熊本の水害と治水計画

2020年8月31日Slow News Report



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速水:Slow News Report今日は豪雨災害から2ヶ月が経過した熊本からのリポート。熊本日々新聞の高宗亮輔さんとお送りします。まずは豪雨災害の今日までの状況を伝えていただいてよろしいでしょうか。

高宗:これまでの状況としましては、熊本県の南部を中心に6市町村で65人が亡くなっています。今現在も二人が行方不明です。避難者の数は7月12日がピークで、28市町村の2512人が避難をしていましたが、28日の午後6時時点で8市町村の1063人と、半分以下にまで減っています。一方で被災した住宅に発行する罹災証明なんですが、これは9割以上の6337件が8月30日現在で発行されていまして、熊本地震の時と比べますと発行のスピードは早くなっているのかなと思います。

速水:ピークに比べて半数以下とはいえ、まだまだ1000人以上の方々が避難されているということなんですが、高宗さんは実際に現場に足を運んで、この災害をめぐって“想定外”ということを感じたそうですね。


2つの想定外

高宗:防災面に関して、まず二つ想定外があったと感じております。一つは熊本県南部の芦北町女島という地区と伏木氏という地区なんですが、ここの地区では計3人が土砂崩れで亡くなっています。ここの地区には熊本県が土砂崩れの対策事業としてコンクリート擁壁という、台形型の堤防のようなものを山と住宅の間に設置していたんですが、土砂崩れの土砂がその堤防を乗り越えて流れ込み、住民の方が亡くなったという部分で想定外が一つ起きたと思っております。やはり、土砂崩れの規模に対して、結果的にではあるんですが、擁壁が小さいなと、非常に心もとないなという印象は受けました。

速水:専門家の見解などではこの擁壁の問題点というのは指摘されたりしているんでしょうか。

高宗:土木の専門家の方がおっしゃっていたのは、近年は想定を超える豪雨が起きているので、こういうコンクリート擁壁、防止装置についても基準をまず見直した方がいい。更に土木というのは今まで完璧な対策というのは目指してきたんですが、もうそれは無理。科学者としてもやはりそこは謙虚にならざるを得ない。大雨が降りそうな時はまず逃げるということを頭においてほしいということでした。

速水:予算だって無尽蔵にあるわけではないので、とにかく大きいものを作って対策しましょうといっても、その想定を超えるものが来てしまうわけだから、いたちごっこになってしまっても難しい面がありますよね。もう一つの想定外はどんなことでしょうか。

高宗:もう一つの現場は、今回氾濫した球磨川沿いの集落なんですが、八代市坂本町の西鎌瀬という地区です。この地区は堤防で集落が囲まれているようなイメージなんですが、この堤防の一部分に左右に開閉する鉄製のゲートが取り付けられているんですね。普段は堤防の中と外の住民の方が行き来する関係で解放されている状況になっています。ここは国土交通省が管理をしているんですが、この集落の横を流れている球磨川の水位が上がってきた時は現場に職員が行ってゲートを閉めるということになっています。そして実際に水位が上がってきたものですから、7月4日未明に地元の住民の方が「ここのゲートから水が流れ込んで来たら大変なことになりますから締めてください」ということを言ったんです。しかし職員の方は結局現場には到達できませんでした。そこに到達するまでの国道が既にもう寸断されていまして、そこは行政の側の想定外ということになろうかと思います。

速水:なるほど。この西鎌瀬の場合は、もしゲートが閉まっていたらもうちょっと被害の状況も変わっていたかもしれないんですか。

高宗:そうですね住民の66歳の男性の方に話を聞いているんですが、その方は96歳のお母さんを背負って逃げた時には、ゲートを通じて水が流れ込んできていて、腰まで水に浸かりながらお母さんを背負って逃げたそうです。これは間一髪だったということで、非常に行政に対する不満というのをその時おっしゃっておられました。

速水:行政の方も事前にそれが予測できていれば想定外ということにはならないわけですから、想定外のことにどう対処するかって語義矛盾にもなってくる部分があって、一方的には責められないところありますよね。

高宗:今後行政と住民の方で対話を密にしていくといいますか、今後どうしていくかというお話しをお互いされていくのがまずは一歩なのかなと感じております。


地震からの復興中での豪雨災害

速水:メッセージも来ているんですが「益城町、南阿蘇村など熊本地震でただでさえ町の復興に勤しんでいる中での今回の豪雨災害、水害に対する課題もそうですが災害続きによって住民が熊本から去ってしまうことも心配されますね」 というメッセージもいただいています。4年前の地震があり、そして豪雨災害という、立て続けの災害を当事者としても見てこられたわけですよね。

高宗:私も2016年の熊本地震の時は熊本市におりまして、震度6強を経験しました。当時ビジネスホテルに泊まってたんですが、揺れでベッドから投げ出された後、緊急地震速報が鳴っているような、そういう状況でした。非常に自然の猛威というものを目の当たりにしました。

速水:地震に続けての豪雨災害ということで非常に心配されるところでもあるんですが、もう一つ想定外の話、付け加えるテーマがあると思います。ダムの建設計画が12年前に白紙撤回されたという経緯があったそうですが、この話もまさに、今となってみると…という部分ありますよね。


