東海村JCO臨界事故から21年。東海第二原発の今

2020年9月30日Slow News Report


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JCO臨界事故

速水:今日9月30日は東海村JCO臨界事故が起きた日なんですが、これすぐに思い出すという人はいらっしゃるんでしょうか。僕は週刊アスキーという雑誌をやっていた頃なんですが、そのとき東海村ってどこ?と思ったのを覚えています。そして今、その場所で原発再稼働の準備が進んでいるなんていう話があるそうなんですが、今日は事故から21年ということで、今東海村で起きていることを伺います。お越しいただいたのは茨城新聞東京支社の斉藤明成さんです。斉藤さんは非常にお若いんですが 、JCO臨界事故が起きた1999年っておいくつでしたか?

斉藤:私は中学1年生でした。東海村からだいたい車で1時間半のところに住んでいたんですが、放射能のチリが風向きによっては自分たちが住んでいるところまで来るんじゃないかということで、事故が起きた翌日の野球部の朝練が中止になりました。

速水:そして、その後記者になってから深く知ることになった事件でもあると思うんですが、この JCO臨界事故とはどういう性質のものだったのか、教えていただけますでしょうか。

斉藤:原子力の事故と言うと、福島第一原発とか原子力発電所をイメージすると思うんですが、この JCO というのはいわゆる原発ではなく、原発で使う核燃料を製造する工場なんです。ちょうどその核燃料を作る作業中に起きた事故でして、ウラン溶液という燃料を作る材料を入れる作業をしていて、通常の7倍ぐらいのウラン溶液を使ってしまったところ、臨界という現象が起きてしまったという事故です。

速水:これは被爆による死者も出ていますよね。

斉藤:当時作業員3人の方が作業をしていたんですけれども、全員大量に被爆をしまして、そのうちお二人の方が亡くなりました。これは国内の原子力事故では初めての死亡者になります。

速水:そして10 km 圏内の屋内退避という話にもなったわけですね。

斉藤:屋内退避というのも国内の原子力事故では初めてでした。


JCO臨界事故をきっかけに安全への意識は高まったのか

速水:この事故以降、東海村では特別な事故への備えみたいなことは住民の意識の中にあるんですか。

斉藤:事故を受けまして、東海村や県、国を交えての防災訓練、避難訓練が行われるようになりました。安定ヨウ素剤って皆さん聞いたことあるでしょうか。福島第一原発の事故の時に聞いたかもしれないんですけれども、甲状腺、喉の内部被曝を防ぐための錠剤です。それを事前に備蓄をするようになりました。そして、福島第一原発の後、事前に配布して備えようということで、国の施策で住民に配るようになりました。担当する行政の方がよく言うのは、万が一外で原子力事故が起きた場合にも備えて、できればお財布に入れておくとか常に持ち歩くようにということです。

速水:東海村の人たちは日頃から事故への意識は高いと言えますか。

斉藤:必ずしもそうは言えなくて、例えば東海村ではほぼすべての村民の方が事前にもらわなきゃいけないんですけれども、実際には半分いっていないと思います。

速水:事故から21年も経っているというのもあるかもしれませんけれども、逆にこういうことが普通になっちゃったりしているのかなという気もするんですが。

斉藤:そうですね。日常になってしまっているという一つの象徴として、東海村が今広域避難計画というものを作っていて、それに備えた避難訓練というのも一応毎年やっているんです。事前に村の広報とかいろんなところで告知はしているんですけれども、当日初めて知る村民の方も実際にいらっしゃいました。そういった意味では、確かに日常すぎて切迫しているというような空気はないのかなとは思います。


原発再稼働について住民は・・・

速水:地元に原発があることであるとか、再稼働をするみたいなことって住民の方々はどう思っているんでしょうか。

斉藤:これは非常に難しくデリケートな問題でして、確かにJCOの事故はそれを機に原子力への逆風が吹いたというターニングポイントではあります。ただ東海村と原子力というのは非常に近い身近な存在です。村民の約1/3は何かしらの形で 原子力関連の仕事についていると言われています。

速水:これは直接働いている人だけではなくて、経済的な影響もいっぱいありますよね。そこに関わっている人たちもいる。そんな中で反対派と推進派がガッツリ分かれて、丁々発止やりあいをしているということなんですか。

斉藤:決してそうではなくて、あくまで私の肌感覚なんですが、原発に反対の方はいろいろ集会とかイベントを開いているんですが、ただそれ以外の方は普段原子力について議論をしたりするような場というのはなかなかありません。

速水:つまり地元で何かしらの形で原発に仕事で関わっていたり、その仕事を誇りを持っている人なんかもいる中で、逆に口に出しづらくなっているみたいな状況があるわけですね。

斉藤:はいその通りだと思います。ある村民の方は、反対派と賛成派で村を二分するようなことは避けたいとおっしゃっていました。

速水:これ取材をする立場としても生の声って聞きづらいものですか。

斉藤:そうですね。私も3月まで4年間東海村を取材していたんですが、赴任した当時は比較的いろんな人に「原発どうなんですか?」という話は聞きやすかったんですが、いろいろ村のことを知って、いろんな知り合いができればできるほど、私自身も皆さんが置かれている立場をわかるからこそ、軽い感じで聞けなくなっちゃったというのはあります。


