投開票まであと11日 アメリカ大統領選レポート

2020年10月21日Slow News Report


 今すぐ聴く 


速水:大統領選投開票まであと11日ということで、今日は現地アメリカでこの選挙戦の取材を続けるジャーナリスト、横田増生さんのリポートです。横田さんといえばユニクロへの1年間にわたる潜入ルポ、そしてアマゾンへの潜入ルポもありましたが、去年からはミシガン州で大統領選の取材をしています。まずは最近の大統領選の状況はいかがでしょうか。


バイデン候補が支持者を集めることを控える一方トランプ陣営は

横田:直近ですと、トランプ大統領は10月17日にミシガン州の西部で支援者集会をしました。だいたい2000人くらい集まりました。小さな空港の中に席を作って、ぎゅうぎゅうづめで動けないくらい人が入っていましたね。

速水:横田さんはなぜミシガン州で取材をしているんでしょうか。

横田:去年12月、民主党の予備選挙が始まる前から取材をしているんですけれども、ミシガンで取材をすることにした理由は、2016年の大統領選挙の際に激戦州の一つで、トランプが0.2ポイントという僅差でヒラリー・クリントンに勝った州であるということで、そこから2020年を見てみるのは面白いかなと思ったからです。

速水:12月に渡米されたということは、その直後1~2月から今のコロナ禍になって、なかなか思うように取材が出来なくなってしまったのではないですか。

横田:そうですね。3月にトランプ大統領が緊急宣言を出して以降はなかなか動きづらく、民主党党大会や共和党党大会なんかも全部マスコミはシャットダウンという中で通常の取材が出来なかったなという感じはあります。ですが、そのぶん各々のジャーナリストがテーマを見つけて取材していかなければならなくたったので、元々僕はそういうのは嫌いじゃないし、かえって良かったのかなという気もしております。

速水:なるほど。一方のバイデン陣営の集会もミシガンで最近行われて、取材されているんですよね。

横田:バイデンは10月1日にミシガン州グランドラピッズという場所に来ました。バイデンは集会の場所を初めからは明かさないんですね。明かすと支持者やマスコミが集まってしまいます。だから特定のマスコミだけを連れてバイデンは選挙活動をして歩いています。この前のドライブ・イン・ラリーとかはだいぶ特別な例で、基本的に支持者には開放せずにマスコミだけに開放して、それを流すことによって選挙活動をしています。トランプみたいに支持者をびっちり集めるということを一番最後にバイデンがやったのは、3月の、これもたまたまミシガン州なんですが、予備選挙の日が最後だったと思いますね。

速水:それぞれまったく逆のやり方で今集会を行っているわけなんですが、トランプ、バイデン両陣営の支持者を取材されて見えてきたものってありますか。

横田:まあそれぞれの支持者は「同じアメリカ人なの?」というくらい言うことが違うんですけれども、トランプ陣営はなんとしてでも経済活動を再開したい、コロナなんて何するものぞというような感じです。バイデン陣営は支持者に黒人の割合が多いのですが、黒人の方が白人より3倍コロナに感染しているので、彼らは非常にコロナに対して敏感なんです。取材の際、お互いマスクしているのに「ちゃんと6フィート離れてね」というような言い方をするんです。でもトランプ陣営の取材に行くと、がっちり握手しちゃうんです。


マスクを付けないことがトランプへの“忠誠”の証に
速水:横田さんが取材されたトランプの集会では、マスクをつけている人達ってどのくらいの割合なんですか。

横田:先ほどお話した集会ではせいぜい2~3割でした。屋外の集会ではあったんですが、ミシガン州ではマスクをつけるのは必須ですので、その中で2~3割というのは本当に少ないなと思いました。

速水:トランプの支持者たちはコロナの感染状況に関してどう捉えているんでしょうか。

横田:トランプ支持者も幅広いんですけれども、本当にコアなトランプの信望者たちは未だにコロナは嘘だと思っています。22万人が亡くなっていますけれども、この数字もトランプの足を引っ張るために政府機関が勝手にかさ上げしたものだと言うんです。トランプ支持者には白人が多いのですが、白人はコロナにはかからないと思ってるんじゃないかと取材をしていて思いました。

速水:いろんなところでトランプ支持者の取材をされてると思いますが、例えばミシガン州の州知事さんは女性で民主党ですよね。そこへの反発みたいなものって支持者の間では大きいんでしょうか。

横田:ありますね。ミシガン州知事ウィットマーという女性の知事とトランプは犬猿の仲で、コロナが始まった3月くらいからツイッターで喧々諤々のやり取りをしています。その中でトランプは「ミシガンの州の経済を解放せよ」みたいなことを言うわけですが、民兵たちが州議事堂に集まって「ロックダウンを解除しよう」みたいな集会を2回ぐらいやりましたね。

速水:横田さんはある理髪店に取材に行かれたという話もしていましたよね。

横田:ミシガン州でロックダウンで理髪店でもずっと開いていなかったわけですけれども、4月に理髪店を開けた77歳のおじいさんがいたんです。ミシガン州としてはそれをやめろと言っていたんですが、そこにトランプ支持者達が集まるわけです。つまり、経済をロックダウンするのは民主党、経済を活動させるのは共和党だから、経済を活動させようという理髪店には共和党支持者は集まるんです。そこで30人くらい髪を切ってもらうために待っているんですが、マスクは誰もしていませんでした。僕も6時間ぐらい待って切ってもらったんですが、待ってる間、この店を閉めさせるために警察が来るという噂が待合室に流れたんです。するとみんなマスクを取り出してつけ始めるんです。だからマスクを持っていないんじゃなくて、つけないんですね。日本にいると分かりづらいと思うのですが、つけないことがトランプへの忠誠みたいな感じがあるんです。