ダムの建設計画が中止されていた

高宗:今回氾濫した球磨川の中で一番大きな流域面積を持っている支流に川辺川というものがあります。この川辺川にダムを造る建設計画が半世紀以上前に持ち上がっておりまして、そこからいろんな議論があって、2008年に熊本県の現在の蒲島郁夫知事が、「球磨川は地域の宝である」としてこの建設計画を白紙撤回しました。その後はダムを選択肢としない治水というものを議論している中で今回の水害が起きています。

速水:おそらく当時はダムをやめて自然環境を大事にするということで非常に支持もされたんじゃないかなと思うんですが。

高宗:そうですね。川辺川ダムの恩恵をいちばん受けるといわれている自治体の市長と村長がまず反対に回り、それに加えて流域の住民の方8割以上が反対の立場をとられたといったことが知事の決断を後押ししたと考えられています。

速水:ただ、今は当時とは違う意見出てきますよね。

高宗:出てきてますね。ダムによらない治水というものを追求する流域の市町村長と知事、国土交通省の会議が去年まであったんですが、その会議の場で地元の市町村長からは「災害が多発しているが本当に間に合うのか」という声が上がっていました。ダムによらない治水というのは数十年から200年ほどかかるという壮大な計画だったものですから、かなり心配の声が当時から上がっていたというのは事実ですね。

速水:なるほど。想定をしていなかった豪雨に対してどうコストをかけ対策していくのか、行政もそこに対しての民意の部分も課題になってくる部分ありますね。

高宗:そうですね。蒲島知事はすでに川辺川ダム建設も今後の治水対策の選択肢のひとつだということは明言しております。もちろん建設をすると言っているわけではないんですが、非常に微妙な問題なので、その辺の議論がどのように推移していくのかというのは大いに注目される点であろうと思います。


コロナ禍と猛暑でのボランティア

速水:一方で、もう一つ想定外ということで言うと、コロナウイルス対策としてボランティアを集められないという事態にもなっていますが、高宗さんはボランティアに参加されたそうですね。

高宗:私も2度ほど参加しました。コロナ対策のためにマスクをしないといけないという状況でした。非常に熊本は暑いので、30°を超えるような状況でマスクをしながら県内の方が作業をされていて、休みの日に会社員の方とかもいらっしゃってたんですが、頭の下がる思いで一緒に作業させてもらいました。

速水:どういう作業の時にマスクをしていると辛いですか。

高宗:屋外で作業するときは全部辛いんですが、例えば土嚢の袋に土砂を詰める時ですとか、倉庫の中の濁流まみれになった荷物を撤去する時とかですね。基本的に作業は屋外なので、当然クーラーとかありませんので、どの作業でもだいぶしんどいなという感じはあります。

速水:現状も、人手は不足しているけれども県外からのボランティア参加は受け付けていないということですか。

高宗:そうですね。コロナの影響でなかなか難しい2ヶ月が続いたのかなという風に思います。

速水:まだまだ他にも課題いっぱいあると思うんですが、最後に生活再建のために必要なポイントを挙げていただいてよろしいでしょうか。

高宗:ちょうど今日、熊本県の災害対策本部というところで各自治体の復興ロードマップのようなものが示されたんですが、電気、ガス、水道、道路、災害廃棄物の撤去などについて見通しを示していらっしゃいました。やっぱり時間がかかるものだと来年の1月以降といったものが結構見受けられます。復興が進むに従って報道の量というのは必然的に減っていくかもしれないんですが、なかなか被災前の状況になるのは時間がかかるのかなといった状況です。

速水:ツイッターなんかでもメッセージがたくさん来ているのでいくつか読んでみたいと思います「コンクリートから人へも一度考え直さないと」という意見も来ていますが、まさにそういう「コンクリートから人へ」ということが言われた後にこういう災害が増えている部分っていかんともしがたい部分ありますよね。

高宗:今一度、現状をよく見てみる必要があるのかなと思いますね。

速水:もう1通読んでみたいと思います「危険な地域からは移住してもらえばいい的な意見はよく見るし私もそう思う部分もあるのだけど、どうしてもその地域特有の水の恩恵で生活をしてきた住民たちは危険も含めて共存してきた長年の文化がありますよね。“危険だから住むな”だけで動かすのは乱暴だ」 というご意見も頂いていますが、確かに流域に住んでいる人達は水の恩恵とともに生きてきた部分があるので、そこから移住しろとはなかなか言えませんよね。

高宗:ある男性の方が言っていたことが非常に印象的だったんですが、「今回は俺たちが油断していた」と。自然の恩恵を受けるだけじゃなくて、こういう災害というのもつきものだということは住民の方はどこか頭に入れながら生活していらっしゃるのかなと思いました。

速水:高宗さんは蒲島知事にダムの件で質問をされましたよね。

高宗:そうですね。昨年、流域の市町村長との会議で「全国で災害が起こっているけど大丈夫か?」いうことを聞かれたことを背景に私が知事に質問をしました。今回のような豪雨災害が起こるということを知事自身は想定されてたんですか?と聞いたところ、はっきりと想定していなかったと答えていらっしゃいます。

速水:今は台風なんかも近づいていて心配な部分もありますが、今日はどうもありがとうございました。今夜は熊本日々新聞の高宗亮輔さんに伺いました。

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