大統領選を動かすZ世代・ミレニアル世代

2020年10月22日Slow News Report


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速水:今日は浜田敬子さんとお送りします。今夜のテーマは「大統領選を動かすZ世代・ミレニアル世代」です。2週間後の11月3日は大統領選、トランプ大統領が再選を果たすのか、民主党が4年ぶりに政権を奪還するのか注目されているんですが、今日はこの大統領選とアメリカの若い世代の話をお伺いします。このZ 世代、またはミレニアル世代は同じ若い世代ということなんですか。


政治への意識が高いミレニアル世代とZ世代

浜田:ちょっと年齢が違うんです。ミレニアル世代というのはだいたい1980年から93年生まれの人達で、今は大体24歳から40歳手前くらいの人をミレニアル世代といいます。Z 世代というのはそこより下の世代で、まさに今十代から二十代前半の世代です。Generation Zと言われたりします。

速水:ジェネレーション X 、Y と出てきていて、最近言われなくなったなと思ったら新しい世代が Z 世代なんですね。逆にもっと上の世代はブーマーといういわれかなんかもしていますが、アメリカの解釈だと日本の団塊の世代と違って幅広く50歳位でも入っていますが、そこのある種の世代間の違いみたいな事を今日お伺いします。例えば大統領選の支持政党をめぐって家族内でも別れてしまうみたいなことがあるそうですね。

浜田:そうなんですよ。話題になったのがケリーアン・コンウェイというトランプ大統領の側近として前回の大統領選の前からずっとついてきた女性の娘、15歳のクラウディアさんという人です。彼女は別に著名人ではないんですけれども、 ツイッター のフォロワーが50万人、 TikTok 85万人くらいフォロワーがいるインフルエンサーなんですね。その娘さんがお母さんの政治姿勢をボロクソにツイッター で言うんですよ。自分の家は地獄のようだとか、マジでどうかしてるとか、どう表現していいか分からないとか、この家から本当に家出したいとかですね。そういうことを ツイッター でつぶやいて、ものすごく若い世代に共感を得ているんです。でもこれってでもケリーアン・コンウェイの家だけじゃなくて、結構多くの家で見られると私のアメリカの知人なんかは言うんですね。つまり親世代と子供世代が大きく政治に対しての感覚が違っていて、それが結果的に親はトランプ支持だけど子供世代はバイデン支持と、すごく政治的に対立してしまっているという一家が結構多い。親子の間で政治の話すと喧嘩になるというようなことまで言われています。

速水:日本で考えると10~20代は政治への関心が薄いということはよく言われますよね。投票率見てもそれは明らかです。ただアメリカでは非常に政治に関心が向いているということですか。

浜田:そうなんです。それは今回の大統領選の前からなんですけれども、例えば2018年の中間選挙でも銃規制の問題なんかで高校生が800万人以上集める全米でデモをやったりしていますよね。彼らの世代というのはどんどん白人の比率が低くなっていて、人種的に多様なわけです。友達に黒人の人もいればアジア系もいるしヒスパニックもいるという中で、多様性をポジティブに受け止めているんです。その人達が、例えば黒人に対しての暴力問題みたいなことを見た時に、多様性を自分たちの価値観だと思って受け入れているのに、こんなにひどいことが起きているということで怒りに火がついた。こういう社会はよくないということでブラックライブズマターという運動に、特に若い人たちが多く参加したんですね。写真を見ても分かるんですけれども、決して黒人の人達だけじゃなくて、幅広い人種の人、特に白人の若い人たちが積極的に運動に参加したというのは象徴的で、結果的に人種差別をさも肯定しているような形になっているトランプ大統領への批判ということに結びついているのかなと感じます。

速水:アメリカだと赤い州、青い州みたいな言い方で、大都市を抱えている州はリベラルで民主党支持者が多く、郊外というか農村部なんかは赤い州、つまり共和党支持というように、都市部と非都市部で分かれていますよね。若い世代は都市部、非都市部に関わらずリベラルな傾向があるんでしょうか。

