メディア不信と記者会見問題

2020年9月17日Slow News Report


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速水:Slow News Report今日は浜田敬子さんとお送りしています。今夜のテーマは「メディア不信と記者会見問題」です。リスナーの方々からメッセージを募集をしながらやっていますが、一つ読みたいと思います。「記者会見でいつもしつこいくらい質問を続けて、官房長官時代の天敵といわれた望月記者は菅総理になっても天敵になるのかな。ちょっと興味あります」というメッセージ頂きました。まさに記者会見問題の本質がその辺にありそうです。今日の「メディア不信と記者会見問題」は浜田さんの持ち込み企画なんですが、どうしてこの問題を取り上げたんでしょうか。


記者と権力との関係性

浜田:先日の安倍首相の退任会見を見ていて、正直記者クラブの記者の質問が緩いなと、もうちょっと厳しい質問をすればいいのにと思ってたんですが、 Facebook なんかで私の知り合いが何人か「安倍総理に対するご苦労様とかお疲れ様でしたとか慰労する言葉がなかった」というようなことを書いてたんですね。その人達は別に安倍総理をすごく支持しているわけではないんだけれども、これを見たときに記者と政権、権力側の関係について私たちメディアが思っていることと社会が思っていることが変質してきているんじゃないかと感じたんです。考えてみると、ここ数ヶ月で記者会見の問題がこれほど話題になったことはありませんでしたよね。例えば8月に広島で安倍総理が会見をしているんですけれども、それまで記者クラブ側が会見しろと言っても一ヶ月半会見していなかった。それが久しぶりにやったと思ったら15分で打ち切って、朝日新聞の記者がまだ質問があると言ったけれどもできなかった事件がありました。もっと言えば、2月の下旬の記者会見で江川紹子さんが、まだ質問がありますと言ったにも関わらず打ち切られた。あの打ち切られている様子は全部ネットで配信されていて、その後十分な時間を確保したオープンな首相の記者会見を求めますというような署名運動が広がって、これが一週間で3万近く集めたんですよね。その前にも賭け麻雀問題などもあって、記者と情報ソースとのあり方みたいなものに一般の人も興味を持ったのかなと思ったんですね。

速水:会見の時に、駆け引きでねぎらったりもしながら追求もするみたいなモードであれば納得もあるんですが、その中で追及の声がほぼなかったですよね。後半ちょっとありましたかね。

浜田:後半に西日本新聞の記者の人がモリカケ問題についてはもちろん質問はしたんですね。

速水:まあおそらく答えないだろうなというのは分かっていて、でも聞かなきゃいけない。

浜田:もちろんあれは聞かなきゃいけないと思いますね。速水さんがさっきおっしゃったように、駆け引きの中でのねぎらいの言葉というものももしかして必要かもしれないんですけれども、そもそもメディアって権力に対しては監視する役割なんですよね。だからそこには緊張関係があって、やはり私たちから見れば厳しい質問をするのは当たり前で、それをしないメディアはメディアの価値がないと思っています。でも今それが、「テレビでは政治に対して批評的なことばかり言うので政治に関心がなくなってしまった」というような若い人たちなんかも増えてきている。その感想の方が私たちメディアの人間からすると、ちょっとショックなんですよね。メディアに対する見方がこれほど変わったのかと。


トランプ大統領の登場とメディア不信

速水:ちょっと今の話を解説をすると、野党は批判をするのが仕事なわけですよね。今非常に、特に若い世代の間で野党の人気が無くなっている。やっぱりポジティブ前向きということが重視されているような風潮の中で、批判ばかりしている人=野党と思われていて人気が落ちてるわけですね。これ同じことがおそらくメディアに対しても起きている。たまにはポジティブなことも言えばいいのにと思われている部分があるということだと思うんですよね。それは分からなくもなくて、権力を批判する立場がメディアだというと、メディア自体も批判されるべき権威になっちゃっているじゃないかと。特に SNS なんかでそれが批判されているなという気はします。

浜田:メディアに対する不信というものが 非常に大きくなったんだと思います。元々メディア不信というのは、追求が甘いからメディア不信になったんじゃないかと思ったら、むしろ逆で追求しすぎるというか、いじめすぎるからなんだよという人もいるわけですよね。

速水:強いものがメディアに見えて、政治家が弱者に見えている可能性があるということですよね。

浜田:あとやっぱり大きかったのは、トランプ大統領の登場だと思っています。メディアというのは取材をして“ファクト”を書くものだったわけですよね。それがトランプ大統領によってメディアが書くのは“フェイクニュース”と決めつけられてしまったことで、トランプ支持者はメディアというのはいつも嘘をつくんだと考え、その前提が崩れてしまったんですね。メディアは嘘を書いていると決めつけられるというこの状況が、私は日本にも少なからず影響していると思っています。

速水:トランプ人気って、何かを敵にしてわかりやすいメッセージを伝えて人気を取るということだとすると、かつては普通にエリート批判だったわけですよね。それが今、いちばんの敵はマスメディアになっているからトランプが出てきたと。