保守系メディアの影響

速水:先ほど白人にはコロナはかからないと思っているんじゃないかみたいなお話がありましたが、そういう人たちはどのような情報源でそういうことを思うんでしょうか。

横田:フォックス・ニュースというケーブルテレビのニュース番組がありまして、そこはトランプ支持者たちが集うニュース番組なんですが、そこではマスクをしてもコロナを防げないみたいなことを情報番組として流すんですよね。ニュース番組というかトーク番組みたいな感じですね。それに似たようなラジオ番組もあるんです。

速水:トランプの熱狂的支持者たちの声というのも取材されているということなんですが、彼らの言葉の中で印象的だったものにはどんなものがあるでしょうか。

横田:最近聞いた中では「トランプの再選はどのくらいの可能性がある?」とある支持者に聞くと「100%再選する」と断言していましたね。こういう状況で100%はなかなか難しいんじゃないかと思いながら聞いてたわけですけれども、また別の支持者は、トランプはよく“フェイクニュース”って言うんですが、「フェイクとフェイクじゃないニュースはどうやって見分けるの?」と聞いた時に、それはトランプが発するツイッターが本当で、それと違うのがフェイクだと言うんです。でもトランプは就任以降2万回ぐらい嘘をついたとワシントンポストなんかはファクトチェックをして言っているので、にわかには信じがたいんですけども、彼らはもう信者なんでまともには話が通じないですね。


トランプ支持者には「キューアノン」を信じる人も

速水:横田さんは「キューアノン」を信じる陰謀論者の人たちも取材しているそうですね。

横田:そうですね。二人ぐらい会いました。一人は今年の1月に、トランプの支援者集会で前日の真夜中から待っている人に取材をしたんですが、トランプはキリストの生まれ変わりたみたいな話をするわけですよ。はじめなんのことを言ってるのかわからなかったんですが、後々キューアノンが報道されるようになって気づきました。もう一人は 9月にペンシルベニアの支援者集会で取材した時に、「トランプをどうして支持するのか?」と聞いたら、人身売買の禁止に力を入れているからという女性がいたんです。後で彼女のフェイスブックを見ると、キューアノンの情報で溢れていました。その後何度か電話をしたんですけれども取材には至っていません。

速水:キューアノンは横田さんが12月に取材を始めた頃は今ほど注目されていなかったわけですよね。

横田:そそうですね。一番注目され始めたのは第2回の討論会があるはずだったときに、トランプはタウンホールミーティングに出ていたんですけれども、「キューアノンを否定しますか?」と司会者から聞かれて否定しなかったんです。そこからこの1~2週間あたりに急にメインのメディアに大きく現れるようになってきました。

速水:そもそも「キューアノン」とはなんぞやというところもお話しいただいていいですか。

横田:キューアノンというのは民主党が子どもの人身売買をしていて、それを救うのはトランプであるという話です。2017年くらいから出てきました。集会に行くと胸にQという文字を入れていたんですけども、最近は入れてないですね。まあ相当ネガティブにメインのメディアはとらえますので、彼らにキューアノンのことを取材しようとするとガードが上がりますよね。

速水:キューアノンは人身売買に裏側で民主党が関わっているんだという陰謀論なんですが、こういう問題にトランプ本人がたちち向かっているんだということは全然ないわけですよね。トランプ自身もそんなこと言ってないですよね。

横田:人身売買の禁止にいくつか尽力したことはあるんですが、それはどの政権もやっているのと同じで、別にトランプがやっているというわけではなく、陰謀論者がこの話を作り上げたということですね。

速水:これを信じている人たちというのはどんな人たちなんでしょうか。

横田:トランプの支持者というのは9割が白人なので、この人たちもほとんど白人なんですけれども、実際に会ってみると普通なんです。だけどその人のフェイスブックを見ると、びっくりするような情報が書いてあるんです。例えばブラジャーのタグには GPS が付いていて、あなたを追跡できるようになっているから、今すぐタグを切りなさいみたいなことを言うわけですよ。どうしてこのキューアノンが問題になるかというと、トランプがもし負けた場合に、この人達が何か国内でよからぬ事を起こすんじゃないかということが懸念されているからです。

速水:ちょっとにわかに信じられないような事なんですけど、これはツイッターでそういう発言をしていて、日常の会話の中でそういうことばっかり言っている人たちでは決してないということですよね。

横田:そうですね。決して情報弱者とかそういう話ではなくて、アメリカの特殊なニュースサイトの中でそういう話にはまってしまった人たちというような感じですかね。

速水:キューアノンを陰謀論だということではない方向で論じるメディアもあるんですか。

横田:例えば保守系のフォックス・ニュースとかは「キューアノン」という言葉は使わないですね。キューアノンという言葉自体にネガティブな意味合いが含まれているので、人身売買はいかんよねという話で言ってくるんだけれども、キューアノンをサポートしているニュースに過ぎないということですね。


大統領選挙の勝敗は?

速水:なるほどメディアが後押ししている部分もこれありそうですね。最後の質問ですが、大統領選の行方って今後どうなりそうでしょうか。

横田:今のままでは8~9割方バイデンが勝つでしょう。今全国的には8ポイントから10ポイントぐらいまで差は広がっています。このままで行くと 大差で勝つバイデンが勝つということもありうるんじゃないかと思ってます。

速水:わかりました。今夜は大統領選挙直前のアメリカから、ジャーナリスト横田増生さんに伝えて頂きました。ありがとうございました。