浜田:もちろん保守的な地盤に関しては、例えばカリフォルニアとかニューヨークに比べれば若い人も共和党支持者は多くなるとは思うんです。でも全般的には、やっぱり世代が若くなればなるほどリベラルな傾向が強くなると言われています。今年の1月の調査なんですけれども、全米で18歳から23歳でトランプの働きぶりを認めると答えた人たちは22%しかいないんですよね。40歳から55歳では42%が認めると言っているので、その半分ですよね。


回復していたアメリカ経済の恩恵を受けられない若い世代

速水:トランプ大統領がこの四年間やってきて、経済政策に関して本当に効いたかどうかはともかくとして、経済は悪くなかった部分はありあすよね。

浜田:そうですね。失業率とか株価はそうですよね。

速水:その直接の影響を受ける世代は中高年以降で、若い世代はあまり影響を受けない。そういうことはあるんですかね。

浜田:逆に経済がいいにもかかわらず、自分達は何でこんなに苦しいんだ?と感じていると思います。例えばバイデンと最後まで競った民主党の候補、サンダースさんの主張というのはかなり社会民主主義的な主張で、奨学金で苦しんでいる人の奨学金返済を帳消しにするみたいな政策があったわけです。今、多くのアメリカの大学生は高い大学の授業料を支払うために奨学金を借金して通うわけです。そして働きだしても借金を返すことに苦労している。就職がうまくあればいいけれども、ない人もいるというような、若い人たちが経済全体の恩恵を被れていないんだと思うんですよね。それは日本でも同じ傾向があるし、ヨーロッパの若い人たちにも同じ傾向があるんです。ここ数年よく言われているように「資本主義の限界」「ポスト資本主義」みたいなことの構築が必要じゃないかというようなことは若い世代ほど切実に感じていて、自分たちが格差の下の方にいると、どんなに努力してもなかなか克服できないというようなことを「資本主義の矛盾」としてとらえているのかなと思うんです。それで資本主義の権化のようなトランプ大統領の政策、強いものがどんどん稼いでいくような政策に対しては非常にアンチを主張している傾向がありますよね。

速水:なるほど。授業料の問題、そして先ほどの人種問題なんかのように、中高年以降が関心を持ちにくいテーマっていくつかあるなと思うんですけれども、もう一つ環境問題も若い世代特有の感覚の違いみたいなものを感じるテーマですよね。


Z世代と環境問題

浜田:そうですよね。これはもうアメリカに限らず、ヨーロッパの若い人たちも、今一番関心のある社会問題は何かというと、やっぱり気候変動なんですよね。この気候変動に対してもトランプ大統領は対策について後ろ向きですよね。やっぱりそこでもトランプ大統領とは主張が合わないわけです。

速水:去年あたり、ニューヨークで古着デモという若い人のデモが開催されていたんです。これも先ほどおっしゃったような資本主義の行き過ぎに関するもので、大量に水が使われているとか、安いファストファッションのために東南アジアで劣悪な労働環境で働かされている人がいるみたいな話が出てきて、みんな新しい服ではなくて古着を着るんだということを環境問題の一環としてやっている。それも完全に10代、20代が参加しているんですよね。

浜田:去年グレタ・トゥーンベリさんが国連で演説をした時に、全世界で気候変動に対するデモがありました。日本は数千人規模だったんですけど、ニューヨークとかベルリンとかでは20万人とかデモに参加している。それはほとんど若い人たちが企画をしたデモと言われていますよね。やっぱり自分たちの将来に地球環境がどうなっていくのかというのは、当然ですけど若い世代の方が切実ですよね。

速水:まあ捨て逃げというか、環境を悪くして逃げてしまう世代と、これからそれに直面する世代では切実さが違うというのは当然なのかもしれないですけど、若い世代ほどシビアに捉えていますよね。

浜田:本当にそう思いますね。


若い世代の政治意識とテイラー・スウィフト

浜田:たくさんメッセージをいただいているのでちょっと読もうかと思います。「娘が2006年生まれなので Z 世代育成中といったところでしょうか。ツイッターも親の私がデビューが遅く、ツイートを始めたらやたらと“いいね”をくれる人がいたのですが、つい最近それが娘だということを知りました」

