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オキシトシンとは
速水;今週は堤未果さんとお送りします。テーマは『コロナ渦のストレス社会から 繋がりあうオキシトシン社会へ』。このオキシトシンとは一体どういうものなんでしょうか。
堤:オキシトシンというのはホルモンなんですね。今日この後ご出演いただくゲストの高橋徳先生に言わせると、これは“幸せホルモン”というもので、女の人が出産時に分泌されるホルモンですね。でこのホルモンのおかげで陣痛にも耐えられるし、母性の形成や赤ちゃんへの愛情にも関わるホルモンなんです。90年代の半ばから、実はこのホルモンが女性だけではなく男性や子供もみんな出せるものであることがわかってきたんです。さらにこのオキシトシンホルモンというのは、いろんな体の不調が改善される、免疫をあげてくれる作用があるということがわかったんですね。
速水:このお話、ウィスコンシン医科大学名誉教授そして名古屋市にあるクリニック徳の院長 高橋徳先生にお電話で詳しく伺います。堤さんは高橋さんとはどういうきっかけでお知り合いになったんですか。
堤:徳先生は、今私が関わっている日本全国に有機ミネラル給食を導入するという取り組みがきっかけでご縁をいただいたんです。徳先生が研究されているオキシトシンを入口にして、実は今私たちが社会不安やストレスでいっぱいのコロナ後の社会をこれからどうやって乗り切っていけばいいのか、ということに大きなヒントが隠されているなと思ったんですね。それで今日は是非お話を聞こうと思いました。
速水:では早速お電話繋がっていますのでお話を伺っていきたいと思います。高橋先生こんばんは。
高橋:こんばんは。今日はよろしくお願いします。
堤:先生はウィスコンシン大学でマウスの実験なんかをされていたと思うんですけれども、ストレスを受けたときのオキシトシンの効果というものについて説明していただけますか。
触れ合うことで幸せホルモンが分泌される
高橋:私はもともと消化器外科の専攻でして、胃腸の病気が専門だったんです。それでアメリカの大学に行って、ストレスがいかに腸の働きに影響を及ぼすのかということを主に研究していました。たとえば、毎日我々が悩み苦しんたり、切ない思いをしたり、そういったストレス状態では胃の運動もすごく悪くなるんですよ。それでムカムカしたり、食欲がなくなったり、胃が痛んだりするわけですよね。皆さん経験されたと思うんですけども、実は私も学生の頃好きな女の子がいまして、ふられちゃったんです。そうしたら三日間ほど全然食事が喉を通らなかった。そういう経験があります。ネズミの実験では一匹飼育箱に入れて、ストレスをかけます。そうしますと胃の運動が極端に悪くなっちゃうんですよね。こういう状態の時にこのネズミにオキシトシンを与えますと、胃の運動が元に戻ってしまうんです。それはどういうことかと言いますと、自律神経というのは胃の運動に大きく関係しているんですが、自律神経には交感神経と副交感神経の二つがありまして、ストレスを我々が感じますと、交感神経系が特異的に高くなって胃の運動が悪くなるということがいわれているんですね。オキシトシンがこれにどんな影響を及ぼすかと言いますと、ストレスによって高まった交感神経系を抑えて副交感神経系を高めてくれる。一言で言えば、乱れた自律神経を調節してくれる。そういう作用があるんです。それで今度は二匹を一緒に飼育箱に入れて飼っていると、ストレスを与えても胃の運動は低下しない、正常のままだということが分かったんです 。要するに一匹ではストレスに耐えられないんですが、2匹だとストレスに耐えることができるということなんです。
速水:今失恋の話に例えていただきましたが、失恋の痛手から癒えるためには友達に相談したほうが早いみたいなことですか。
高橋:そうなんですよね。友達に悩みを相談して、「そうか、そうか」と慰められたら失恋の痛みから回復するかもしれないですよね。
堤:そうすると2匹のマウスのうち、お互いにストレスに対して何かをしてあげたということでしょうか。
高橋:一緒にいるのはどういうことかと考えますと、体と体が触れ合うことですよね。触覚の刺激がオキシトシンを出すというのはわかってるんですよ。ですから体と体を寄せ合うことでオキシトシンが出て、出たオキシトシンがストレスに耐えられる体を作るということが言えるんですよね。
堤:肌のふれあいということですね。
高橋:そうです肌の触れ合いが大事なんです。
速水:ちょっと疑問なんですが、たとえば失恋の癒しって、僕はてっきりお互いに慰め合う言葉なのかと思ったら、言葉よりも接触の方が重要ということですか。
