アップルとフォートナイトの全面戦争

2020年9月21日Slow News Report


 今すぐ聴く 


速水:Slow News Report 今日スタジオにお越しいただいたのはジャーナリストの西田宗千佳さんです。よろしくお願いします。今日はアップルの話でもあるんですが、アップルの新製品の発表イベントが先週あって、今は非常に西田さんのようなお仕事は大変な時期ですね。そこでは注目されていた iPhone は発表されませんでしたね。

西田:そうですね。 iPhone に関しては発売がまだあと数週間は遅れるということで、発表を分けたんじゃないかなと言われています。

速水:今発表もネットイベントなわけですけれども、ジャーナリストとしては楽になったんですか。

西田:移動は楽なんですけれども、結局アメリカとかヨーロッパの発表だと日本時間では夜中になるので、全て夜中に取材してそれを朝までにある程度記事をまとめたりしなきゃいけない。ほぼ昼夜逆転になるので、実は身体的には向こうに行ってた方が楽だったりするんですね。

速水:そんな西田さんに今日お伺いするのはアップルとフォートナイトの全面戦争の話です。まず軽く簡単に振り返ると、フォートナイトは世界中で3億5千万人のユーザーを抱えている人気ゲームです。PS 4でも Nintendo SWITCH でもできるしスマホでも PC でもできるマルチプラットフォームのゲームの代表なんですが、そのフォートナイトがApp StoreとグーグルのGoogle Play からダウンロードできなくなりました。それを巡って起きたフォートナイトとアップルの裁判が注目されていて、西田さんも追いかけていると思うんですが、来週9月28日に次の裁判が控えているというタイミングです。フォートナイトを運営している会社がエピックゲームズですけれども、何があってこういう裁判になっているのでしょうか。


30%の手数料は高すぎる?

西田:アップルであるとかグーグルはスマートフォンのアプリストアを経由して、例えばアプリを買ったらいくらというふうに決済をしているわけですよね。その決済機能を使うとだいたい全体の売上の30%をアップルもしくはグーグルに支払うこというルールになっています。別の方法で決済をしようと思ったら、例えばエピックゲームズ自身がストアを作って、自分のところで決済してくださいということもできなくはないんですね。でもルール上はアプリの中にアップル、グーグル以外の決済方法を入れることはNG になっているんです。ところがエピックゲームズは突然これを入れたんです。しかも30%は高いという話をした。 それで結果的にアップル、グーグルのルールを守らなかったということでアプリストアから排除されたんです。これは30%をとるであるとか、アプリの中から自社のストア以外を使わせないというのは独禁法に違反しているんじゃないかということで訴訟を起こしているということになるわけです

速水:エピックゲームズとしてはフォートナイトを他の所でダウンロードしてやってもらえばいいと思うんですが、そこでアップルに喧嘩を売ったということなんでしょうか。

西田:そうですね。エピックゲームズはそもそもいろんなところで30%取るというのは取りすぎだから交渉させてくれということで、パソコンの中でもSteam というところと揉めて自分たちのエピックゲームズストアというのを別に作ってビジネスを始めていたりするんです。ところがスマートフォンの場合には交渉の余地がないわけですよ。 iPhone の中ではアップルの App Store 以外は使えないというルールになっているので、ひとつしか選択肢がない。選択肢がないのはだめじゃないかということで今回は係争したというようなことになるわけですね。

速水:この手数料30%が問題のポイントの一つとしてあると思うんですが、西田さんはどう捉えていますか。

西田:とりすぎといえばとりすぎと言えると思います。例えば個人がアプリを配る時に、決済や顧客管理者は大変なので、これを全部アップルがやってくれるとなれば30%を取るのも OK だろうと思うんですね。ところがエピックゲームズのような大きいところだったら決済は自分でできるし、顧客管理も自分でできるわけですね。しかもアップルがエピックゲームズに便宜を図ってくれるわけでもない。だとするならば30%も取らないで、もっと低い料率で場所を使わせてくれてもいいんじゃないかという判断はあってもいいんじゃないかなと思います。

速水:スマホはみんなが生活の中で非常に当たり前に使っていて必需品になっている中で、App Store なんていうのはまあ公共の場所みたいになっているんですが、そこでの手数料30%をアップルが握っている以上、競合する者に対して圧力をかけられるじゃないかということですが、エピックゲームズ以外でも、例えばゲームやアプリを作っている企業、クリエイターにとってはなかなか立ち向かえる相手ではないですよね。


