「プラットフォーマーとフリーランス」のあいだに起きる問題

2020年7月22日Slow News Report



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速水:Slow News Report 今日もフロントラインプレス藤田和恵さんとお送りします。今日のテーマは「プラットフォーマーとフリーランス」のあいだに起きる問題ですが、プラットホームとフリーランス、どんな繋がりがあるのでしょうか。


プラットホームとそこで働く人の問題

藤田:フリーランスという働き方は昔からあるんですけれども、最近はインターネットのプラットホームに登録をして、そこを通して単発で仕事を請け負うというケースが増えています。例えば昨日お話ししたウーバーイーツの配達員さんとか、ウーバーのタクシー運転手というのはまさに典型的なプラットホームワーカーですね。他にもランサーズとかクラウドワークスというプラットホームに登録しているライター、デザイナーさんもプラットホームワーカーといわれている働き方です。また、最近子供に対する強制わいせつという深刻な事件がありましたが、ベビーシッターを派遣するキッズラインなんかも同種の形態かなというふうに考えています。今、私達のようなフリーランスと利用する企業、あるいは一般の消費者をマッチングするしてくれるプラットホームですね。そういうスタイルのものが増えています。

速水:フリーランスの働き方としては間口が広がっている。その中で今起きている問題というのはどういうものなんでしょうか。

藤田:最近そういったプラットホームワーカーの中でも、便利屋さんのお話を聞く機会がありまして、元々は引っ越しとかお庭の草刈りとかハウスクリーニング、不用品の回収といったものを営んでいた、地域の便利屋さんとか何でも屋さんという会社が、これは形態としては個人事業主だったりするわけですけれども、彼らがネットのプラットホームに登録して、そこで仕事を請け負うという形が増えているんです。その具体的なプラットホームとしては、例えば「くらしのマーケット」とか「便利屋 お助け本舗」とか「町の便利屋さんファミリー」といったものがあります。

速水:いくつもあるんですね。最近テレビの CM で名前を見かけるところもありますね。こういった便利屋さんのプラットホームは、頼む側はそこに値段が書いてあって、例えばエアコンの修理いくらとか僕も見たことあるんですけど、登録する側はお金を出して登録しているのでしょうか。

藤田:基本的にそうです。プラットホームによって形態は違うんですけれども、例えば最初に加盟料、登録料として10万円くらいを払って出品できますよとか、あるいは加盟料は無料なんですけれども、その都度手数料を取るとか、そういった形で何らかのお金をとっています。

速水:ここで起こっている問題というのはどういうものなんでしょうか。

藤田:この便利屋さんを取り巻く問題というのは、一言で言うと、個人事業主とプラットホーム側の力関係が対等ではないということなんですね。例えば手数料の支払いとか、経費の自己負担など、フリーランスの側に不利な取り決めというのがまかり通っているんですね。例えば仕事がキャンセルになったのに所定の手数料だけは払わないといけないということもあって、そうするとフリーランスにとっては赤字だけですよね。あるいは往復の交通費が自腹になってしまうとかですね、そういった問題があるのと、あともう一つはこうした実態について SNS 等で文句を言うと、一発で登録を抹消されてしまうんですね。実はここがいちばんフリーランスにとっては辛いところなんですね。

速水:仕事の窓口になっているプラットホーム、間に入って仲介するだけといっても、業者にしてみるとそこが窓口になっている以上、主導権はプラットホームの側にあるという問題って当然ありますよね。昨日お伺いしたウーバーイーツの問題でも、登録を抹消してしまうという、その強みがある以上は強いことは言えないという状況なんかともちょっと似ているかもしれないですよね。

藤田:全く同じと言っていいと思います。しかも文句といっても、例えば私が話を聞いた人の中では、「それじゃあ下請けと変わらないな…」というくらいの、本当にただの愚痴ぐらいだったんですけれども、一発で登録を抹消処分になってしまうわけですね。その人なんかは、これからここで仕事をするためにちょうど大型トラックをローンで購入したばかりだったんですね。だから非常に困っている、そういう状況の人もいます。


