Remembering RBG

2020年10月1日Slow News Report


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ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事とはどんな人?

速水:今夜のテーマは「Remembering RBG」です。先月18日訃報が伝えられましたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事とはどんな人物だったのか。カリスマ的人気を得たその理由を伊藤詩織さんと一緒に伝えていきたいと思います。ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事とはどんな人だったんでしょうか。

伊藤:私にとっても本当にアイコン的存在、ロールモデルなんです。彼女がいなかったら今のアメリカの景色が違ったんじゃないかなという声も聞こえるくらい、色々な人の人生だったりアメリカのいまに影響を与えてきた人なんです。法のプロフェッショナルとして、アメリカの最高裁判事として27年間にわたって働いてきたんですよね。

速水:アメリカの最高裁判事って任期があるのかと思いきや、そうではないんですよね。何があろうがこの人の判断に委ねますよと、その人にこの国をある種委ねられているわけですよね。

伊藤:そうなんです。それってすごい影響力で、法に関わることは生活に関わってくることですからね。彼女は1950年代にまだ女性が大学に少なかった時代に法律を学ばれていて、コロンビア大学も首席で卒業したんですけど、やはり50年代後半はまだニューヨークの法律事務所では女性を雇わないみたいなことがあって、彼女自身も生きていく中で色んな壁にぶち当たっていく。そしてそれは法律がそうさせてしまっているというところに気づいて、それまで数百以上あったいろんな性別を理由にした差別に対して戦ってきた方なんですよね。

速水:なるほど社会に影響力を与えるって色んなやり方がありますよね。政治家として変えるとか、実業家として変えるとか。でも彼女は明確に法律を変えるんだということを選んだわけですね。

伊藤:そうなんです。最近のドキュメンタリーの「RBG 最強の85歳」であったりだとか「ビリーブ 未来への大逆転」といった映画も出ているんですけれども、やっぱり法律を変えるって人の意識をまず変えなければいけなくて、その映画の中で有名なフェミニストであり法律のプロフェッショナルな人に話に行った時に、「この国はまだ準備ができていない」と言われるんですよね。やっぱり法律を変えるには、判事だったりとかいろんな人の意識を変えていかなければいけないのに、その前に法律を変えるなんて無理だと言われるんです。でもそれは、デモだったり、さっきおっしゃっていたようないろんな形で変えていく事はできると思うんだけれども、法律が変わらなければ変わらないこともあるんだということをずっと信じて行動してこられた。もう絶対勝てないだろうという裁判にも勝ってきた人なんですよね。

速水:冒頭で伊藤さんは「私にとってのロールモデルでもある」という話をされていたじゃないですか。具体的にはどういう影響を受けているんですか。

伊藤:そうですね。やっぱり「この時代にはまだ無理」と言われるようなことを彼女は自分のできることから信じて行った、本当にいい意味での頑固さというところはすごく私にエンパワーを与えてくれました。私自身も同じような言葉をかけられた時でも、やってみないと分からないし、やり尽くしたいという思いで今まで色々な戦いをしてきたんですけど、やっぱり彼女のような、今までそういったことをやってきた人がいたからこそできたことなので、すごく尊敬してます。

速水:女性の権利を擁護したという意味ではフェミニストの運動の一人でもあるんですが、そこで何かに勇気を与える存在であったというところが非常に重要だという話なんですけど、僕も非常に興味深いなと思ったのは判事であり法律家でありという部分と、一方でそれこそ大人から子供までよく知られているポップスターの側面というのもあるんですよね。


アイコン化された存在だったギンズバーグ氏

伊藤:そうなんですよ。ハロウィンのコスチュームでもギンズバーグさんのコスチュームを子供とかワンちゃんがつけてたりするんですよね。それくらいアイコン化されているんです。RBG の由来はラッパーのノトーリアス・B.I.G. をもじっているんです。

速水:彼はもともと麻薬の売人だったりして、まあラッパーとしてもめちゃめちゃ悪いやつで、殺されて亡くなっているんですが、一見全然違うじゃないですか。けれども彼女自身はそんなノトーリアスと比べられたりすることに関しても割と前向きに受け止めているんですよね。

伊藤:そうですね。若い法学生が考えた名前で、それがわっと世界中にブログから広がったんです。

速水:これもTumblrの中でギンズバーグ氏に特化したアカウントが作られて、そこから若い世代が彼女はこういう人なんだというのを知るようになった。ポップスターになっていくという経緯があったんですよね。

伊藤:やっぱり判事としていろんなケースに噛み付いていく姿を見て、いろんな批判もあったんですが、そういった姿を見てこの名前が付いたそうで、ドキュメンタリーのインタビューでは彼女自身は気に入っているような感じでした。「ノートリアス B I G と確かに似てるところがあるのよね。ブルックリン出身とか」と笑いをとっていたりしています。

速水:人に勇気を与えるって優等生だけじゃないわけですよね。そういう面白さであったり、親しみやすさみたいなところをトータルで社会を支えていく原動力にしていくところも特徴であるということですね。先ほど彼女を題材にした映画の話もありましたが、伊藤詩織さんは映像ジャーナリストなので、その題材としてのギンズバーグさんというところも重要なのかなと思いました。