全国の人が自分ごととして原発を考える

【東海村 自分ごと化会議より】
本当は東京の人にも、東海村だって福島だって原発のことを自分ごとにするというこういう会を開いてほしいなと思っております。原発というのはとっても難しい話なんですね。自分の中にも白か黒か、イエスかノーかだけじゃなくて、事故が起こらないよにしてほしいなという反対の部分と、そうは言っても電気は大事だ、あるいは親類が勤めているとか、両方あるんだと思います。ですからいきなり白か黒か、イエスかノーかではなくて、やっぱり自分の立場から、普通の一市民の、一住民の立場から考えて、原発ってどうなのかな、エネルギーってどうなのかなというところからスタートして行かないと、どっちに行くにしても全員が納得できるようなことにはならないと思うんですね。今日はそのスタートだと思います。


速水:今お聞きいただいた声は何の音声だったんでしょうか。

斉藤:これは「自分ごと化会議」というものでして、民間のシンクタンクが全国で開いている会議なんです。無作為抽出で一般の方に参加して欲しいという紹介状を出しまして、そこで一般の住民の方がいろんな行政のテーマ、例えばゴミ問題とか、そういったことについて皆さんで議論して、最後に要望書というのを提出するものです。

速水:なるほど。自分ごと化会議というのは、僕ちょっと初めて聞いたんですが、今お聞きいただいた素材の声というのは、つまり東海村でも原発について白か黒かじゃなくて、全員がどっちに行くにしても納得できるという話をする。先程の音声素材のなかでも言っていましたが、そういうまさに自分ごと化会議の原発版をやってみるということなんですね。これについてまず事前に触れておきたいのは、今東海村は原発再稼働への動きが進んでいるということですよね。

斉藤:実は東海村には首都圏で唯一の原発、東海第二原発があります。東日本大震災では津波に襲われたんですけれども、なんとか事故には至らなかったんですが、その後運転を停止しました。そして現在は一連の再稼働のための審査には合格しています。

速水:日本全国で、マニュアル通りちゃんと点検できるのみたいなことが確認できたら再稼働していくという流れなんですが、行政の側としては住民の声を今重視しようとしているということがあるんですか。

斉藤:原発を再稼働をさせるためには、原発の事業者が周辺の自治体の首長さんに再稼働をしていいかどうかお伺いをたてるんです。これを事前了解といっていまして、そういう協定があります。各首長さんは再稼働の是非を判断する一つの判断材料として、住民の意識意向を把握したい。その上で再稼働させるかどうかというのを判断したいということになんです。

速水:なるほど。それにはいろんな手法があると思うんですけど、こういうのって住民の声ではないものが意見として出てきて、本当の住民の声が聞こえないままになってしまうみたいな事ってよくあると思うんですが、東海村の場合はどうなんでしょうか。

斉藤:やはり意見する人っていうのは結構限られてきてしまいますので、白か黒かというのを普段言わない、いわゆる本当にフラットな方の声というのを把握したいというのはあると思います。

速水:まあフラットなのかはわからないですけど、サイレントマジョリティの声を拾うことって簡単ではないわけですよね。なぜなら表に出てくる人達は白か黒かの人だから。この自分ごと化会議は、無作為抽出で1000人に案内状を出すという話でしたが、その人たちに会議してもらうことで、これはどうなっていくと思われますか。

斉藤:まずどれだけの人が、この意見しづらい東海村で手をあげるのかというのも興味がありますし、僕自身もサイレントマジョリティの方が何を考えているのかというのが初めて公の場で議論されるということでとても注目しています。

速水:ちなみこれは公表されることが前提になりますよね。

斉藤:はい。この会議はすべて公開です。

速水:その中で、特に原発問題みたいな、生活にも関わるけどイデオロギーの部分もあるような問題について、普通は意見を言うことに躊躇する人たちが多いですよね。オープンな会議になるんでしょうか。

斉藤:そうなってほしいというのが我々の願望なんですけどね。

速水:そして、例えば今僕は東海村の人たちがちゃんと議論をするんですか?というところを問いかけていますが、それ自体がちょっと他人ごとすぎるポジションなのかなという気もしたんです。そこで作られる電気は、実際は東京で僕らが消費者だったりする場合に、全く他人ごとにしていい問題でもないんだよという問いかけがありましたよね。そこも含めて“自分事”という言葉がつきつけるものがありますよね。再稼働には県内14市町村の広域避難計画の策定の必要もあるわけで、日本は非常に狭いですから県をまたぐ近隣の自治体でも全く無縁ではないわけですよね。

斉藤:そうですね。今県内14市町村で広域避難計画を策定しているんですが、避難先によっては茨城県内だけではなくて、福島、栃木、群馬、埼玉、千葉に避難しなければいけない自治体も含まれています。ですから、茨城県近隣の皆さんにとっても他人ごとじゃないということを是非考えていただければと思います。場合によっては自分の所の市町村で茨城県の避難者を受け入れることもありますし、皆さんが当事者になるのかなと思います。

速水:今日は茨城新聞東京支社の斉藤明成さんにお話を伺いました。ありがとうございました。