3億5千万人のユーザーがいるフォートナイトが巨人アップルに戦いを挑む

西田:そうですね。やはり相手が大きいので、訴訟をするとなると間違いなく長い期間かかります。そうすると、資本力がしっかりしたところでないと長期的な訴訟を戦えないというのは事実だと思うんですね。30%は高いとか、30%とるんだったらもうちょっとアップル、グーグルに働いてほしいという文句はみんなあるんだけれども、一方でじゃあ交渉をする余地が本当に十分あるかどうかと言うと足りないと言われている。そこでエピックゲームズは今3 億 5000万人フォートナイトのお客さんがいますし、いろんなところから出資も集めていて今一番お金がある状態だからこそ、訴訟に持ち込めたというところはあると思います。

速水:フォートナイトは3億5000万人のユーザーがいる非常に人気のあるゲームですが、フォートナイトがどういう存在なのか、ゲームといって単純に片付けられるようなものでもないんですよね。

西田:先ほどもお話が出たように、フォートナイトはいわゆるマルチプラットフォームで、どんなものでも遊べるゲームですが、実際問題としてプレーしている人の半分ぐらいはスマートフォン、もう半分はパソコンであるとか家庭用ゲーム機と言われています。しかもどのプラットフォームから遊んでも一緒に遊べるんですね。どんな風に遊ぶのかというと、簡単に言えば島があって、その島にみんなが入って撃ち合って相手を倒しあう、いわゆるバトルロワイアルなんですね。そこで勝った人は「すごいね」とを称えられるというゲームなんですけれども、ゲーム自体をプレイするのは無料です。自分自身がどれだけ目立ったか、みたいなところがひとつポイントになっているゲームですね。

速水:ゲーム自体は無料というと、ゲームの中のアイテムや武器とかに課金しているんですか。

西田:そうですね。でも課金したから強くなるわけじゃないんですよ。というのは、やっぱりイコールコンディションであることがゲームとしての面白さを担保するわけですよね。なのでお金を払った人が強くなるんじゃないんです。お金を払った人は、例えば自分の服を特別なものにしたりとか、自分のキャラクターのアバターを特別なものみたいにして目立てるということですね。

速水:日本でも非常にプレイしている人達多いと思うんですが、若い人達の間で流行っているゲームなんですよね。

西田:そうですね。圧倒的に10代、20代の支持が強いゲームです。

速水:その辺のゲームの概要みたいなもの知っておかないといけないと思うんですが、注目されているのは3億5000万という非常に大きいユーザーを抱えていること。そしてPC やスマートフォンなどいろんなところからアクセスしてきて、ゲームだけをしているわけではないところがあるんですよね。例えばゲームの仕方も色々あって、PC でゲームをやっている人達というのは、その中で連携プレイとかを極めてものすごく高度なゲームをしている。一方でこの中では米津玄師がライブをやったりとか、友達同士でチャットをしながらゲームを軽くやっていたりとか、いろんな人たちが集っていろんなことをしている場所になっているというところがこれまでのゲームとの違いですよね。

西田:そうですね。3億5000万人が集まっているということは、もうそれだけで場としての価値が出来上がっているわけですよね。もしくは無料なので友達と一緒に「やろうぜ」と言えばすぐにできる。そうすると、今みたいになかなか人が集まれないような時にみんなとコミュニケーションが取れる。それがポイントになっているんだろうと思います。

速水:フォートナイトとアップルの次の裁判が9月28日ですが、今後の見通しってどういう状況なんですか。

西田:現状では両者の言い分が必ずしも噛み合っていない状態です。その中で若干変化があったとすれば、アップル自身が App Store のルールを若干変えつつあるということだと思います。アプリの中からはやっぱり決済はしてはいけないけれども、アプリの外でゲームの決済をするのはある程度認めようという方向にルールを変えつつあるんですね。そうなるとじゃあエピックゲームズが振り下ろした拳はどこにおろすのかということが問題になってくると思います。

速水:なるほど。落とし所がちょっと難しくなってきているということですか。

西田:単純にアップルのルールを全部解体するというのは難しくて、ある程度譲歩を引き出すという所になると思うんですけども、その譲歩条件が変化してくる可能性があると思います。

速水:フォートナイト側としては、アップルという非常に岩盤的な強い世界最大の企業に対して、ちょっとした譲歩を引き出したいというわけではないですよね。

西田:そうですね。構造としてアップルがお金を取ってエピックゲームズもお金を取っているという、プラットフォームが二階建てになった結果、ユーザーから高いお金をとらなければいけないというところがあるので、ここに手を入れたいというのが彼らの本質だと思うんですね。これをアップルの中で直接決済をすることを認めさせるのか、それともアップルを使わず、外のウェブサイトの中で全部やってくださいという方法を取るのか、そこはまだよく分からないところがありますね。