伊藤:そうですね 「RBG の最強の85歳」はアカデミー賞で長編ドキュメンタリーの中にもノミネートされていたりだとか、すごい話題になりましたよね。実は私、「ビリーブ 未来への大逆転」を2018年の大晦日にLAで見て、一人で大泣きするという記憶がありまして(笑)、本当にその時はいろいろなことで心が弱っている時で、彼女の言葉を聞いてすごく勇気づけられたんですよね。

速水:それはどういう言葉だったんですか。

伊藤:さっきちょっとお話した、「まだこの国は準備ができていない」というところで、彼女の娘と一緒にその言葉を浴びせられてるんですけれども、その帰り道にニューヨークの道端で男性にからかわれるんですよね。それに対してギンズバーグさんは娘に「ほっときなさい」と言うんだけど、高校生の娘が男性に対して「黙ってろ」みたいな感じで言い返すんです。そしてそのまま大声で「タクシー!」と言っていく姿を見て、「時代は変わったのね」というシーンがあるんです。ちょうどその時は、学生が道に出て活動したり声を上げるという運動が色々広がっていた時だったと思うんですけど、そこですごく「ああ時代ってこういうふうに変わっていくんだな」と思ったりして、「ビリーブ 未来への大逆転」はぜひお勧めします。彼女のパートナーとのラブストーリーについても、やっぱりその当時すごく珍しかった、妻を支えるために自分は仕事を辞めるみたいな彼がいたからこそ、お互いがあったという感じなんですよね。

速水:割とまあロマンティックな話もあるんですか。

伊藤:ロマンティックと言うか、実は家族も語っているんですけど、全然面白い人ではなかったそうなんです。すごいいい意味で、真面目すぎてジョークも言えない。でもパートナーがものすごく面白い人でバランスをとっていたんですね。

速水:家族につまらない人間だと言われるって、相当つまらなかったのかなんていう気もしますよね。

伊藤:でもそれくらい本当に法に没頭して、法でどういうふうに変えていけるのかというところをすごく考えていたんですよね。

速水:あまりにも堅物すぎて、周りが面白がって取り上げているうちにポップスターになっていくという話なんですよね。マグカップから T シャツの柄から、人形も販売されているという、例えば日本だと最高裁判所の裁判長がキャラクター化されていたりって考えられないですよね。

伊藤:正直、顔も名前も浮かんでこないです。

速水:選挙の時に最高裁の判事って僕らが一応信任をして選び出しているんですが、誰が何の裁判でどういう判決を下したかというのはわかってないですよね。後半はアメリカで今起こっていることの話もしたいんですが、このギンズバーグ判事の訃報というのがまさに先月ありまして、詩織さんにとってはタイム誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた時と非常に近かったということで、思うところ多かったと思うんですが、詩織さんの周辺でもいろんな反響がありましたか。

伊藤:速報が出た瞬間に世界中の友人たちからメッセージが届いて、本当に共に悲しみ、ありがとうという気持ちで祈りを捧げさせて頂いたんですが、彼女が判事としていなくなったアメリカってどうなっちゃうんだろうと、アメリカ人じゃないけど何か不安もありました。


大統領選挙とギンズバーグ氏の死

速水:先日の大統領選のテレビ討論会なんかでもこのことが取り上げられていましたが、ギンズバーグ判事の死で何が問題にされているんでしょうか

伊藤:実はオバマ政権が終わる前に、ギンズバーグさんにやめていただけませんかみたいな声があったんです。それというのは、大統領が最高判事を指名できるということで、次の人になる前に、つまりトランプさんになる前に決めてくださいという声も上がっていたんです。

速水:つまり死ぬまで判事を続けますということは、人はいつ死ぬかわからないんですけど、亡くなった時に初めて新しい判事を指名する。それは大統領の権限であると。となるとオバマ大統領の次に共和党政権になったら保守派の判事が指名されるだろうということで、死ぬタイミングが政局というか、その次のアメリカの社会にも影響を与えるという話なんですよね。ちょっとメッセージを読みます。「アメリカの裁判官はキャラが立っているし主義主張も明確。こういうところは日本よりアメリカの方がいいかもしれないなと思いました」「法の裁きを受ける側としては公明正大な人がいてほしい。アメリカ人だけでなくそう思うだろう。」ということなんですが、公明正大であるという以上に保守派なのかリベラル派なのかということも重要ですが、判事はその時に大統領が選ぶので、偏った人がなっても結局バランスが取れるよねというのがアメリカの司法制度なんですよね。それが今彼女が亡くなることでどうなりつつあるんでしょうか。

伊藤:最近トランプ大統領がエイミー・コニー・バレット判事を後任として指名したんです。トランプ氏は「彼女は女性である」と言ったんですけど、もちろん女性であり母であるんですけど、すごく保守的な考えを持っています。例えば RBG が戦ってきた中絶に対する権利も彼女は反対派なんですよね。最近の大統領選のテレビ討論会でも一番最初の質問が次の最高裁判事についてだったんですよね。

