中身であるとか可決否決に直接関係してくるわけではないわけですよね。

山下:行政は計画とか条例を作る際、パブリックコメントというのを募集して、それを聞いて条項の中身を変えたりとか、そういう風に活かすものです。賛成が多かったからやります、やりませんというものでは全然ないんです。

速水:賛成反対の数字が何かを決めるわけではないとはいえ、非常に多くの賛成の中でこの条例が通ったと外側からは見えるような仕組みにはなっているということですね。

山下:印象としてはそうなりますね。

速水:この不自然さに関して報道後いろんな反発反論反響あったと思うんですけれども。

山下:大きな反響がありましたね。この条例は正しく作られたものなの?とみんなの疑問とか不信感に繋がるという声が多くありました。そもそも県民の意見を行政の計画とか条例に反映するのが目的なのに、今回のように賛成反対の数を競う多数決みたいになると、条例を良くする機会が失われて、小さくても大事な意見というのはあると思うんですけれども、それを数の力で押しつぶされてしまう恐れもある。そして香川県でこういうことがあったとなると、他県でも、意見が対立しているような条例とか計画があった時にたくさんパブコメを送ってやろうみたいな、多数派工作が当たり前になっちゃうと懸念する声もあります。


香川県の高校生が条例は憲法違反として訴状の準備も

速水:本来行われるべき議論は、本当に依存症が問題なのか、どうそれを解決できるのかというところなのに、そこから外れてしまうような危惧もあるということですね。いま、香川県在住の高校生が香川県ゲーム条例は憲法違反であるという疑義を唱えて、国家賠償請求訴訟のためのクラウドファンディングを募集していることが非常に話題になっています。現時点で 支援者数が約1600人、集まった支援金額も目標金額の500万を超えて550万円に近づこうという数字になっています。この動きはどう見てますでしょうか。

山下:高松市在住の高校3年生17歳の男子生徒なんですけれども、未成年なのでお母さんと一緒に裁判を起こす準備を進めています。彼は本当にゲームが大好きと自分でも語っていて、この素案が出た時に自分でインターネットで署名を集めて、500人を超える署名を県議会に出したりしていたんですね。でもその署名は特に考慮されることなく採決されてしまって、自分で県議会を傍聴していて涙を流しそうになったと語ってるんです。この可決を受けて、こんなことを全国に広げちゃだめだということで裁判を起こす準備をしています。

速水:一般市民の日常生活の中身のことを法律条例が規定することがそもそもおかしいんじゃないかという、この香川の高校生の主張というのはまさにそこの部分を突いているかと思います。行政が介入しすぎな部分、僕も非常に気になるんですが、この問題の科学的根拠はどうなっているんでしょうか。

山下:私も小学生の息子がいるんですけれども、やめろと言ってもなかなかゲームをやめない。お子さんを抱えているお父さんお母さんにそういう悩みを抱えている方って多いと思うんですよね。話を聞くと、この条例に時間の目安があるほうが注意しやすいみたいな声もあるにはあるんです。ただゲーム依存症という病気に時間の制限が果たして有効かどうかということに関しては科学的根拠はなくて、専門家でも意見が分かれています。だから60分とか時間を区切ってゲームを取り上げてしまうというのが、依存症を抱える人にとっては逆効果じゃないかという意見もあったりするんですね。


ゲームをする時間と成績の関係に科学的根拠はあるのか

速水:もう一つ、ゲームをやりすぎると成績が落ちるというのも条例の根拠になっているんですよね。

山下:香川県議会の条例検討委員会が60分という目安を定める際に、参考資料として香川県が小中学生を対象にした学習状況調査という毎年行っている調査があります。その中で1日60分以上スマートフォンを利用すると試験の正答率が下がるというグラフを参考資料で出してきているんです。確かにグラフを見ると、ゲームやスマホの時間が多ければ多いほど正答率は下がっていて相関関係はあるんです。けれども、それと因果関係というのは別なんですね。例えばゲームやスマホをやりすぎて成績が下がったというだけじゃなくて、学業がうまくいかなくてその気晴らしのためにゲームにはまっている人というのがいるケースもあるでしょうし、両方に関係する別の要因がある可能性というのもあります。この学習状況調査では、例えば「朝食を毎日食べますか?」とか「近所の人に挨拶しますか?」という質問もあって、それも同じように正答率と相関関係があるグラフが出ているんです。ですから、必ずしもスマホやゲームというものが成績低下の原因になっているかどうかというのは読み取れないと思うんですね。

速水:因果と相関が違うというのは非常に基本的な所なんですけど、例えば昔の話ですけれども、18年前「ゲーム脳の恐怖」という本がベストセラーになって、非常にみんな「おお!そうなのか!」と受け止めたんですが、実際にベータ波が低下してゲームをやるとバカになるという話は、基本的には学的な根拠は一切なく、オカルトと親和性が高いジャンルだというのがあると思うんですよね。今回の条例はオカルトとは言い切れない部分があるんですけれども、元々ゲーム脳みたいなオカルトが支配してきたようなジャンルの延長線上に出てきてしまった条例というように僕には見えてしまっている部分もあるんです。この2月3月4月あたり、世界と比較してオンライン教育なんかでも日本は非常に遅れているということがはっきりしました。 eSports なんかでも後進国だと言われていますが、この条例が向かっている先って時代に逆行しているような感じを受けるんですがいかがでしょうか。

山下:香川県県議会はネットやゲームそのものを否定するものではないということは強調して言っています。ただこの条例が全国的に話題になる中で、イメージの低下ですとか、eSports の大会を香川県に誘致しにくくなるなどの影響が今後出てこないかなという心配はしています。

速水:確かにゲームだけやってて一人の世界に没頭するんじゃなくて、人との繋がりも必要だよみたいな話もあるかもしれないんですけれども、どうしても個人の自由の領域まで踏み込んでいるように見えてしまうんですよね。最後になりますが、この取材を通じて感じたことはなにかありますでしょうか。

山下:私たちが本格的な調査報道を行ったのは、この条例の施行後になってしまいました。本来であれば条例ができる前にもっと検証しておくべきだったなという反省はあるんです。ただ可決したらもうそれで終わりみたいなことをしていたら、今後も同じように議会の多数派がどんな条例でも成立させていってしまうんじゃないかなとも思うので、やっぱり制定過程の不信に感じる部分をきっちりと検証することで、今後に繋げていかなければならないなということは強く思っています。

速水:最後にメッセージも紹介したいと思います。「昔は漫画ばっかり読んで、テレビばっかり見て、さらに昔は小説ばかり読んで、というふうだったらしいです。ゲームで飯が食えればいいだけの話で、野球ばっかりやってプロにならなかったらどうするの?と言うのと同じじゃないのか」という疑問のメッセージいただきました。どうしてもメディアが何かしら悪者になっている部分、科学的な根拠とは違うところで叩かれやすいみたいなことを感じます。引き続きこの問題取材を続けてください。山下さんありがとうございました。

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