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速水:コロナ禍で家庭から出るゴミが増えたなんていう話もありますが、僕は個人的には非常に増えた気がします。いろいろ通販でパニック買いしたところもあるんですが、それがゴミになって出ている。皆さんもひょっとしたらあるかもしれないんですが、実はこの我々が出すゴミ、ものによっては場所が変わればまた違う意味を持って受け止められることがあるらしいんです。ということで今日はフロントラインプレスの岸田浩和さんにお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。
岸田:今回取材したのは、古紙、古着、家財と呼ばれる家電とか家庭の不用品ですね。どれも私たちが普段日常で使っていて、いらなくなって不用品として捨てているものです。この分別された資源ごみは焼却されるのではなくて、かなり細かくルートが決められていて、リサイクルされているんですね。
速水:それはかつてとちょっと違うゴミの流通なのかなと思うんですが、こちら岸田さんは今回アジアに流れていっているゴミの話を取材されたということですよね。
日本のゴミがアジアへ
岸田:一昨年と昨年の2回、ジャーナリストの丸山ゴンザレスさんと一緒に、ゴミがおもしろいことになっているという話を聞いて、福岡県にある株式会社紙資源という古紙回収の大手の会社を取材させてもらいました。
速水:回収された資源ごみがその先どうなるんだろうという話ですよね。
岸田:トラックとかパッカー車と呼ばれる車で古着や古新聞、雑誌なんかが回収されるんですが、1回この福岡にある工場に運ばれて、紙は粉砕機という機械にかけられて細いフレーク状にして、古着なんかは圧縮して、ベールと呼ばれる500キロから700キロぐらいの2 m四方の塊のようなブロック状にされるんですね。紙も最終的に圧縮されて、これをコンテナに積み込むんです。そしてそれらは多くが東南アジアに向かいます。古紙に関しては、今回はフィリピンのマニラにある製紙工場まで追いかけて行ったんですが、日本で積み込まれたこの塊がフィリピンの製紙工場に運ばれて、そこで原料として混ぜられて、もう1回新しい段ボールや板紙になっていくというのを見ました。
速水:紙外に、例えば古着はどうなるんですか。
岸田:古着の場合はマレーシアのジョホールバルという第2の都市に運ばれるんですけれども、ここに巨大な古着の選別工場がありまして、雑多に圧縮された状態の古着がベルトコンベアーで運ばれてきて、全部人手で分別されていくんですね。例えば男性用のジーンズ、女性用の T シャツというように、約200種類の品目に分けられて、もう1回商品に生まれ変わるんです。
速水:これはそのままマレーシアで売られるものが多いんですか。
岸田:マレーシアからタイに行ったりとか、カンボジアに行ったりします。
速水:冬用の古着は向こうで必要ないわけですよね。
岸田:一部売れる地域もあるらしいんですけれども、需要が少ないということでこういうのがまず避けられるんですね。
日本から来た古着には特別な価値が
速水:そして日本で使われていたものは別扱いになるんだそうですね。
岸田:中国から来たもの、韓国から来たもの、日本から来たものとあるんですけれども、衣類自体はメイド イン チャイナであっても、日本で使われたものは特に価値が高いとされているんですね。やっぱり日本の消費者が丁寧に使って、まだ痛んでないのに捨ててしまうというのがあるので、古着を商品としてみた場合に非常に状態が良いんです。
速水:つまり日本人は何度か着ただけで服を捨ててしまうということの裏返しでもあると。
岸田:そうですね。非常に綺麗な、まだ着れるものがどんどん古着として市場に出てきているんです。特に東京の都心で回収されたものが一番人気なんですけど、若者が多くてデザインが新しいものが割合たくさんあるので、そういうのは売りやすいということなんです。
速水:流行が早くて、ファストファッションの商品なんて2~3回着たらもう流行過ぎちゃっているからと、リサイクルに回したりするということですよね。古着と言うと日本ではヴィンテージとか、別の価値が入ってきますが、あまり着られていない方が価値があるということですか。
岸田:そうですね。普通に新品を買う場合もあるし、古着でいいものがあったらそれを買って着ようということで、結構庶民の間では古着というのは単に日常の衣服としても使われているということです。
片方だけの靴でも売られている