速水:アップルとフォートナイトの裁判は日本でも非常に報道されてはいるんですけども、それについて理解している人は限られていると思うんです。例えばこれまでの独禁法の問題でいうと、マイクロソフトが非常に強大な組織として君臨していく中で色んな訴訟がありました。マイクロソフト自体を分割しろみたいな話だったり、過去のマイクロソフト対司法省の裁判って非常に重要だったと思うんですが、今回のアップルとフォートナイトの裁判と比較するとどうでしょうか。

西田:難しいところがあるんですけども、マイクロソフトの訴訟の中の一部と近いかなと思っています。それはWindowsにウェブブラウザの Internet Explorer を入入れたことが独占的であるという言い方をされていた部分があると思うんですけども、この部分に近いかなと思っています。選択肢がないということがポイントで、選択肢をどうやって作るかという訴訟であるといえるんじゃないでしょうか。

速水:ウェブがインターネットの中で中心になるぞという時に、これからどのブラウザを使うかを制したところが今後の市場を大きく左右するんだという状況で、マイクロソフトがそこを独占しようとしたことに対して裁判が行われたわけですよね。そういう意味では、人がお金を払うプラットフォームをGAFAと言われるような4大企業が独占しつつある中で、フォートナイトが出てきた。プラットフォーム対プラットフォームなんだというところが今日の話の本質の部分だと思うんですが、フォートナイトの未来みたいなことを考えると、そのプラットフォームの中でライブをやったり、ゲームを超えた課金みたいなところもしているんですが、フォートナイト皆さんは何にお金を払っているんでしょう。


ゲームから発展するプラットフォームの可能性

西田:二つあって、一つはゲームの面白さにお金を払っている。もう一つは自分のアイデンティティにお金を払っているんですね。ゲームの中でどんなアバターの姿でいるかであるとか、どんな武器を持っているかであるとか、そういったところを自分のファッションのようにお金を払っているわけですね。服は自分が誰であるかということを相手に対してみせるアイデンティティであるという意味で同じだという言い方もできると思うんですね。

速水:ゲーム内のキャラクターにマーベルが自分たちのキャラクターを提供するという、ある種のタイアップが行われていますが、フォートナイトという新しいプラットフォームの上に多くのプレイヤーがいて、そこでライブをしたり、映画会社がキャラクターを販売したり、何かの市場になっているということですよね。

西田:そうですね。今までは機能にお金を払うとか、映画そのものにお金を払うという形だったと思うんですけども、今フォートナイトの上で行われていることというのはもっと緩やかなもので、オンラインの中にある種のアパレルショップができているようなものだと思うんですね。そのみんなが集まっているアパレルショップの上に、さらにライブ会場ができていると考えると、先ほど言ったプラットフォームの上にプラットフォームが重なっているという状況では人がお金を使ってくれなくなる可能性があるわけですね。

速水:今のお話を聞いていて思い出したのが、「サマーウォーズ」というアニメーション映画です。オズシティというゲームの延長線上で電子政府であるとか E コマースとかが実現していく中で、一つのプラットフォームの中でみんな自分のキャラクターを動かしながら生活をしているみたいな。どうなんでしょう、こういう世界がフォートナイトの可能性なのかなと思って期待しているんですが。

西田:コミュニケーションのひとつの形にはなると思うんですね。人と会えない時に自分の姿そのままで会うのか、それとも自分を象徴する姿で会うのかということは十分考える必要があるし、その時のプラットフォームというのは必要で、それを新しく作るのか、それともフォートナイトのようにゲームから発展したものとして生まれてくるのか。それはちょっとこれから面白いと思います。

速水: GAFAってアメリカの企業しかないですけど、どうぶつの森は任天堂で、あそこも一つのプラットフォームになるし、GAFAに変わるプラットフォームになっていくような未来があるとしたら、これは日本にもチャンスがあるのかなという気がしますね。

西田:Facebook ももうそこに目をつけていて Facebook ホライズンというサービスを作っていたりするので、みんな向かっている方向は同じですね。いかに日本も早くそっちに向かうかというところがポイントだろうなと思います。

速水:今日は時間になってしまいましたが、また引き続き改めてお伺いできる機会があればと思っています。今日はフォートナイトとアップルの裁判の行方、してプラットフォームの未来について、ジャーナリストの西田宗千佳さんに伺いました。お忙しい中どうもありがとうございました。