高橋:例えばハグをしたり、背中を撫でてやったり、そういうことですよね。それも大事だということです。要するに一緒にいるということは、肌と肌が触れ合うこと、ブラス心と心の触れ合いというのもあるじゃないですか。ですから、実際に思いやる気持ちを持つことがオキシトシンを出すかどうかというのは次の疑問になってきたわけです。それで今度は二匹ネズミを飼育箱に飼っておいて、片一方だけにストレスを与えるんです。そうすると、ストレスを与えられたネズミは疲労困憊するじゃないですか。するとそれを見たパートナーは相手に寄り添って一週間で世話をするような行動があったんですよ。元気があるネズミが、もう一方の疲労困憊しているネズミのところに寄って行って、一生懸命相手の体を舐めたりさすったりする。「アログルーミング」といいますが、そういう行動が増えてきたんです。これは面白いと思って、そのネズミの視床下部のオキシトシンを測ってみたところ、非常に増えていたんです。
堤:増えたのは世話をされた方ですか、それとも世話をしたほうですか。
高橋:世話をした方です。世話をした方のネズミのオキシトシンが増えていたんですよね。ですから相手を思いやる、あるいは相手の世話をするとオキシトシンが増えるということはネズミの実験からわかったわけです。
速水:人間に置き換えた場合、逆な気もしたんですよね。たとえば、家族や恋人なんかで相手がイライラしているとなるべく避けようという気もする。これは僕の事例ですが(笑)野生動物は本能的には寄り添おうとするところがあるということですか。
高橋:そうですね
速水:そして相手のイライラがうつってこっちもイライラしてしまうのではなくて、自分の側もストレスを抑え込もうとすると同じ成分が分泌されるということですか。
高橋:そうそうです。オキシトシンが出てお互いがますます元気になるわけです。
人を思いやることでも自分にオキシトシンが分泌される
堤:例えばボランティアをして知らない他者のために働くと気持ちがいいじゃないですか。あれも一つのオキシトシンの作用なんですかね。
高橋:そう思います。実際論文が出ていまして、ボランティア活動をすればするほど健康で長生きするという論文があるんですよ。その論文にはオキシトシンのことは何も書いてないんですけれども、やっぱりボランティア活動というのは自分をある程度犠牲にして人のために過ごすことですよね。そういう積極的な思いやりの気持ちを持つことがオキシトシンを出して、その結果オキシトシンが自分の自律神経を調節して、免疫力も高めて自分の体が健康になるというふうに考えられると思うんです。
速水:先ほどマウスの実験だと、触れ合うことがオキシトシンを分泌するきっかけだという話なんですが、今のボランティアの話だと、精神的な満足の部分ですよね。接触以外でもオキシトシンは発生するんですか。
高橋:そうですね。相手を思いやる気持ちさえあれば接触がなくても自分の体の中でオキシトシンが出ると思いますね。
堤:今コロナで私達は他者との触れ合いが制限されているじゃないですか。それでもオキシトシンを出す方法というのもあるんでしょうか。
高橋:そう思います。残念ながら今はソーシャルディスタンスをとれとか、三密を避けるなんていって体と体の接触ができないような状況じゃないですか。でもオキシトシンを出す方法として、肌と肌の触れ合いはできませんけれども、心と心の触れ合いはできると思うんです。ですから、例えば友達とメールをしたり、電話をしたりしてお話をする。思ったり思われたりする。相手の悩みを聞いてあげる。こっちの悩みを聞いてもらえる。そういったことでオキシトシンは十分出ると思います。それともう一つはそういった電話やメールができなくても、ただ単に自分の家族を思う、あるいは単身赴任をしている旦那さんのことを思う。そういった人を思う気持ちでもやっぱりオキシトシンは出ると思います。
速水:例えば今オンライン会議なんかで、ものすごくストレスになっている部分があるじゃないですか。いまいち通じてないなとか、実際に会って話すときとは全然顔色の見方とか呼吸のタイミングがずれているなということを僕はずっと感じているんですけれども、これを解消するためには、接触以外の方法って具体的にどうすればいいのでしょうか。
高橋:やっぱり相手の目をしっかり見たりとか、あるいは握手をしたりということができないわけですから、そのぶんやっぱり気持ちをもっとアップさせて、余計オキシトシンを出すようなイメージで相手のことを思いやったり、チームプレイでひとつのプロジェクトをやっていこうという意識をもっと高めていけたらいいかなと思います。
堤:思いやりの気持ちみたいなことですね。
高橋:それをもっともっと持つことだと思いますね。
堤:なるほど。肌の触れ合いということでは、極端な話、たとえば自分で自分をハグするなんていうのはどうなんでしょう。