現状の労働法が新しい働き方に追いついていない

速水:フリーランスという働き方は、空いた時間を使って仕事もできるし、新しい仕事をどんどんネットを使って広げることもできるんですけど、まだまだ既存のルールや考え方なんかではそこの対策まで追いつけていないということですよね。

藤田:その通りだと思います。今やフリーランスという働き方は正社員、非正規労働者に次ぐ新しい働き方になってきていると思うんですけども、なかなかそういった働き方を前提とした法整備というのは進んでいないのかなという印象を受けています。

速水:基本的に労働法は労働者の権利を守る法律として生まれてきているけれども、そこの法律の範疇では守られないような自由な働き方が出てきていて、これまで労働者として守られてきた部分というのはもう守られなくなっている。働き方の自由っていいことのように思うんだけれども、そこにも新しいルールを作っていく必要がありますよね。

藤田:今フリーランスの数は政府試算だと462万人、ランサーズというプラットホームの調査では1000万人にのぼると言われているんですね。そうすると相当な数いるということですから、自由な働き方と法整備はやっぱり両輪で進めていかなきゃいけないのかなと思います。

速水:ひとつメッセージを読みます「問題なく役務が終わった時はいいですが、何か起きた時、仲介ビジネスにおける責任の分界点はどこにあるのか気になっています。仲介するだけで責任は取りませんというのでは、消費者側からすればたまったものではないですよね」というご意見ですが、働き手もそうですが、サービスを受ける消費者の方としても守られてないという状況はあり得るわけですね。

藤田:そうですね。これは働き手だけの問題ではなくて、そういったサービスを利用する私たちの問題でもあるんですよね。まさにご指摘の通りだと思います。

速水:もう一通読みます。「労働者に都合の良い、労働者と派遣元が対等な契約なんて生まれるのかは疑問。紀元前からそういった人間の声って変わってないし」というこのメッセージ。対等な契約なんて出来るのかよというような疑問のメッセージも来ていますが。

藤田:そもそも対等じゃないから法律を作るんですよ。労働法とか関連法というのは、もともと会社と個人は対等じゃないから、労働者の側に下駄を履かせてあげましょうという趣旨なんですね。

速水: 18世紀19世紀に工場労働が生まれた時に、あまりにも差があるから労働者を守るんだというような法律、考え方が生まれた。ただ、今はそういう時代じゃないでしょうという中で、また新たなルールを作っていくということですね。そして後半は、引き続きフリーランスの話ですけれども、ちょっと違うタイプの仕事の話ですよね。

藤田:そうですね。フリーランスというのは、先ほどもちょっとお伝えしたんですけれども、元からある働き方ではあったわけですね。古くはトラック運転手とかヤクルトの販売員とか化粧品の訪問販売員の方とかクリーニング店の店主さんとか、美容師さんなんかも実は年齢が高くなればなるほどフリーランスという方は結構多いんですね。

速水:彼らは歩合制でお金をもらえるという意味では、腕次第、働き方次第ですごく稼げる仕事なんだけど、固定給ではないので守られているわけではないですね。

藤田:そうですね。給料じゃなくて報酬をもらうという形なんですね。働けば働くほどもらえるんですけれども、労働基準法からは基本的に保護されないという、そんな形ですよね。そしてさらにここに来てインターネットのプラットホームというものが登場して、さらにフリーランスの働き方が広がっていて、割と働き方としては身近になってきているという感じでしょうかね。


名ばかりフリーランス

速水:どんどん増えている状態ではありますね。その中で“名ばかり”と言われる話をちょっとお伺いしたいんですけれども。

藤田:フリーランスを取り巻く問題のひとつとして、見た目ほ社員、従業員と変わらないのに、形だけ個人事業主という人たちを“名ばかりフリーランス”とか“名ばかり事業主”というんですね。それとは別にフリーランスはフリーランスなんですけれども、異常に低い報酬とか長時間労働の問題もあります。私が話を聞いた中では、例えば ウェブライターさんなんかでは、一文字0.1円とか0.2円といった単価で働いている人もいますし、トラック運転手さんは拘束時間が毎月 300時間を超えるという人もいるんですね。やっぱり労働基準法に守られないので、こうした異常な事態も起きてきてしまうということですね。

