福島の避難者の今

2020年8月3日Slow News Report



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速水:Slow News Report 今日は朝日新聞の青木美希さんにお話を伺います。青木さんは福島第一原発の事故以降ずっと、福島で起きていること、福島の人々を取材されています。朝日新聞の「プロメテウスの罠」のメンバーでもあり、2013年の手抜き除染のスクープをされました。また、講談社現代新書「地図から消される街」という新書も出されています。ずっと福島の取材をされていますが、今のコロナウイルスの状況では行くのも難しいですよね。

青木:そうですね。今日も本当は浪江に行こうと思ったんですが、やっぱり迷惑になるなと思ってグッと我慢しました。


浪江のまだ新しい自宅の解体を決断

速水:そんな中、青木さんは今野寿美雄さんという方の取材をずっと続けているということなんですが、どんな方なんでしょうか。

青木:2015年頃から取材をさせていただいている方です。今56歳の方で、浪江町に住んでいらっしゃいました。原発などの計測機器を試験検査をするお仕事をされていたんですが、原発事故で避難を繰り返し、今は奥様と中学校3年生になった息子さんと福島市にある復興公営住宅の一室に住まわれています。

速水:もちろん元々は浪江に家があり、今は福島市の別の場所に住んでいるということなんですが、お仕事なんかは今はどうされているんでしょうか。

青木:ずっと仕事を探しているんですけれども、なかなか50歳を過ぎると職が見つからないんですね。福島大学の2017年の調査というのがあるんですけれども、ここでも50代で無職は26%という数字が出ています。先日もハローワークに行ったそうなんですけれども、コロナで失職した方もたくさんいて、駐車場に入るまで30分かかったと言っていました。

速水:そしてこの夏、生まれ育った浪江にある自宅の解体工事が始まったということなんですが、原発事故から9年経ったこのタイミングであるということには何か理由があるんでしょうか。

青木: 2017年の3月末で浪江町の避難指示を政府は解除しました。ところがその間、多くの建物が老朽化し、ねずみやハクビシンが入り荒らされてしまったんですね。放射能汚染も受けました。そこで国は2018年3月末までに申し込めば、国がその建物の解体をしますということになりました。今野さんは自宅をリフォームして残すか、壊すかギリギリまで悩みました。彼の家は原発事故当時築9年で、とても綺麗だったんです。なので本当にギリギリまで悩んだ末に解体を申し込みました。

速水:まだ住めるのに解体を申し込んだのは何か理由があったんでしょうか。

青木:放射線量が下がらなかったんですね。

速水:青木さんはご自宅に実際に伺っているということなんですが、どういう状況だったんでしょうか。

青木:何回も伺っているんですけれども、放射線量はそんなに下がらないんですね。除染はもう終わっているんですけれども、家の中は除染対象外なんです。一番家の中で高いところは2階で、天井に近い部分が毎時0.5マイクロシーベルトです。屋根には、放射性物質を含んだものがこびりついてしまうんですね。除染の基準となる年1ミリシーベルトを換算すると毎時0.23マイクロシーベルトになりますが、その2倍になるんです。これが7月13日の今野さんの家の2階の放射線量でした。

速水:築9年だとまだまだ新しいし、9年住んで思い入れがある場所を壊すって、本人にとってもご家族にとっても非常に心の痛い問題だと思うんですが、今野さんはどうおっしゃられているんでしょうか。

青木: 7月13日に今野さんのところに伺ってインタビューをとってきたんですけれども、本当に目に涙を浮かべながら、私ももらい泣きしそうになりながらお話を伺いました。ふるさと喪失だということを彼は何度も繰り返し言っていました。家がなくなれば浪江に来た時の拠点もなくなります。手足をもがれる思いなのだろうと感じました。

速水:今野さんのご自宅はどんなところだったのでしょうか。

青木:今野さんはここは浪江のビバリーヒルズだったといいます。

速水:丘の上に建っていたんですね。

青木:そうですね。ちょっと新しめのお家が4軒建っていまして、小さいお子さんがそれぞれの家にいて、子供同士そこで一緒に遊ぶというような感じだったそうです。

速水:じゃあもう周囲の家も壊されることになっているわけですか。

青木:他の3軒は解体を申し込まれたのかどうかというのは分からないんですけれども、今野さんの家が初めに壊されて、今日は外壁がメリメリと壊されていく様をご覧になって、動画を撮影して送ってきてくれました。


