ネットに芽吹いた新たなメディアの可能性を考える

2020年9月15日Slow News Report


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速水:Slow News Report 今日のテーマは「ネットに芽吹いた新たなメディアの可能性を考える」ということで、ネットメディアChoose Life Projectの代表をされている佐治洋さんにお越しいただきました。Choose Life Project はYouTube チャンネルからの配信を中心にしたメディアで、テレビの報道番組、ドキュメンタリーなどを制作していた有志で始めた、非常に注目されている映像プロジェクトということなんですが、現在チャンネル登録数39100人ということで、これはまだ途上という感じですか。

Choose Life Projectはクラウドファンディングで3千万円以上を集めた注目のメディア

佐治:そうですね。立ち上げたのは2016年7月なんですけれども、10万人の登録者を目指そうとメンバーで頑張ってきているところですので、まだその途上ですね。

速水:一方で先週終了したクラウドファンディングは非常に注目され、当初設定した金額をさらにオーバーして再設定された金額も達成ということなんですが。最終的に金額はいくらになったんでしょうか。

佐治:最終的に3147万8500円になりました。金額もさることながら、ご支援していただいた方々の数が4314人となっていまして、それは本当に非常にありがたいと思っています。

速水:このChoose Life Projectはどういうメディアなのか、まず今やられている活動の概要を説明して頂いていいでしょうか。

佐治:国会ウォッチングといって、今年の2月から国会のやり取りの動画を2分20秒に編集して、これは Twitter の制限尺なんですけれども、それを配信していくというスタイルでやっています。あとはインタビューものですね。「コロナ時代を生きるために」という、こちらで議題設定をしたものについて、識者や文化人の方々にインタビューした動画を配信したり、ここ最近では生配信で番組を作っているという状況です。

速水:いろんなコンテンツの中で特に反響が大きかったものは何でしょうか。

佐治:いちばん反響が大きかった、視聴回数が多かったのは、今年7月の東京都知事選です。小池百合子さんが現職でありながらご出演していただいて、候補者の討論会をさせていただいたんですけれども、やっぱり非常に反響がありました。

速水:小池さんには直接「こういうメディアをやってるので来てください」とオファーを出したんですか。

佐治:そうですね。基本的には正面から事務所に企画書を送って、是非出演していただきたいという形です。何も奇をてらったことをしたわけではなくて、正面からオファーを出したということですね。

速水:即オッケーだったんですか。

速水:いえいえ、やっぱり現職ですのでお忙しいというところもあって、小池さんの日程に合わせますという形でオファーを出したのですが、本当に配信の3日前くらいに「3日後だったらいいよ」みたいな形でお返事をいただきました。それが決まってから他の候補者の方々にもお声掛けをして、討論会という形になりました。


投票率が低いことに危機感を持ったのがきっかけだった

速水:佐治さんがChoose Life Projectを立ち上げたのは2016年というお話でしたが、当時はテレビの報道のディレクターだった佐治さんがこのメディアを立ち上げたきっかけというのは何だったんでしょうか。

佐治:2015年9月に安保法制の問題が連日メディアで報道されていたと思うんですけれども、実際自分も伝える側にいながら、憲法解釈というところで一線を越えてきた政権というのを初めて目の当たりにして、メディアとして何ができるかということを考えました。あのときは民主主義とは何かということが問われていた時期だったと思うんですけれども、一記者、一ディレクターとして何ができるかということを考えていました。そして、その翌年に参議院選があり、投票率がかなり低いという問題がありました。自民党の得票率が3割で大きな議席数を保っている状況もあり、投票に行かない人たちが多くいる中で国の未来が決まっていくということに対して、やっぱりもうちょっと問題意識を持ってほしいなというところが最初の始まりですね。

速水:そこがチューズ ライフというネーミングのもとにもらっているということですか。

佐治:おっしゃる通りです。やっぱり自分たちの未来だったり、さらに自分たちの子供とか孫とか次の世代に対しての責任があるはずだと思っていて、投票というのは今の自分たちの生活はもちろんあると思うんですけれども、次の世代につなげていくために、与党だろうと野党だろうと選んだ上で責任をとっていくということは重要だと思って、そのネーミングにしました。