速水:1950年代はそれで当たり前みたいな事ってあったかもしれないんですけれども、今のご時世だとそういうのってブラック企業とかと言われちゃうんですよね。でもフリーランスだとそれが起こり得るということですね。ここに対して、会社であれば労働組合がそこに対して異議を訴えるような役割だったと思うんですが、フリーランスだとそういうのがないわけですよね。

藤田:フリーランスも労働組合って作れるんですよ。実際に公文の先生とか、クリーニングの店主さんとか、美容師さんなんかもユニオンを作っているんですね。例えば最近できたものの中には、ヤマハ英語講師の人たちが作ったヤマハ英語講師ユニオンとか、全国でヨガ教室を展開しているスタジオヨギーというところがあるんですけれども、そこのインストラクター達によるyoggyインストラクターユニオンというのもあるんですね。

速水:フリーランスで働いている講師の方々が作っている組合ということですね。

藤田:そうですね。英語講師さんの方は、会社から配属先とか教材なんかも全部決められていて、見た目にはもう従業員なんですよね。だけどフリーランス扱いなんです。一方のヨガのインストラクターさんの方は、突然有料の研修制度が導入されて、それを受けないと担当クラスを全部外しますよと言われたりしてします。

速水:ユニオンが結成されて、成果はあったのでしょうか。

藤田:この二つのユニオンについては、実は成果の面で明暗が分かれているんですけれども、ヤマハ英語講師ユニオンの方はつい先日、最初からユニオンが求めていた直接雇用して欲しいという要求がほぼ100%を通ったんですね。それに対してスタジオヨギーの方は、労働組合の主要メンバーが担当クラスをゼロにされてしまうというハレーションも残念ながら起きていると聞いています。

速水:今のステイホーム状況、コロナ禍の中、こうした動きは何か影響を受けていたりしますか。

藤田:2つのいずれのユニオンも、このコロナ禍でやっぱり自分の就労とか労働条件に不安が生じているんですね。両方とも組合員数は増えていると聞いています。いずれのユニオンも職場で自分たちのユニオンが必要とされているという感覚は持っていると聞いています。


自由な働き方を守るためにも法整備が必要

速水:フリーランスの働き方は今増えているし、国としてもそういう働き方を増やすことについて推し進めています。そしてプラットホームワーカーという部分では、ネットで気軽に登録して働いたり、子供を育てているお母さんが急に出かけなきゃいけない時にネットで子供を預けられというのは本当に夢のマッチングなわけですけれども、そこで起こる事故であるとか、雇用のアンバランスな関係であるとか、行政も何かしらの対応が必要という状況になっているわけですよね。

藤田:そうですね。私たち利用者にとってもこういう働き方をしてくれる人って必要なんですよね。一方でフリーランスに対しては、好きで選んだんだから文句を言うなということが言われがちなんですね。加えて、時にフリーランス自身からも、私たちの自由な働き方を奪うなという指摘を受けるわけです。ただ一方で、欧米各国ではフリーランスを保護するための法整備というのはどんどん進んでいるんです。例えばフランスでは2016年なんですけれども、こういったプラットホームの社会的な責任もちゃんと考えましょうという理念のもと、労災保険とか研修とか教育にかかる費用をちゃんとプラットホームに負担してもらいましょうとか、あるいは働き手にも労働組合を作ったりストライキをする権利を保障しましょうという法整備が出来ました。アメリカのカリフォルニア州でもこうしたプラットホームワーカーを労働法上の労働者として見なしましょうという法律ができているんですね。だから客観的にも日本は遅れていると言わざるを得ない。こうした法律は、全てのフリーランスを社員にしろとか、会社に雇用させろと言っているわけじゃないんですね。働き方に見合ったセーフティネットを用意しようという話なんです。だからこういった法律の働き方規制というのは、自由な働き方を奪うものでは決してないんだということ最後にお伝えできればと思います。

速水:フリーランスのような働き方はどんどん広がっていけばいいんですけど、そこからこぼれおちるものもちゃんと拾っていこうよということ、それが法制度なのかなと思いました。藤田和恵さん昨日に引き続きありがとうございました。