高橋:それも心理学の方法で一つあるんですよ。自分をハグする、あるいは自分で自分を愛するという気持ちですね。それは非常に大事なことで、人とは接触できませんけども、自分の手が自分の胸をさすったりということもやっぱり一つの接触ですから、自分で自分の胸を抱きしめるというのも一つの良い方策かもしれませんね。
堤:それで免疫が上がるというのはすごいですね。飼ってる猫なんかはどうなんでしょう。
高橋:猫いいですよ。猫でも犬でも可愛がるという気持ちはオキシトシンをあげるでしょう。それとさするわけですから、これは触覚の刺激になるわけですよ。それともっといいのは、人は思いやってもときどき裏切ったりしますけれども、犬や猫は裏切りませんので(笑)
速水:たまに僕、猫にふられることはありますよ(笑)
堤:速水さんは猫との上下関係がかなり下の方ですもんね。
速水:猫って明らかに自分のポジションわかってますからね。
堤:かなりマウンティングされてますもんね。
速水:僕にかまってくれない時とかは多々あり、そういう時僕はおそらくストレスを感じてオキシトシンを失っているんですよね(笑)
堤:そういう時は自分で自分をハグしないとですね。
速水:それは考えたこともなかったですね。でも自分で自分をハグするってほとんどの人はないんじゃないですか。堤さんはありますか。
堤:私は徳先生の本を読んでから実行しているんですよ、ひそかに電車の中とかで。
堅苦しく考えずに、自然に相手を思う
速水:相手を思いやるというのは、道徳的に考えても普通にすべきなんですけど、人間には自然に人を憎むとまで言わなくても、もうこいつイライラさせるなと思う事ってあると思うんです。そこを脱するって難しいから世の中ギスギスしてるわけですよね。
高橋:道徳的にって思うからいけないんですよ。人間みんな本来はひとつだったので、本来の人間に戻るだけの話ですよ。それを宗教家や道徳家が「人のために」なんていう風に押し付けるからいけないのであって、自分の本能に忠実にやっていれば、自然とそういう感情が出てくるわけです。自分の心に忠実であればそういう思いやりの気持ちはおのずと出てくるもんですから、道徳や倫理なんて堅苦しく考えることないと思いますよ。
堤:実際にそれを実行した時に、誰かのために動いたり、誰かのためにどうしてあげたらいいかと考えると、自分にもオキシトシンが出て、自分もコンディションが良くなるということですよね。
高橋:我々の身体というのは、本来そういうふうにできているんです。
速水:一方で、こういう何か分泌するものって、依存性が高くなったりということはないんでしょうか。
高橋:人間は協調して生きていくように出来ていて、それがオキシトシンなんですけれどもそれと同時に自分の個体を維持しようとする、そういったホルモンも出てるわけで、そのバランスで我々の体というのは生きているわけです。ですから、オキシトシンばっかりに依存するということはまずないですね。
速水:なるほど。高橋先生、興味深い話いただきましたありがとうございました。堤さん、今日のテーマは、今のコロナ禍ストレスが多い社会でもうちょっと上から俯瞰して物事を見る機会でもあるというはなしでしたよね。
社会を俯瞰してコロナ後の社会を考える
堤:そうなんですよね。こういう緊急事態が起きた時って、私達はどうしても目先の不安や恐怖に捕まりますから、たとえばワクチンが早くできないかなという気持ちも多くの人は持っていらっしゃると思うんです。でも「それさえできれば」とに思ってしまうと、それがないことがすごく恐怖不安になってしまうんですね。そうではなくて、もっと俯瞰してみた時に、もともと私たちが持っている本能、たとえば他者への思いやりだったり、自分を愛することだったり、そういう形で少し発想を変えると、コロナ後の社会をどうやって作っていくのかというところまで想像力が広がっていくと思うんですね。
速水:まさに昨日、この番組で医療テクノロジーの未来の話を取り上げて、医療への過度な期待が恐怖につながってしまうという話をしましたが、たとえばコンピュータースクリーンの中で全部解決できるとか、オンライン会議だけで全部 OK となると、おそらくその反動みたいなことって見えない部分には出てきているだろうなと思うんです。
堤:本当にその通りだと思いますね。だからテクノロジーがここまでスピーディーに進化すればするほど、テクノロジーにできないものは何かと立ち止まって考えられるのがきっと私たち人間だと思うんですね。
速水:だけどどうしても、電車の中で自分で自分をハグする自分というのを想像してしまった場合、まだ恥ずかしさが残る(笑)
堤:まずやっぱり猫ちゃんのハグから始めてください。
速水:ぼくの天然パーマをゴシゴシこすりつけることで、猫の側にもそういう成分が出てたらいいことなのかなという風にもちょっと思いました。今夜は「コロナ禍のストレス社会から繋がり合うオキシトシン社会」をテーマに取り上げました。