速水:個々の人たちにいかに情報を届けるかというメディアの本質の部分に立ち返ってということだと思うんですが、何人くらいの規模でやられているんですか。

佐治:僕も2016年の時はテレビの仕事をしながらやっていたのですが、現役のテレビディレクターだったり、映画のドキュメンタリーを作られている方とか、デザインをやられている方など、基本コアなメンバーで4~5人くらいです。それでテーマごとに取材の過程で知った記者さんの方とか、ディレクターの方とかにその都度協力してもらっているという形です。

速水:じゃあ立ち上げ当時から、同じような疑問を持っていた人たちという横の繋がりで立ち上げた部分が大きいですか。

佐治:そうですね。やっぱりメディアを横断していこうということをいろんなディレクターさんや記者の方とも2015年の9月以降色々と話してきたところもあったので、そういったところで繋がった人たちが基本的にネットワークとしてあります。


出演者の男女比を同じにするのがルール

速水:この番組的には浜田敬子さんがよく関わっているし、伊藤詩織さんもこの番組のレギュラーなんですけれども、他にもいろんな知り合い、例えば津田大介君も出ていたりするので見てたりするんですけど、番組の作り方としてこれまでのテレビと違うところとして、コメンテーターの男女比もルールとして決めているそうですね。

佐治:決めていることってそんなに数は少ないんですけれども、そのうちの一つが出演者の数を男女比同じにしようということなんです。実は20代の若いメンバーから、識者インタビューとかどうしても男性が中心になっている、ましてや政治家のインタビューになるとほとんど男性みたいになってしまうと。

速水:まあ政治家自身が男性が多いですからね。

佐治:やっぱりそれは今の社会構造がそうであるから仕方ない部分はあるし、僕も報道にいた人間なので、聞くべき時に聞くべき人に聞くという本来の報道のスタンスからすれば最初「えっ?」と思ったんですけど、確かにそうだなと思ったところがありました。そして「自分たちで社会の空気感を変えていかなきゃいつまでたっても変わりませんよ」という風に言われて、それ以降は男女比を同じにするということを原則にしています。

速水:その状況でしばらくやってみてどうでしょう、手応えってありますか。

佐治:女性が多いということに対して非常に良いご意見をいただきますし、やっぱり画面上に映るバランスというか、テレビなんかで政治家の方とかパッと男性しかいないみたいな状況を見ると、メンバーの中でもやっぱりチューズいいよね、みたいな感じで話が盛り上がったりします。


検察庁法改正案のときに注目を集めるようになった

速水:最初から思っていた通りにうまくアクセスを集める事は出来たんでしょうか。

佐治:テレビというのは、放送すれば皆さん見てくれるメディアではあるんですけど、その感覚でやった時に、是枝裕和監督が一番最初の動画なんですが、 Facebook で3いいねみたいな…。最初はそういう状況から始まったので、やっぱりネットメディアとテレビの違いというのはすごく感じてきました。

速水:そういうところから、「これはいける」となったタイミングってあったんですか。

佐治:正直、やっている最中は全くなくて、テレビの仕事を辞める時も不安しかなかったんですけども、やっぱり検察庁法改正案の時ですよね。ネット上の声と連動していく形でかなり見ていただく方が多くなり、登録者数もどんどん増えていきました。一つのターニングポイントになったのが5月の検察庁法改正案のタイミングでした。

速水:検察庁法案の時は何か番組を独自企画でやられたんですか。

佐治:実は 5月の検察庁法改正案までは生配信というのはあまりやっていなくて、国会の動画2分20秒というものをネット上であげていたのですが、かなり反響があって、ツイッター上で再生数が112万回になったタイミングで生配信に切り替え、そこから毎日のように配信をしました。

速水:ずっと一つのことを定点で追いかけていって、それが実を結ぶというか、やってきたかいがあったなということって、やっぱり大きかったんじゃないですか。

佐治:そうですね、はい。

速水:先ほどクラウドファンディングで4300人を超える支援者から、目標金額を大幅に超える3147万8500円の寄付が寄せられたという話を取り上げましたが、やっぱりこれは当初思っていた金額、人数よりも多かったんですか。

佐治:当初設定していたのが800万円でしたが、最初はこれでも到達できるかなという話をメンバーとしていたので、ここまで反響があったのは非常に嬉しい思いがあるのと同時に非常に身が引き締まるというか、これからがスタートラインだなという風には思っています。