原発事故は今なお続いている

速水:先ほどお仕事を探されているというお話も伺いましたが、生活は大変なんじゃないですか。

青木:奥様がパートで働いていらっしゃいます。あとは昔の貯金を食いつぶしています。よく賠償金をもらっているんだからいいだろうと、特に浪江の人たちは言われるんですけれども、彼がもらった賠償金は9年間住んで壊した家のローンで全部消えてしまいました。彼の家は二階から福島第一原発も見えて、それはご自身の職場だったわけなので、誇らしく思っていた部分もあるし、すごく気に入っていた理想の家だったそうなんです。


【今野寿美雄さんのお話】
やっぱり非常に寂しい思いですね。昔のことを思い出しますよ、楽しい時のことをね。今日は私の自宅が引き渡しということで来たんですけれども、私だけの話じゃなくて、この双葉郡に住んでいる人、その他帰還困難区域には飯館村とか南相馬市ありますけども、その人たちも同じ思いをした人が何千人かいるんですよ。戻れないんです、汚染がひどくて。戻るにも家がなくなって戻れなくなってしまうと。それが現実です。原発事故は終わっていない、今なお続いている事故であって、避難者が3万人とか4万人といいますが、いまなお10万人以上の人が避難生活を続けているんです。避難者としてカウントされないだけで実は10万人が相変わらず避難生活を続けている。これが原発事故の恐ろしさです。原発事故が起きた後のでたらめな帰還政策、政府国は国民を助けてくれないんだというのがよくわかりました。棄民政策ですからね。そうならないためにも原発に反対してください。止めてください。


速水:この音声は今野さんのお話ですが、これは最近伺った話なんでしょうか。

青木:7月13日にお伺いした時のものです。

速水:この中で避難者が3万人、4万人ではなくて実際は十万人以上いる、カウントされない人たちがいるんだよという話をされていましたが、漏れている部分ってどうしてあるんでしょうか。

青木:政府は避難者の数を定期的に発表しているんですけれども、いちばん最新の数字、7月9日現在で約43000人が東日本大震災の避難者数なんです。でも実際に各市町村が数えている避難者数と3万人以上違う。実際は3万人以上多いという指摘がされています。

速水:どうしてそういうズレが生じるでしょうか。

青木:政府の避難者の定義は、戻る意思があれば避難者であるというのが根本的なものになっているんですけれども、ただし意思の把握が困難な場合は住宅購入などをもって避難終了と整理してもよいという、曖昧な定義を作っちゃったんですね。福島県は人数が多いもんですから、今野さんのように復興公営住宅に移った人は意思確認をせずに自動的に避難者からカットしちゃうんです。後は住宅提供打ち切りというのが2017年の3月末から行われているんですけれども、政府と県が住宅提供を一方的に打ち切った人も、これも避難者数からカットしちゃうんです。なので実際の数と統計がどんどん乖離してきている。これが現実なんですね。

速水:なるほど、そういうからくりがあるんですね。2017年3月末に避難指示が解除されましたが、これがタイムリミットの一つで、そこに残ってた家、帰る意思がない方々が家の撤去をお願いする期限が来たわけなんですよね。これは国がお金を出して取り壊しの費用を出す時間的な制限というのが今年だったということですか。

青木:2018年3月までが申込期限で、今徐々に解体を進めているというところなんです。


戻らない理由

速水:まさにそれが今野さんの話だったわけですね。浪江の原発事故前の人口は21000人だったということですが、そのうち戻ってきている方ってどのくらいいるんでしょうか。

青木:6月末の数字までしか今発表されていないんですが、こちらで1000人ですね。避難者のうちの5%です。

速水:もう戻らないという人がほとんどということなわけですよね。その理由ってなんでなんでしょうか。

青木:政府や浪江町が定期的に調査をしていまして、一番新しい調査が昨年度のものです。帰らないという理由の最多は、「既に生活基盤が出来ているから」で49%です。次いで「医療環境に不安があるから」「避難先の方が生活利便性が高いから」そして「原子力発電所の安全性に不安があるから」と続きます。

速水:一つ一つお伺いしていこうと思うんですが、まず最初の理由というのは、もう仕事も新しい場所で見つけられていて、その中で戻っても仕事がないみたいなこともあるんですよね。

青木:そうですね。自営業をされていた方は、お客さんもそこにいたわけです。お客さんが帰ってこないわけですから、店を戻したところで商売が成り立たない。元の街に元の店を再開したお店もあったんですけれども、やっぱりお客さんがそんなに来なくて、やめてしまったというところも実際にあるんです。