浜田:ある種のエスタブリッシュメントに今メディアがなったということですよね。

速水:特に朝日新聞とかそういうところが槍玉になっている部分ってある気がするんですよね。最初の話に戻りますが、この問題を語る上でいくつかポイントがあると思うんですが、事前質問についてメッセージがいくつか来ています。事前に質問を聞いておくという問題、これ呼び方があるんですか。


台本通りの記者会見

浜田:“問取り”と言います。元々は官僚が国会で質問をする議員の人たちに何を聞くのかを取りに行くことを質問取りといって、それを問取りと言っていました。今は記者クラブの中でも、例えば総理会見だったり、官房長官会見だったり、大臣会見もそうだと思うんですけれども、広報室長みたいな人達が記者クラブにふらっと来て、「今日何を聞くんですか?」みたいな感じで聞くらしいんですね。安倍前総理の会見を見ていたら分かると思うんですけれども、最初に幹事社が質問して、その後の質問でも原稿を読んでいたりする事があるんですよ。見ている人はなぜ質問の答えも全部用意されているんだろうと思いますよね。2月の会見でそれが話題になった時に、ある官邸記者が暴露したんです。幹事社の質問は問取りすると。それ以外の会社に対しても官邸の報道室が質問を取りにやってくる。言わない会社やはぐらかす会社もあるけれども、全部教える会社もあるということなんです。私が聞いたところによると、それは総理会見だけじゃなくて各省庁の大臣の会見でも事前に質問を取りに来るし、都知事会見も質問を事前に出してくれと言われるそうです。

速水:どうなんでしょう。浜田さんが週刊誌の取材をしていた時と現在では違っているんですか。

浜田:私も今回この番組に出る前に取材をしたんですけれども、「報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか」「政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す」という2冊の本を書いた朝日新聞の政治部記者で新聞労連の委員長やっていた南彰さんに、何でこんなに空気が変わったのかということを聞きました。その一つは政治家側が直接発信できるようになったということ。安倍政権が誕生した時期と SNS が発展した時期ってちょうど重なっていて、特に安倍さんなんかはツイッターを使うことをかなり意識してやっていましたよね。政治家は「メディアを介さなくても自分のメッセージは伝えられるんだ」ということをかなり意識した時期なんですよね。それまで総理というのは均等にメディアの取材に応じるという不文律があったのが、メディアを選ぶようになった。例えば産経新聞にいちばんたくさん出ているんですけれども、あとは直接自分でSNSを使ってメッセージを発信するようになりました。トランプ大統領もツイッターを使いますよね。だからメディアは別にいらないじゃないか、みたいな感じも出てきたんだと思うんですね。

速水:一方で、今記者会見はずっとAbemaTV とかで流していて、例えば神保哲生さん、江川紹子さんの質問をSNS でもみんな期待して待っているところがあって、神保さん何年ぶりかに質問したみたいなことも話題になるんですよ。覚えているのは 「PCR 検査を首相が増やすと言っているのに、これは努力しても増やせないんですか?」という質問をして、当時の総理が「自分は努力している」と答えたわけですが、「でもそれが届いていないということはガバナンス不足ですよね」という結論を導き出す質問をしたんです。そういうように、ネットの良し悪しということで言うと、用意されていない質問をする人たちの会見も見れるということですよね。

浜田:あとちゃんと二の矢三の矢用意して追求していく質問というのも見れる。逆に言えばそれをしない記者は誰かということも見れるんです。今“台本営発表”という言葉があるんですけれども、先ほど言った問取りによって事前に質問を取られていて、シナリオができているところをずっとネットで見ていると、「なんだ、他の新聞記者は」という不信感にもつながっていますよね。


記者が分断されている

速水:“二の矢三の矢”という話ですが、CNNなんかを見ていると、トランプが「お前はフェイク」と言って質問を遮るという、アジア系の女性のとき話題になりましたけれども、それを受けて後ろの記者がその質問をさらに続けるというのが二の矢三の矢ですよね。あれはあまり日本の会見で見たことないですよね。

浜田:ないですね。やっぱり記者クラブ側が分断されているという印象を受けます。トランプ大統領の会見でも記者クラブが一致団結して、例えば CNNの記者に対する暴言の時なんかも他の記者が加勢するわけですよ。ちゃんとその記者を応援するというか、代わって質問する。そういうことが見えてくるんですけれども、日本の記者クラブで、例えば政治家側から強く言われて立ち止まってしまった時、それをフォローするような質問が他の記者から出てこないというのが、記者側も分断されている印象を受けますよね。

速水:事前に質問を用意して、それに対して答えるという上でも、その場で質問をしたら答えざるを得ないんだから、事前に用意していない質問をその場で聞くことも丁々発止あればいいと思うんですけれども、そうならない。先ほど江川さんや神保さんはそうではないという話を取り上げましたが、どうしてメディア同士は二の矢三の矢をつながないんでしょうか。