速水:ちなみに向こうではどのくらいの値段で再販売されてるものなんでしょうか。
岸田:意外と高くてびっくりしちゃったんですが、ポロシャツとか短パンが200~300円ぐらいで販売されています。水着とか下着も売り物になっているし、片方しかない靴とかでも、アディダスとかナイキのようなブランドものであればちゃんと商品として販売されているんですね。
速水:片方だけでも売れるんですか。
岸田:売れるんですね。もう片方探している人がいるだろうということでしょうか。
速水:また、日本の不用品となった家財がフィリピンへ輸出されてオークションに掛けられているところも取材されたそうですね。どんなものがオークションされているんでしょうか。
岸田:日本では粗大ゴミとして出された家財がセリにかけられているんです。変わったものでは松葉杖とか、剣道の防具とかもありますし、あと壊れた冷蔵庫、テレビ、あらゆるものが売られています。
速水:日本では不用品として出されたものがオークションされるということは、買う人がいて、さらにそれが店頭に並ぶということですよね。例えば売られているものの中で、岸田さんが驚いたものがありますでしょうか。
岸田:掃除機のホースだけが売られていたりとか、遺影ですね。
速水:掃除機のホースは、それだけだと使い道ないですよね。
岸田:壊れた掃除機を直す時の部品取りとして使うようです。
速水:そしてもっと謎なのが遺影。亡くなった人の写真ということですよね。
岸田:はい。仏壇とか床の間に掛けてあるようなものなんですが、これは額縁だけを使うのか、それとも遺影として使うのか、それは買った人にもよるということなんですけど、アンティークの日本的なものとして、インテリアとして使うんだというのも聞いて、ちょっとこれは驚きました。
速水:まずなぜ廃棄されたのかもちょっと不思議な所ありますが、そんなものもあったということですよね。他には何かありますか。
岸田:そうですね。ランドセルとか、高校の部活の野球のユニフォームとかですね。名前が書いてあるものとかが普通に売られています。サインペンで名前が入っているものの方がちょっとプレミアが付いていたりとかするんです。それもやっぱり日本で使っていたものということで、本物の野球のユニフォームということなんです。みんなが野球をするというわけではなく、やっぱりファッションとしてかっこいいから買うということですね。
速水:それもまあわからなくもないんですけど、いくらぐらいで売っているんですか。
岸田:オークションの場合は、小さいものは一カゴいくらで売ってるんですね。例えば時計だったら大量の掛け時計が巨大なザルに10個も20個も入っていて、それを地方の業者さんが買って、直して売るということなんです。さっきの掃除機のホースも、多分電気屋さんが買うんですね。
速水:じゃあ一般ユーザーが買うまでの間には、修理が入ったり、そこにアンティークという価値を入れたりするようなところがあるんですね。今回は九州の紙資源という会社の取材レポートの話でしたが、東京で僕らが出している資源ごみなんかも同じように東南アジアに行っているんですか。
岸田:そうですね。地域によって流通の形態は違うんですがいろいろあります。やっぱりゴミ箱に捨ててしまうと燃やされるか埋められてしまうんですけど、資源回収という形のルートに乗ると、こういう形で国内、または海を渡って海外に行くという流れになるようです。
分別すれば不用品も違う場所で再び価値がうまれる
速水:最後に、この東南アジアに日本の粗大ごみ資源ゴミが流れていている取材を通して感じた事ってありますか。
岸田:こんなものが売れるんだということに驚きました。現地で「こんなのが売れるの?」ということを聞くんですけど、売れないものはないと。売れるか売れないかは私たち買うほうが決めるので、とにかく送って下さいという話が印象的でした。
速水:なるほど。僕らは不用品として出すんですけど、それは場所が変わればまた価値が変わってくるということなんですね。
岸田:それはゴミ箱に捨てるのか、資源回収に回すのかという、私たちのちょっとしたひと手間に委ねられているということなんです。
速水:これに携わっている業者の方のイメージというのも随分変わったんじゃないですか。
岸田:はい。産廃業者とか不用品回収というと、ちょっと怖いとかブラックなイメージを持っている人もいらっしゃると思うんですが、0の価値を1に戻すという非常にクリエイティブな仕事だと感じました。
速水:今日はフロントラインプレスの岸田浩和さんにお話を伺いました。ありがとうございました。