浜田:(笑)仲良しですね。

速水:“いいね”をお互いやり合うって、友達同士のコミュニケーションとして若い世代は当たり前だったりしますが、親としては娘に“いいね”ってされて、ちょっとびっくりするみたいなね。ちなみに今かかっている曲は「Only The Young」テイラースウィフトですが。

浜田:これ Netflix のオリジナルドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」というテイラー・スウィフトのドキュメンタリーの中でこの曲がすごくキーとして流れるんですね。これはどういう時に作った曲かというと、2018年の中間選挙で、彼女はそれまでずっと政治的な発言を控えてきたんです。

速水:若い世代には、自分たちのアイドルの政治意識がどう発信されるんだろうと関心を持たれてましたよね。

浜田:彼女は中間選挙の前に「私は民主党系の候補者に入れる。みんなも投票に行ってね」ということをインスタグラムで明らかにするわけですけれども、なぜ彼女がその時明らかにしたかというと、当時テネシー州から出ていた共和党の女性の候補者は、例えば男女の賃金格差を規制する法に反対していたり、同性婚に対しても反対の立場だったり、非常に保守的な考え方だったんですよね。そんな彼女が当選して本当にいいの?とテイラーが呼びかけた。それで一晩で7~8万人が有権者登録に行ったというくらい影響力があったんですけど、それでも民主党候補が負けてしまった。彼女はそこで失望するわけですけれども、その後にこの曲を作って、「若い世代だけが走って将来に行けるのよ」という意味を込めた曲なんです。作っている過程がドキュメンタリーに出ていたんですけれど、もすごい印象的な曲ですよね。


SNSを駆使して戦うZ世代

速水:インスタグラム の話が出てきましたけれども、若い世代にSNS の話は欠かせないのかなと思うんですが。

浜田:この世代の特徴、特に Z 世代ですけれども、いわゆるデジタルネイティブ世代で、ツイッターだけではなくインスタグラム、 TikTok など、ありとあらゆる SNS を駆使して、それが一つの武器になっているわけですよね。あっという間に情報を伝播させて、ネットワークを作って連帯を作れる。例えばブラックライブズマターなんかも、ニューヨークの知り合いのジャーナリストは、どこでどういうデモが行われるかというのを知るのはインスタグラムなんだそうです。だからみんな私と同世代のジャーナリストたちはインスタグラムを一生懸命見つけて、そこでデモの情報が拡散されるというのを見ていくと。もっと面白かったのは、6月にトランプさんが開いた政治集会があるんですけれども、トランプさんは事前に100万人登録してる、こんなに支持を集めているよと言っていたのが、実際に開いてみたらガラガラだったという事件があったんですよね。それはTikTok でトランプのこの集会を予約しようぜという呼びかけがあって、100万人いたように見せかけたんですけれども、でもそれは架空の予約で、実際は行かないわけですよ。これは若い世代たちが反トランプの行動として行ったと言われているんですけれども、「こんなことをするなんてモラルに反している」と大人達は言いました。でも「やってやったぜ」というようなことが若い世代にはあって、こうやってトランプ大統領がフェイクニュースを拡散するのに対して、僕たちはこうやって戦うという一種の姿勢なのかなという感じはしました。

速水:日本でも選挙戦でSNSは使われるんですけど、どうしても情報発信みたいな感じで、使う範囲が限られていますね。想像力ってそういうものだと思うんですけど、武器にして使うというのは、発信だけではなくて非常に応用のしようがあるんだよということなんですね。

浜田:そうなんですよ。リアルの世界にまで影響を及ぼすという、実際にそれが起きたわけですけれども、そこまでやるのが今の Z 世代だったりミレニアル世代なのかなと思いますね。


日本のZ世代は…

速水:アメリカと日本との比較みたいなところも伺いたいんですが、アメリカではリベラルで、 SNS なんかも使いこなしている世代と政治が密接になっている。でも日本だと逆で、何でも反対する野党が若い世代にはネガティブに捉えられている。どうしてこんなに違うのかと思うんですが、何が違うんでしょうか。