速水:ある程度人口が戻ってきて、人が活動しているのであれば、戻ることもできるけれども、その保証もないまま自分たちだけ戻っても、生活するためのお金が稼げないのであれば、今の生活を続けようという人たちが大半になるなというのは、これはそうなりますよね。もう一つ医療施設に対する不安というのもあるんですか。

青木:病院が一軒も再開していないんです。高齢者の方々は避難生活の中で体を壊した方も多く、複数の病院に通っている方もいらっしゃいます。だけど浪江に戻ったところで行く病院がない。また、子育て中のお母さんにも話を聞いたんですが、戻りたいけれども子供が夜熱を出した時に行くところがないととても心配だからちょっと無理ですということをおっしゃっていました。子供が理由って多いんです。「生活基盤ができているから」というのも、子供を転校させたくないからとお答えになる方がとても多かったですね。つまり福島から一回転校してきて、ようやく馴染んだのにまた転校するのかと。子供にも負担をかけたくないからとお答えになった方も多かったです。

速水:9年というのはつまりそういう時間だということですよね。その時生まれた子供はもう小学校3年生4年生になろうという時間が流れています。そして青木さんはずっと取材を続けていますが、おそらく取材する人たちも減っていますよね。TOKYO FM もずっと東北の状況を伝える番組というのをやっていたんですけれども、去年なくなりました。そして今まで取材に答えてくれた人達にも変化が起きているそうですね。


賠償金をもらってるからいいだろうと言う人もいるが

青木:避難者集会とか、国会でやってるのにも取材に行くんですけれども、新聞記者が全然来てないとかですね。避難者の方々も初めは実名、顔出しで喋ってくれていた方々が、徐々にもう名前をやめてくれ、顔はやめてくれというようになってきました。

速水:それはなぜなんでしょうか。今の自分たちの生活を知ってほしいという状況ではなくなっているんですか。

青木:いいえ。困っていて知ってほしいんですけれども、顔や名前をだすと、賠償金もらっていいんだからいいだろうって攻撃されるんですね。今野さんのように、賠償金は住めない家のローンで全部消えましたという人はたくさんいるんですけれども、そういう日常が伝わらずにお金をもらっているというイメージだけ伝わってしまって、揶揄されるのでもう名前と顔出さないでくれという方も多いです。

速水:日本各地でもその後様々な災害が起こっていますよね。震災だけではなく、豪雨であるとかも各地で起こっていて、今であれば熊本なんかも避難生活を続けている方がいらっしゃる中で、肩身が狭い思いをすることが福島の避難民の方々増えているということもあるんですよね。

青木:豪雨ですとか地震なんかがあると、みんな大変な思いをしているのに、あなたはまだ原発避難と言っているのかと言われるようで、口に出せないということをよく聞きます。

速水:そんな中、新型コロナウイルスの状況なんかも避難者たちに影響を及ぼしているそうですね。

青木:そうですね。元々正社員で勤めていた方々が避難により非正規しか仕事を得られなくなったというケースは多いのですが、ご存知の通り、コロナは非正規の方々を直撃しました。彼らが職を失い、パートを失い、今求職中という方が多いです。私が取材している方々はお母さんと子供だけ避難して、お父さんは福島で働いていますという人も多いんですけれども、ある人は、福島の夫の仕事が休業要請の対象になってしまってお父さんのボーナスはゼロになってしまったと。これで子供の学費が払えれるのか心配だということも言っていました。

速水:これはまだまだお伝えしなきゃいけないこと、これからも取材しなきゃいけないことがたくさんあると思いますが、最後に何か一言いただけますでしょうか。

青木:自然災害と人災とで人の心の回復具合が違うという論文が出ています。今回の原発事故というのは人災の側面がとても大きいですね。ですので心の回復がとても遅れています。遅れているどころか高止まりしている状況です。首都圏の避難者の方々に対して、毎年調査を行っている団体が行った最新の調査では、平常時の日本人の平均の抑うつ不安が強い割合というのが3%なんですけれども、首都圏の避難者の方は6倍の18%だったんですね。その状況がずっと続いているんです。

速水:それはその後の対処次第でそういう方々を減らすことが出来たはずというところもあるんですかね。

青木:そうですね。住宅提供が打ち切られたというのが大きいです。

速水:なるほど、それは大きいかもしれません。今日は青木美希さんのリポートでした。青木さんありがとうございました。

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