Choose Life Projectは市民によるサポートで運営していく

速水:メディアを運営する上で収入基盤をどこにおくって非常に重要な問題だと思うんですが、Choose Life Projectはこのクラウドファンディングであるとか、市民の寄付による運営というのを目指しているそうですね。

佐治:クラウドファンディング始めるにあたって3つほど理念を書かせていただいたうちの一つが市民スポンサー型のメディアということなんです。まあスポンサーという言い方はおかしな表現なんですけれども、いわゆるマンスリーサポーター型の収入を考えているところです。

速水:テレビがそうですが、企業の広告モデルや、新聞なんかのような月々3000円みたいな有料メディアであるとか、いくつか収益の手法ってあると思うんですが、他の選択肢も考えた上で選ばれたわけですよね。

佐治:そこは非常に迷ったところもありますし、ある種の挑戦でもあると思っています。やっぱり視聴率、発行部数、視聴回数とかで収益を得るとなると、どうしても「何を伝えていくか」というよりも「どう伝えていくか」というテクニカルな部分で見せ方を考えてしまて、軸がぶれてしまうと感じるんです。そうはならないためにはどうしたらいいかということを考えた結果、マンスリーサポーター型のメディアということを今主眼に置いています。

速水:一通メッセージを読みたいと思います「今の報道、特にテレビはわかりやすさよりも主張を忖度というものがより強くなってきているような印象があります。さらに視聴率だけを追い求めるあまり、撮影する必要のないものを撮影しそれを放送するケースも多すぎるのではないかと感じます。また自ら取材に行かず第三者が撮影した動画を簡単に使ったり、タレントの放送番組での発言を主観だけで面白かったり記事にするというケースも目立ち、思わず目を伏せてしまいたくなることも多々あります。その中で、それではいけないと立ち上がる方がいるということは、報道のレベルが世界で低い位置にある日本において重要なことだと思います報道に希望を持っていいんだな」というメッセージ頂いています。元々佐治さんはテレビの制作者だったわけですが。テレビの報道に不満があったから飛び出したということなんですか。

佐治:いや、むしろ逆でテレビと可能性を信じまくっている人間なんですね。

速水:今でもそうなんですか。

佐治:そうですね。ラジオもそうですけれども、やっぱりチャンネルを変えたら右とか左とか関係なく、「そういう考えもあるんだ」と知ることができる場所として、テレビや放送の役割ってあると思うんですけれども、そういう意味ではやっぱり非常に可能性があるメディアだととらえています。


“どう伝えるか”ではなく、何を伝えるか

速水:先ほどChoose Life Projectは市民の寄付による運営を重視していると伺いましたが、お金をもらっている人たちに忖度をしてしまうかどうかって、非常に報道メディアの重要なところだと思うんです。みんなが求めているものとは違うものを報道しなきゃいけない事ってあると思うんですけど、そういうことってどうでしょう。ひょっとしたら今後あるかもしれないことだと思うんですが。

佐治:そこが本当に挑戦ですよね。今テレビは視聴率のために、「この層にどう伝えるか」というところに注力しているんですけれども、本来「何を伝えていくか」という部分が報道の中でいちばん大切なことだと思っています。大きな声の人たちを大きく伝えるのではなくて、見られなくても小さい声をしっかりとらえて伝えていくということ。これは是枝さんがよくおっしゃっていることですけれども、「拡声器じゃなくて聴診器であれ」という言葉は僕の心の中にとどめている言葉なんです。

速水:最後にこれからのChoose Life Projectでやろうとしていることを伺えますでしょうか。

佐治:クラウドファンディングで目標額を大きく超えるご支援をどう使わせて頂くか話し合った結果、5つのコンテンツの制作を掲げて、今まさにメンバーと話をしているところです。まず年内いっぱいかけて準備をして、年明けくらいにニュース解説番組の制作だったり、Choose大学といって、「政治とは何か」みたいな大きなテーマの中で若手の研究者に講義をしてもらうということを考えています。また、Choose寺子屋という、これはコロナが収束すればですが、対面型の勉強会みたいなものであるとか、僕たちでプロデュースするドキュメンタリー番組の制作、あとはChoose Biblioという本や作家の方の紹介の番組をこれから準備して作っていきたいなと思っています。

速水:この番組でもおなじみの伊藤詩織さん浜田敬子さんも関わっていくとなると、ぜひ今後も注目させていただきたいと思います。今日はChoose Life Projectの代表佐治洋さんにお越し頂きました。ありがとうございました。