浜田:一つ共通している部分もあると思うんです。例えば資本主義に対して懐疑的なところ、例えば格差がこんなに開いていっていいの?とか、僕たちはお金のために働くよりも自分の幸せだったり、地域社会に対して貢献したいみたいな意識というのは日本の若者にも実はすごく強いんです。また、一人勝ちしないみたいな感覚もあって、いわゆるシェアリングエコノミーといわれるように、所有しないでシェアしようみたいな意識も実は日本の若者にも強いんです。でも一つ大きく違うのは、7年8ヶ月という安倍政権の長期政権しか知らない世代なんですね。今の大学生に聞くと、安倍さん以外の首相はもうほとんど記憶にない。その影響というのはすごく大きくて、その間は意外と就職も良かったし、世の中安定していたから、これがデフォルトになっている。だからなぜ反対する?のというわけなんです。

速水:民主党政権時代が非常にひどかったということが神話みたいになっているところがありますよね。実は、彼らにとっては記憶にない時代のことなんですが。

浜田:そうなんです。自分たちがすごく被害を受けているわけでもないし、記憶にないけれども、例えば先輩達がすごく就活で苦しんでいたという。でもそれは、実はリーマンショックの影響で、民主党政権の影響じゃなかったかもしれないですよね。でも安倍さんが首相になって、「あの悪夢のような民主党政権に戻ってもいいんですか?」と言うと、「ああ、そうなんだ」と思っている若い世代が多いんですね。ですから、政権が長く続いたという影響も一つあると思います。でもアメリカの場合は、オバマ政権からトランプ政権に変わった。この変化はものすごく大きいじゃないですか。その変化をまともに体感したのが今の10代、20代なわけですよね。だから今、行動を起こし始めているのかなと思います。

速水:そして政治へのコミットということを考えた場合、投票行動=政治ということだけではなく、日本なんかでもそうなんですけど、消費選択をすること自体が政治選択と結びついているんだという考え方が非当たり前になっているところがありますよね。

浜田:そうですね。私はもっと若い人たちは消費行動を通じて自分の意思を表明した方がいいと思います。アメリカの若い人たち、ヨーロッパの若い人たちはすごくそれが顕著で、例えばブランドを選ぶときに「このブランドは環境に配慮しているか」とか、先ほど速水さんがファッション業界の話をされましたけれども、例えばエバーレーンというブランドなんかは廃棄プラスチックを使ったコートを作っている。パタゴニアなんかもすごく人気ですよね。そういったブランドは、何を理念としているのか、この商品は環境にいいのかとか、不当な労働搾取をしていないかとか、そういうことを見られるようになっています。それによって消費行動が変わるので、企業も若者の言うことを聞かざるを得ないわけです。さらに言えば、 Z 世代とかミレニアル世代は人口が多いので、当然消費者としてすごく大事にしなければいけない。日本の若者がちょっと不幸なのは、やっぱり人数が少ないから、パワーになりにくいのはあるんです。でも投票という行動だけではなく、消費を通じて企業を選ぶということはできるので、やっぱりその行動はもっと自覚的に行った方がいいかなと思います。

速水:それこそ人種差別に関して何も発しない企業がボイコットされてしまうようなことも起きています。そうなると自分たちの企業は政治と関係ないと言っていられないわけですよね。日本だと、どうしても物を買うのは団塊ジュニア世代だから、やっぱりそこの世代に企業の側も合わせたマーケティングをする。それが自分たちの力を持ち得ないと感じてあきらめちゃっている部分があるのかもしれないですね。

浜田:でも実は持っていると思った方がいいですよね。投票権ももちろん今18歳からだし、消費行動を通じても意見表明できる。自分たちは声を出せると思った方がいいんじゃないかなと思います。

速水:ある種政治って声の大きさみたいなところが今まであったんですけど、ツイッターとか SNS はその大きさとはちょっと違う主張の仕方なんかもあるのかなと、それが新しい世代のある種のエンパワーメントの可能性もあるかなと思いました。今夜は「大統領選を動かすZ世代・ミレニアル世代」について浜田桂子さんと議論しました。