速水:今、アメリカには判事が9人いるんですが、奇数であるとでその時々によって大統領が指名するとなると、保守派とリベラル派、その数字のバランスが重要ということですよね。

伊藤:そうですね。やっぱり最高裁判事は人工妊娠中絶もそうですし、同性婚だったりとか、本当に国民の世界をすごく左右するようなことを判断する人なんです。日本でどれくらい報道されていたか分からないんですけれども、一昨年ブレット・キャバノー判事について、彼に高校生の時に性的暴力を受けたとクリスティーン・ブレイジー・フォード教授が話した時、すごくアメリカ中で話題になったんです。彼女も本当に悩んでお話しされて、その後自分の家に戻れなくなってしまったという状況にもなったんですけど、結局キャバノー氏は選出されてしまうんです。なぜあそこまでアメリカ中が目を向けていたかというと、やっぱり今後の国民の生活がキャバノー氏がどういった人柄なのかというところに委ねられてしまうということがあったからなんですよね。

速水:確かに政治家に僕らは人格とか倫理観とかというものを求めます。一方で裁判官には公平性とか法律の知識が求められるんですが、だけどその人はどういう人なのかというのは正直関心がない部分がありますね。アメリカはそこが非常に重要で、9人のうちの5対4という維持するバランスがある中で、一人一人の重みが全然違うという話なわけですよね。

伊藤:そうですね。大統領が新しい決め事をするという時も、最高裁判事が判断できるというところがあるので、やっぱりすごくパワフルなポジションなんですよね。

速水:それこそ今注目されているのは11月の大統領選挙。そこで僅差で敗北するという時に、最高裁で最終的に決着するということもあるわけですよね。

伊藤:先日のテレビ討論会でも、「こんな討論会見たことない。あまりにもひどかった」という声があります。私も聞いたんですけど、お互いに声を荒げすぎていて、何の話をしているのか分からなないんです。モデレーターの人がレフリーみたいになっていて、もうごちゃごちゃだったんですね。これはお互いにとってすごくマイナスだったんじゃないかなと思います。RBG が言っていた言葉の一つに「討論で勝つには、必ず声を荒げない、怒鳴らないというのが第一ルールなんだよ」というものがあるんです。何故なら声を荒げてしまったら相手がテーブルから降りてしまうから。だから相手をテーブルに持ってくる、一緒に話すには荒げないという教えが一つあるんですけど、二人ともことごとく破ったなと思いました。

速水:途中からちょっとモードがチェンジされたというところがありましたね。一応司会者の進行通り話をしているバイデン、そしてバイデンがしゃべっていることにかぶせていくトランプみたいな構図で、ずっとバイデンはカメラの方に向かって最初喋っていて、直接討論というよりは国民に向かって喋っているという感じでしたよね。でも途中から茶々を入れてくるトランプに答え始めたところで、まあある種の見方としては向こうのテーブルに乗ってしまったというところがありますね。ただすごく今っぽいなと思うのは、お互いの支持者たちはこの結果を自分たちが支持している側が勝ったと思っているんですよね。トランプ支持者に聞くと完全にトランプが勝ったんだと言うし、民主党の支持者はトランプは自滅したと言う。見方によってみんなが同じ結果を見ていない現代みたいなことが非常に如実になったなという気がします。もう一度ギンズバーグさんの話に戻りたいんですが、いちばん今見直して評価しなきゃいけないのは法を変えることということですよね。


法律を変えるということ

伊藤:彼女がキャリアをスタートした時って、女性はローンも一人で組めないし、銀行口座も作れないとか、妊娠したら解雇されてもいいという法律があったんですよね。また、中には男性も虐げられていた部分もあって、例えばシングルマザーには手当があるのにシングルファザーにはない。かそういったあらゆるマイノリティに対しての平等を進めていったんですよね。ちょっと国が変わってしまうんですけど、例えばスウェーデンで職場に男女半々で雇いましょうという法律が作られた時は、本当に色んな声がありました。そんなの無理だ、それこそおかしな問題を生むんじゃないかということもあったけど、数年たってそれが普通になって、そこからまた新しいスタンダードが作られていくんですね。法律を変えることの影響力ってすごくあるなと思うんです。やっぱり人の意識を変えるということはすごく時間がかかるし、もちろんそこも尊重していかなければいけないものもあるけれども、法がどれくらい人の人生を変えていくのか、意味を変えていくのかって、本当に彼女が示してくれたなというのはありますね。

速水:硬直化しているものを変える時、中には「変えなくてもいいんじゃないの」という話がどうしても強くなって、その中で何か変えていくときに非常に力が必要ですよね。今日の伊藤詩織さんの RBG 論を聞いていていくつも知ったことがあるんですけど、家族にすらつまらないと思われていたところ、結構大事かなと思っていて、同じことを頑固に貫いていくことで周りを変えていったという部分ってなかなかすごい人ですよね。そしてノンフィクションで写っているところで見える人柄、そういうところのバランスが重要なのかなと胸に響きました。今夜は「Remembering RBG」お届けしました。