浜田:一つは、記者会見の場が本当の取材の場になっていないということ。江川さんや神保さんはそこでしか聞けないから全て自分の考え方をぶつけますよね。でも番記者と言われるような記者たちは、例えばオフレコ懇談というのがあるわけですね。官房長官の会見であれば、その場では大事なことは聞かずに、むしろ大事なことは夜のオフレコの場で聞くと。その場できついことを聞いてしまうとオフレコの場に呼ばれなかったりとかすると、結局そこでは表向きの質問をする。だから見ている側からすれば、「なんだこの茶番は」というようなことになってしまう。大事なのは表の場でやるということだと思うんですよ。

速水:政治家ももちろん自分が発信したい内容というのがあって、でも記者会見では公式になっちゃうから言えない。だからちょっと付き合いがある記者に言うみたいなことがあると。ナベツネさんが言っていましたが、人気が出る前に政治家と仲良くなっておくことで情報取りをする。それが新聞記者の一つのやり方なんだみたいなことを言っていましたが、そういう個別に後で聞こうみたいなことがあるから、公式の場では問取り通りにしておこうということなんですね。

浜田:そうですね。もちろん手の内を見せないというのもあると思うんです。でも私は今回いろいろ話を聞いて思ったのは、やっぱり記者クラブ側が政権側に分断されている感じを受けるんです。情報が欲しい記者というのは多いので、情報を人質に取られるわけですね。そうすると東京新聞の望月さんのような厳しい質問をする記者を疎外していく。菅さんが官房長官時代に望月さんに質問を当てないとか、質問を妨害するみたいなことが言われましたけれども、そういう時に守らないということがあります。この間すごく印象的だったのは、菅さんが総裁選に出るという会見で望月さんは久々にそこの会見に出て厳しい質問をしていました。それに対して菅さんはそっけない答えをした時に記者の間から笑いが起きているんです。私はこれは許せないと思っていて、真っ当な質問をした記者に対して、それを嘲笑するのが記者の間から起きるというのは考えられないですよね。この記者たちはどっち側の味方なんだと。それは記者クラブの根深い問題だと思います。もう一つは先ほど速水さんがおっしゃったナベツネさんの例じゃないですけれども、本当のとくダネって何かということだと思うんですよ。一対一の取材でしか取れないこともあるとは思います。でもオフレコ懇談って1対1じゃなくて各社いるんですよ。夜に囲むわけです。そうなると子供を育てながらやっている女性記者はもうそこのインナーサークルには時間的に入れないわけです。そうすると政治部には女性はいらないという話になっていく。望月さんになぜ記者クラブでグイグイ質問するのかと聞いたら、お子さんがいて9時から6時までしか働けないから私は記者会見で勝負をすると言っていました。これはまっとうでフェアな考え方だと思いますね。

速水:まぁメディアをうまくコントロールすることに長けた政治家が出世していくというようなこともあるし、そこが持ちつ持たれつになってしまっていますよね。

浜田:1対1で、政治家の人間性も含めて信頼関係を結んで情報を取るというのはすごく大事なことだと思うんですけど、でもやっぱりコントロールされてはだめかなとは思いますね。

速水:ひとつ最近の問題で言うと賭けマージャン問題がありました。これは2つの問題を抱えているかなと思うんですが、ひとつは黒川元検事長とそこまでの関係性が記者としてフェアじゃないんじゃないかという問題、そして非常に近い関係の中で、何かを聞き出してニュースになるのであれば取材だったんだなと思うんですが、それが後に記事になっていないという問題もあるんです。あの賭けマージャン問題はどうご覧になりますか。

浜田:当局といわれるところや、政治家からの情報を取りたいために、みんな一生懸命夜討ち朝駆けをするわけです。麻雀したり、ご飯食べたり、飲みに行ったりとか。私たち女性記者は子供がいたりするとその競争には入れないわけですよね。なので長時間労働ができる男性記者がその競争をしていくということになるわけですが、でもその時に取る情報って何かというと、いわゆる“前打ち”というというとくダネなんですよ。例えば捜査情報だったら、逮捕されて発表されたら各社同着になるわけですね。だけどそれを1日か2日早く取るととくダネとして社内でも評価をされるので、より早く情報を取ろうとする。でも最近のニュースで、これは特ダネだ!というようなニュースって新聞から出てますか?例えば今公判中の河井夫妻の問題を一番最初に書いたのは週刊文春ですよね。この間、元週刊文春の編集長だった新谷さんとお話しする機会があって、これどうやって取ったのかと聞いたら、文春リークスに来たんだそうです。

速水:いわゆるタレコミ、告発ですね。

浜田:警察に言っても捜査してもらえるかどうかわからないから文春に来たということらしいんですけど、これ本来であれば朝日新聞とか NHK に来ていてもおかしくなかった。だけど朝日新聞や NHK よりも文春の方がちゃんと取材してくれるだろうというふうに選ばれたわけですよね。

速水:賭け麻雀問題も文春でしたし、まさに今週、菅さんのぐるなび系会社からの献金であるとか、横浜の IR の話であるとか、おそらく元から取材してるものもあるし、文春に情報が集まってくるようになっているということもある。これ新聞やテレビに関しては逆に信頼されなくなっているということですよね。この問題、話が尽きないんですが時間になってしまいました。この問題ちょっとまた改めて取り上げる必要があるかもしれません。今日は「メディア不信と記者会見問題」について浜田敬子さんと議論しました。

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